イグニッションスイッチをONにしてスターターボタンを押せば、スターターモーターが回ってエンジンが始動するというのが、セル始動の一連の流れです。ボタンを押してもスターターモーターが回らない、または作動状況が不安定な時、第一にスターターモーター自体を疑いたくなりますが、バッテリーとモーターの間に配置されたスターターリレーが原因かもしれません。
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そもそもスターターリレーは何のためにあるの?
バッテリーで作動数する電装品の中で、最も大量の電力を消費するのはスターターモーター(セルモーター)です。走行中、ずっと作動しているヘッドライトやウインカーなどの灯火類と違って、始動時のみに数秒間しか作動しませんが、強大なトルクでクランクシャフトを回転させる際に大電流が流れるためです。
そのためスターターモーターに接続されている配線は、灯火系やイグニッション系、ECUなどにつながるメインハーネスの配線よりはるかに太いものが使用されています。細い配線では大電流に耐えきれず、焼損してしまいます。
スターターモーター本体につながる配線は極太サイズですが、ハンドルスイッチのスターターボタンには極太配線はつながっていません。その理由がスターターリレーにあります。
バッテリーとスターターモーターの間に配置されたスターターリレーは、昔からハロゲン球のヘッドライトの光量アップに効果があるとされてきた、バッテリー直結リレーと同じ原理です。
リレーの内部は電磁石と接点で構成されており、電磁石に小さな電流を入力すると接点が閉じて大電流を流すことができます。具体的には、ハンドル部分のスターターボタンに流れる電流は小さく、その電流で接点が閉じた時はバッテリーからスターターモーターに大電流が流れます。このため、大電流によるメインハーネスの過熱や焼損を防止できるのです。
スターターリレー接点の焼損や摩耗が始動不良の原因になることもある
スターターリレーのおかげで、車体ハーネスに大電流が流れることなくスターターモーターを回すことができますが、スターターリレー内部で大電流を断続する接点が経年変化で劣化することがあります。
バッテリーターミナルを接続する際、取り付け順序を誤ってプラス端子とフレーム間に工具を接触すると「バチッ!」とショートして火花が散ることがありますが、スターターリレーの接点ではスターターボタンを押すたびに電気的なスパークで表面が劣化し、摩耗が進行していきます。
その劣化が何十年も積み重なることで、スターターボタンをおして電磁石が接点を引き寄せても接点が完全に閉じずに接触不良を起こしたり、電磁石自体の不具合でスターターモーターが回らなくなることがあります。
始動系の不具合では、真っ先にブラシの摩耗などスターターモーター本体の劣化が疑われますが、実はスターターリレーが原因だったということもあり、早合点してモーターをメンテナンスして症状が改善しなかった……という例もあります。そうしたミスをしないため、スターターモーターの動きが悪い場合はスターターリレーと別々にチェックするのが良いでしょう。
スターターリレーの機能を確認するには、リレーとスターターモーターをつなぐ極太配線を取り外した状態でイグニッションスイッチをONにしてスターターボタンを押します。この状態ではスターターモーターは回転しませんが、スターターリレーからは電磁石が作動する「カチッ」という音がするはずです。
この作動音が聞こえればスターターリレーの機能は正常で、スターターモーターの配線を復元して回らないならモーター自体に問題があると考えられます。
一方で、スターターボタンを押してリレーの作動音が聞こえない場合も、電磁石自体の不具合か、スターターリレーにバッテリー電圧が加わっていない可能性があります。この場合、スターターリレーにつながる細い配線(電磁石を作動させる配線)の電圧を測定し、スターターボタンを押した際に12Vにならなければ、さらにスターターボタン部分など、電気の上流であるバッテリーに向かって測定を行う必要があります。
絶版車や旧車のスターターリレーは高年式車の純正部品に交換するのもアリ
製造から何十年も経た絶版車や旧車は、現状で不具合や問題はなくても、スターターリレーを交換しておくことで今後のトラブルを予防できるメリットがあります。
スターターリレーの配線は、電磁石を作動させる配線とバッテリーとスターターモーターを結ぶ極太配線の2種類がつながるという点で、車種や年式を問わずたいてい同じです(メインヒューズ内蔵タイプや、電磁石側の端子が特殊な車種もあります)。
ここではカワサキKZ900LTDのスターターリレーを、カワサキエストレヤ用純正部品に交換しました。エストレヤ用を選択した理由は、電磁石とスターターモーター配線の端子形状と配置がKZ900に流用しやすそうだと思えたこと、リレー以外の機能を持たないシンプルさが好みだったことと、ステーにセットする際に便利そうなゴム製のホルダーが初めから付いていたことです。
車体に取り付ける際はアルミ板をL字型に曲げたステーを用意して、電磁石側配線の端子をギボシ端子から平形端子に変更し、元々純正リレーがあった位置にセットしました。材料調達や端子加工に手間が掛かる極太配線は流用した方が良いので、純正リレーから遠くない場所に配置すると良いでしょう。
製造から50年近く無交換の純正スターターリレーは、現状では問題や不具合はありませんが、新品部品に交換したことで大きな安心を手に入れることができました。
スターターモーターはブラシの長さやコンミュテーターの状態をチェック
スターターリレーを新品に交換した上で、それでもスターターモーターの回転力が弱く感じる時は、モーター内部を確認します。
円筒形の本体の両端にカバーを取り外してアーマチュアを取り出したら、モーターを回す電流を流すカーボンブラシの摩耗具合と、ブラシが接触するコンミュテーターをチェックします。
その前に確認しておくべきなのが、アーマチュアとカバーの間に組み込まれている薄いシムやワッシャーの位置や順序です。スターターモーターは製造時、軸方向のクリアランスが正常値になるようシムで調整されています。
このシムの枚数や位置を正しく復元しないと、アーマチュアが軸方向に動いてしまい偏摩耗の原因になることがあるのです。また、摩耗するカーボンブラシは部品として購入できますが、シムやワッシャーは純正部品として設定されておらず、紛失した際に再購入できない点にも注意が必要です。
コンミュテーターにはセグメントと呼ばれる電極と絶縁体が交互に並んでおり、ブラシやセグメントが接触回転することで絶縁体部分に摩耗粉が付着、堆積するとショートの原因となります。
絶縁体部分に堆積した摩耗粉を取り除くには、絶縁体スクレーパーやカッターナイフの刃で削り落とすのが効果的ですが、絶縁体を削らないよう深く刃を立てないことが重要です。深く掘りすぎるとセグメントにエッジができてしまい、ブラシの摩耗が促進されて逆効果になる場合もあります。
ブラシ自体のチェックは摩耗チェックが基本で、車種ごとに設定されてる標準値からどの程度すり減っているかを測定します。KZ900LTDの場合、標準値は12~13mmで使用限度は7mmです。
セグメントと密着して電流を確実に流すため、ブラシはゼンマイ状のスプリングで後ろから押しつけられており、経年劣化などでスプリングが折れると圧力が低下して接触不良を引き起こすため、分解時にはチェックが必要です。
スターターボタンを押せば、いつでもスターターモーターは回るものだと思い込んでいるバイクユーザーも多いかもしれませんが、スターターリレーもスターターモーターも経年劣化や摩耗によって性能が低下し、回転力が落ちたり回転しなくなることもあります。そうなる前にメンテナンスで性能回復するのがベストですが、突然スターターボタンに反応しなくなってしまった際には、順を追ってトラブルシューティングを行い、適切な整備や修理を行えるよう、始動系統のメカニズムを理解しておきたいものです。
- ポイント1・スターターモーターの回転力が弱かったり回らない時は、モーターだけでなくスターターリレーもあわせて点検する
- ポイント2・スターターリレーは車種ごとの純正部品だけでなく、他機種用の部品を流用することもできる
- ポイント3・スターターモーターを分解する際はアーマチュアに組み込まれたワッシャーやシムの紛失に注意し、分解時と同じ位置と順番で組み付ける
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