
エンジンで生まれた駆動力を後輪に伝えるドライブチェーン。バイクにおける代表的なメンテナンスポイントで、状態が悪化すると様々な不具合が発生します。ドライブチェーンにおけるメンテナンスは清掃、注油、たるみ調整がありますが、ここでは基本となる清掃と注油について解説します。比較的手軽にできるうえにマメにする必要があるメンテナンスだけに、ぜひ覚えて実践してみましょう。
目次
清掃・注油をする理由
そもそもなぜチェーンの清掃と注油が必要なのでしょうか。チェーンはローラー、プレート、ピンで構成されており、それが滑らかに動くようにしたりシールチェーンにおけるシールリングの劣化防止し、プレートやローラーのサビを防ぐためにチェーンオイルが塗布されています。しかし走るほどこのオイルにゴミやホコリが付着してしまいます。チェーンの汚れは見た目が悪くなるだけでなく抵抗となり、せっかくエンジンが生み出した駆動力をロスすることになり燃費も悪化します。実際チェーン(ホイール)を回しながらチェーンクリーナーを吹き付けると、汚れが落ちるに従って回転抵抗が減るのを体感できるはずです。清掃すると汚れとともにチェーンオイルも落としてしまうので、清掃とセットで注油が必要となります。またチェーンオイルは遠心力で飛び散ったり雨で流れてしまうため、汚れていなくても注油は欠かせません。抵抗低減のためなら注油だけすればいいと思うかもしれませんが、上記したように汚れがあるだけで抵抗が増えますし、油分を追加すると更に汚れを呼び込むことになります。また注油はチェーンの細かな隙間に対して行なうので、そこに浸透しやすくする意味でも清掃は大切なのです。
清掃・注油の頻度
理想論としては一度乗ったら毎回実施です。少しでも汚れたら清掃・注油し、汚れていない状態を保つことが一番性能を発揮でき寿命も延ばせるからです。ただこれは現実的ではないので、まず走行したシチュエーションで考えます。オフロードを走れば酷く汚れるのは当然で、雨の日に走ればチェーンオイルが流れてしまいます。こういった状況で走ったならすぐ清掃・注油を実行しましょう。そうでないなら、例えば500km、1000kmごとと頻度を決めて実施するか、こまめにチェーンの状態をチェックし、汚れていたり触っても手に油分が付かない(油分が切れている)となれば実行するようにします。イメージより頻繁なメンテナンスが必要になると思ったかもしれませんが、清掃・注油をこまめに行うことでチェーンおよび対となるスプロケットの寿命を延ばすことができます。それらの部品代と交換工賃は馬鹿にならず、チェーンの劣化はバイク本来の性能をスポイルしてしまうので洗浄と注油はサボりたくないのです。
必要な道具
チェーンクリーナー
愛車のチェーンがシールチェーンであるなら、必ずそれに対応した製品を選ぶこと。非対応品だとチェーン内にグリスを封入しているシールリングを傷めてしまいます。チェーンがどちらかわからないなら、シールチェーン対応品を選びましょう。
EK(江沼チヱン)のチェーンクリーナー。チェーンメーカーが作るシールチェーン対応品なのでどんなチェーンでも安心して使えます。
チェーンオイル
チェーンオイルにはウェットタイプとドライタイプがありますが製品として多いのはウェットタイプで、これは低粘度で浸透性が高く掃除がしやすいメリットがある一方、飛び散りやすく耐久性は劣ります。ドライタイプは耐久性が高く飛び散りにくいのですがチェーンクリーナーでも落としにくくメンテナンス性では劣ると言えます。好みやバイクの用途次第ですが、初心者ならウェットタイプをおすすめします。
モトレックスのチェーンルブ。ウェットタイプですがスプレー後30分するとグリス状に変化します。
こちらは円陣家至高のチェーンオイルC.P.O R。1コマ1コマオイルを注して使います。
ウエス
汚れや余分なチェーンオイルを拭き取るために使う必須アイテム。汚れると洗濯しても汚れが落ちないので使い捨てのペーパーウエスがおすすめです。
使い捨てのペーパーウェスは非常に便利です。ティッシュ等を使うと、ちぎれて汚くなってしまうので注意。
ブラシ
汚れをこすり洗いすため柔らかい毛(金属製は不可!)を使ったブラシも用意しよう。チェーンの三面が一度に擦れるチェーン専用ブラシが理想的。
チェーンの掃除に使う三方ブラシとスプロケット周辺の清掃に便利な毛足の長いブラシを組み合わせたチェーン専用ブラシ、デイトナ製。
段ボール・クラフト紙
汚れや薬剤が車体に付着しないようカバーするクラフト紙かダンボールと、その下に置いて汚れを受け止めるバットも用意したいところ。車体と床の汚れを防止できます。
メンテナンススタンド・ローラースタンド
センタースタンドが無い車両であれば、これらがあるとチェーンを動かす都度に車体をずらす必要がなくなり作業効率は大きくアップします。効率が上がれば清掃・注油をしようという心理的ハードルが下がるのでおすすめです。
メンテナンススタンドは値段が張りますが、チェーン以外のメンテナンス等にも使えて便利。こちらは人気のJ-TRIP製。
チェーンのメンテナンスだけを考えたらローラースタンドが使いやすさ、価格の面でおすすめ。これはデイトナの製品。
清掃の方法
スタンドを使いリアホイールを自由に回せるようにすると効率アップ。
作業は安全のため平らな場所で実施します。センタースタンドやメンテナンススタンドを掛けるかローラースタンドを車体にセットし、後輪が自由に動く状態にしてから作業スタートです。スタンド使用時は車両を転倒させることのないよう、平らな場所でしっかり車両を支えられた状態を確実にすることが必須となります。
チェーンの清掃と注油はブラシやスプレーノズルの届きやすい場所=輪になったチェーンの下側、エンジンとリアホイールの間で行うので、チェーンクリーナーやチェーンオイルがホイールやタイヤにかからないようチェーンとの間にクラフト紙やダンボールを入れ養生します。チェーンオイルはもちろん、チェーンクリーナーで溶かした汚れには油分が含まれており、それがタイヤに付着すると転倒の恐れがあるからです。チェーンに当たらず、ブラシが入れられる隙間を確保して養生しましょう。
スプレーノズルが金属式なら先端を下に曲げるとチェーン上面に効果的に薬剤を吹き付けられます。
これで準備完了なので清掃していきます。汚れが軽微な場合、ウエスにチェーンクリーナーを吹き付け、それで汚れを拭き取っていきます。汚れがひどい場合、チェーンを回転させながら(チェーンとスプロケットの間に手を挟む危険があるので進行方向とは逆に回すこと!)、プレートとプレートの間、プレートとローラーの間を中心にチェーンクリーナーをスプレーします。大変危険なのでエンジンは必ず切った状態で作業すること!
スプレーノズルが金属式なら先端を下に曲げるとチェーン上面に効果的に薬剤を吹き付けられます。
チェーンクリーナーを吹き付けたら少し待って汚れを浮かせたら、上下左右、チェーンのすべての面を優しくブラシで擦り洗いし、ウエスで汚れを拭き取ります。
ウエスで汚れ拭き取る際は、指の腹でチェーン上下をなぞるようにし、ローラー部等凹んだ部分の汚れもしっかり拭き取っておきましょう。汚れが落ちきらない場合、チェーンクリーナーを追加で吹いて拭き取るを繰り返します。
ウエスで拭き取るのは汚れだけでありません。残ったクリーナーもその対象で、クリーナーが残っているとこのあと塗るチェーンオイルが飛散しやすくなるためです。またチェーンだけでなくスプロケットもクリーナーやブラシを使って洗っておくと、せっかくきれいにしたチェーンがすぐ汚れてしまうのを防げます。
注油の方法
汚れを落としたら次は注油です。チェーンオイルは使用前に振って中身を十分混ぜることが求められる事が多いので、事前に説明書を読んでおきます。チェーンオイルを注す箇所は外プレートと内プレートの間(シールチェーンならシールのある部分)と内プレートとローラーの間になります。ただチェーンオイルの目的にはチェーンの防錆もあるので、ピンポイントかつ少量注すというより、ある程度プレートやローラーそのものにオイルが付着するように作業していきましょう。
行き渡りやすくするためチェーンオイルはチェーンの内側から塗布しますが、使用するチェーンオイルのノズルが金属製なら、それを下を向くように曲げるとこの注油ポイントに効果的にスプレーできます。
防錆のためプレートやローラーにもオイルがかかるよう、ノズル先端はチェーンから数cm離して吹付けます。
容器に入ったオイルをスポイトで注すタイプもありますが、これも注油ポイントは変わりません。いずれにしてもすべてのプレート、ローラーへ注油することが大切なので、早さよりも正確性重視で作業していくことが大切です。オイルをより行き渡らせるため塗布後にリアホイールを数回回すのも効果があります。
タイヤを回すときは手に油分が付いているとタイヤに付いてしまうので注意しましょう。
チェーンオイルの塗布が終わったらウエスで余分なオイルを拭き取ります。余分なオイルは飛散し周囲を汚したり、チェーンの汚れを呼ぶ原因になるからです。
せっかく塗ったオイルを落としてしまうので、清掃に使いクリーナーを含んだものとは違うウエスを使います。
チェーンオイルは塗布後に時間を置くのがポイントです。よりチェーン各部にオイルを浸透させつつ、定着させて飛び散りにくくするためで、製品によっては塗布直後はサラサラだったのが時間を置くと固形状になるものもあります。どれくらい待てば良いかは製品によって異なるので使用方法を確認しておきましょう。最後にタイヤにチェーンオイル等の油分が付着していないかを確認し、問題なければ作業終了です。
まとめ
チェーンの状態はバイクの反応、燃費、シフトフィールなど様々な状態に影響を与えます。そんなチェーンの状態を維持する第一歩が清掃と注油なのです。汚れをしっかり落とし、プレート1つ1つに注油しようすれば必然的にチェーンを注視することになり、伸びやサビといった不具合にも気付きやすくなります。オーナーがバイクに対しどれだけの知識と愛情を持っているかはチェーンの状態を見れば分かると筆者は考えています。常にピカピカのチェーンを維持できるよう心がけたいものです。
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