
初代OHVエンジンのC100シリーズの中でも、比較的初期の第二世代エンジンをベースに旧車スーパーカブいじりを楽しんでます。60数年の歴史の中で、分解組み立てが繰り返し行われ、クランクシャフトエンドのネジ山がナメかけていたのがこのエンジンだった。クランクシャフトには特徴があって、後期モデルとは寸法的に違っているので、クランクシャフトのネジ山再生を内燃機加工のプロショップへ依頼することにした。
目次
クランクシャフトにクラッチを固定するネジ山が……

60数年間、分解組み立ての繰り返しと、締め付けトルクの強過ぎなどが影響したのか、普通ならナット側のネジ山が舐めてしまうところで何とかなるが、クランクシャフト側の雄ネジも完全になめてしまった。コンロッド幅が狭い第二世代の初期シリーズエンジンのため、せっかくなら分解ついでにベアリング交換などなども考えた。しかし、コンロッドにガタや首振りが無かったので、コンプリート状態でネジ山修理できないものか!井上ボーリングさんに問い合わせてみた。すると……
クランクシャフトCOMPのまま「ネジ山再生」してみたが……


クランクASSYのまま切り粉が入らないようにウエスとテープでぐるぐる巻きにしてから旋盤でクランクシャフトエンドのネジ作りを開始。クランク幅に影響が出ないようにクランクウェプ間にはスペーサーをセットしている。ネジ径をサイズダウンすることで新たなネジ山を切ることができた。
ロックナットに合わせて「専用工具」も製作依頼


本来よりもサイズダウンしたセルフロックの「Uナット」を用意して、井上ボーリングさんへ持込んだ。そのネジサイズに合せてクランクシャフトを加工して頂いた。新規セルフロックナットに合せたレンチが無いと分解組み立てが大変なので、ソケットの外径とロックナット外径がほぼ同一のソケットレンチを持ち込み、ロックナット専用サイズのレンチを加工製作して頂いた。
左右ケースの同時加工でOHVカムの軸芯を出す



そもそもカムジャーナル(支持部分)のクリアランスがギリギリ大き目に設定されているのが純正クランクケース。このカムジャーナルは、オイル交換をしっかりしないと偏摩耗が進んでしまい、メカノイズ=カムギヤの歯打音が気になるエンジンになってしまう。このクランクケースもそんな症状が出ていたので、カムジャーナルの摩耗拡大に対応したブッシュ圧入をお願いした。左右クランクケースを一体かつ同時に加工すれば、このようにクリアランスを大きくする必要は無いはずだ。クランクケースを一体にしてカムシャフトを差し込み指先で回すと、ジャーナル部分にはしっかりガタを感じる。
クリアランス大なので砲金ブッシュの圧入と寸法仕上げ




治具ボーラに左右一体のクランクケースをセットし、ブッシュの抜け止め用精密段差加工を施した。次に、一度クランクケースを取り外し、寸法通りに削り出された砲金ブッシュを圧入。その後、クランクケースを再度一体にしてから固定し、カムシャフト穴のセンターを割り出して仕上げ加工の開始。カムジャーナル外径に対してクリアランスを徐々に広げ、ガタ無くスムーズにカムシャフトが回る寸法に加工した。クリアランス2/100ミリではカムシャフトを差し込むのがやっとで、3/100ミリで何とか回転するが渋い印象。4/100ミリ で加工したら、カムシャフトがスムーズに回り、ガタも感じることは無かった。このスムーズなカム回転によって、気になるOHVカムシャフト周りのメカノイズは無くなる計算だ。ちなみに加工前の測定データでは、左ケースのジャーナルが5/100ミリ、右ケースは何と1/10ミリまで拡大していた。そもそもクリアランスが大きかったとは思うが、エンジンオイル管理の悪さがこのような結果をもたらせたのだと思う。
取材協力/ iB井上ボーリング www.ibg.co.jp
- スーパーカブ×メンテの世界・初代モデルが登場してから60数年が経過しているスーパーカブ。その時代、その時代で、エンジンには改良が加えられ、同じような見た目でも、詳細部品には互換性が無いことも多々ある。そんなエンジン部品の修理で困ったときには、内燃機部品加工のプロショップへ相談してみよう
様々なアプローチで改善改良を加えてきた第二世代ベースのC100エンジンだが、試運転を繰り返しているときに、一次クラッチの作動がイマイチなことに気が付いた。ガレージに戻ってからバイクを寝かせ、クラッチカバーを取り外してみた(ステップを外してから、可能な限り車体を寝かすことで、エンジンオイルを流すことなくクラッチカバーは脱着できる)。組んではバラして、バラシては組んでを繰り返し行ったことから、あろうことか、クランクシャフトエンドのネジ山、一次クラッチユニットを固定するネジ山がナメてしまったことに気が付いた。分解時は、インパクトレンチを使って一気に分解し、組み立てる時には、手締め+トルクレンチで管理していたつもりだが……。C50/65/70系のOHCエンジンと比べて、クラッチの切れ具合がイマイチ良くなかったのがこのC100だった。分解組み立て&試運転を繰り返していたら、こんなになっちゃいました~ 呆然です。
そんなクランクシャフトエンドの写真を井上ボーリングさんへ送信すると、過去に似たような修理加工依頼を受けた実績があるそう。サイズダウンしたロックナットを使う予定だとお話すると「やってみましょう!!何とかなると思いますよ」と、心強いお返事を頂くことができた。井上ボーリングさんへ部品を持ち込み、詳しいお話を伺うと「過去にもネジ山がナメてしまったクランクシャフトを修理したことがあります。マルチエンジンは大きくて長いから無理ですが、単気筒エンジンなら、何とかなると思いますよ」と、嬉しいお話し。作業日に出直したところ、クランクシャフトは丸々マスキングされていた。ネジ部分を旋盤で削って、新規ナットサイズに合せてネジ切りを行うと言った加工段取りである。利用したいロックナットはぼくが事前に準備し、そのロックナット用の専用レンチも同時に加工製作して頂いた。この内燃機修理によって、今後も安心してクラッチの分解組み立てができるようになる。ちなにに加工後のクランクシャフトの振れを確認すると、加工前とまったく同じだったので、芯ズレも起こらずに済んだようだ。
せっかくエンジン分解したのでメカニカルノイズの減少を目的に、クランクケース加工もお願いした。初代C100から後のエンジンまで、ホンダの原付クラスは左右クランクケースの加工を別々に行っている。工作機械精度に自信がある表れだとは思うが、それによって軸のクリアランスの設定が、許容範囲最大近くになっているようだ。C100系OHVエンジンの場合は、その影響をカムシャフト軸のギヤ側(右側)ジャーナル部が受けてしまうようだ。単純なギヤの噛み合いだけならバックラッシュがあるので安心だが、カムシャフトの場合は、タペットを擦りつけて旧排気バルブを作動させるため、どうしてもカムジャーナルには応力なのか、反力なのかが集中してしまうのだろう。しかもそのジャーナル部分はクランクケース本体そのものなので、エンジンオイルコンディションが良くないと、摩耗してしまいがちなのだ。以前にこのジャーナルクリアランスの詰め加工を行ったことで、C100エンジンがもの凄く静かにアイドリングする結果を得ることができた。そんな経験があったので、今回も分解ついでにクランクケース加工をお願いすることにした。
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