フルレストア完成後に「なんだか安定性が無くて……」といったお話を聞くことがたまにある。組み立て問題ならともかく、メインフレームのステアリングネックが「ヨレてました~」なんてことも時にはある。そんなことが起こらないためにも、レストア作業開始前のシャシーをレーザー光線測定で確認補正して、一定の安心感を得られたDT1。いよいよ、フレーム骨格のペイント依頼にコマを進めるのと同時に、フロントフォークのインナーチューブは再生メッキに依頼しました。

フレームペイント依頼前には各部の修理が必須!!

サイドスタンドの足首部分には、特有のプレス曲面ブがあるDT1。しかし、ヒール部はサビ落ちていたので、本物サイドスタンドを見本にコンターマシンで鉄板を切り出し、溶接して形状再生することにした。この作業のために、程度が良いサイドスタンドを借りてきて良かった!!サイドスタンド本体のサビは、花咲かGラストリムーバーで処理することにした。サビの処理後にヒール板を溶接して、さらにパウダーコーティングで仕上げて頂く手順になる。三角フレーム部分に添付されている、国内モデル専用の「認定コーション」をスクレパーできれいにそぎ落とすこともできた。フルレストアが完成したら、再度しっかり接着添付しようと思います。

プロショップ依頼のペイントは仕上がりが違う!!

パウダーコーティングのクォリティと手慣れた作業で素晴らしい仕上がりを得た各パーツ。トレールモデルは部品点数が少ないから、オンロードモデルと比べてフルレストアが楽なのかも!? 塗料を載せすぎると打刻が見えなくなってしまうが、打刻エッジがシャープで大満足!!メインフレームに取り付ける、様々な部品の結合部をペイントしてしまうと、後々の組み立て作業が大変になってしまうので要注意。ペイント前のフレームや周辺部品は、サンドブラスト処理で金属地肌が出されたが、脱脂後の摺動部はしっかりマスキング仕上げされた後にペテンとされていた。モトクロスユースの期間が長かったのか、サイドスタンドが利用される機会はあまり無かったのかも知れないのがこのDT1。サイドスタンドのピボット部分は、グリス切れなどで楕円に摩耗してしまうことが多いが、フレーム側もサイドスタンド側も、一切ダメージを受けていなかった。純正サイドスタンドを借り、その形状を見本にしながら鉄板を切り出して溶接したサイドスタンドヒール部分。ペイント依頼前にこのような作業を実践しておかないと、後々になって面倒な二度手間になってしまうケースもあるので注意しよう。

精鋭集団のパウダーコーティング・カトー

愛知県豊田市、東名高速道路の東名三好インターチェンジが最寄りのパウダーコーティング・カトー。右手前の加藤代表と精鋭スタッフによって仕上げられる。レストアショップからの依頼を数多く担当しているのの同工房の特徴で、まさに信頼の証である。

取材協力/パウダーコーティング・カトー http://www.pc-kato.jp/

サビたインナーチューブは再生可能!! 

メーカー純正新品インナーチューブが手元にあるから大丈夫だと思っていたが、実は、年式違いで互換性が無い部品だと判明してガッカリ。そこで、インナーチューブの再生では国内トップシェアを誇る、東洋硬化さんへ再生依頼することにした。納期は、おおよそ3週間前後。DT1 のような段付きフォークは、すべて仕上げるのか?純正同様の仕上げにするのか?依頼時に明確にしておこう。

依頼内容次第で「仕上がり」も変わる 

DT1純正フロントフォークを分解して驚いたのは、ダンパーシートパイプ周辺の構造が緻密で、後のレーシングキットパーツのようでもあったこと。1960年代の後半と言えば、国産車が世界のバイクシーンをリードし始めた頃なので、メーカーもイケイケの本気モードだったのだろう。段付き構造インナーチューブは、オイルシールとの摺動部分のみハードクロームメッキが施されている。今回は、ライトステーで見えない部分もハードクロームメッキで仕上げて頂いた。その分は当然にコスト増となる。

東洋硬化 www.toyokoka.com

骨格組み立て開始の第一歩はステアリングから始まる

フルレストア行っていた段階では、メーカー純正部品に在庫があり、ステアリングヘッドのボールレースやスチールボールなどなど、すべての純正部品は納品された。DT1に限らず、将来的にフルレストアや修理を考えているユーザーさんは、純正部品確保を優先したほうが良いと思います。長いボルトで上下レースを挟むように締め上げて圧入する特殊工具があれば万全です。ボールレースにグリスをタップリ塗布して、そのグリスを接着剤代わりにスチールボールを整列させると組み立てやすい。グリスで接着状態のスチールボールは落下しにくい。ステアリングヘッドパイプにアンダーブラケットシャフトを差し込み、アッパーレース、カバー、ナットの順で組み立て、先が薄いアジャスタブルフックレンチでナットを仮締めした。

組み立て初期は「目線作業」が楽々です 


フレーム周辺パーツのペイントが仕上がり、足周りパーツも徐々に揃い始めたので、早速、組み立て作業を開始した。まずはすべてのネジ部分にはタップを通してエアーブローから開始。ボルト固定したいときに、ペイント膜やゴミの混入でボルトの締まりが渋いとイライラしますからね。組み立て初期は、目線高さでの作業が楽だと思います。

POINT

  • ポイント1・フレーム骨格の仕上がり次第でレストア仕上げの完成形が大きく変化。無理してDIYペイントではなく潔くプロショップへ依頼しよう!! 
  • ポイント2・依頼前に気になるポイントは「すべて修理改善」しておくのが大切なこと
  • ポイント3・サビがあっても既存の部品を純正新品クォリティ以上に仕上げることができる再生ハードクロームメッキ 

フルレストア作業へ取り掛かる前に、ローリングシャシーは静岡県掛川市のシャシテックへ持込み、フレームの曲がりや歪みの診断と同時に修正作業をお願いした。これで気持ち良く、本格的なフルレストアに取りかかることができる。次のステップは、安心できたメインフレームを始め、骨格周辺部品の「黒物」のペイントだが、今回は、すべてパウダーコーティングで仕上げようと思う。部品を持ち込んだのは、愛知県豊田市に工房があるパウダーコーティング・カトーさん。DT1に限らず、当時のトレールモデルにめっぽう詳しく、自らもDT1のオーナーでもあるのが加藤代表だ。フレーム骨格を見れば一目瞭然で「これは1969年モデルの初期生産車だね。サビが少なくて、程度もいいじゃないの!!」そんなお言葉をお聴きすることができて、何よりも安心できた。

ペイント依頼前には、すべての部品を取り外したつもりだったが、抜き取り忘れたままだったのが、スイングアームとリアブレーキペダルのピボットブッシュだった。これら部品は、作業前にしっかり抜き取っていただき、ペイントの仕上がりタイミングで小物部品と一緒に返送してくださった。ありがとうございます。

ペイントが仕上がるタイミングで、交換しておきたい部品をパーツリストから部番検索して、部品商へオーダーしてみた。ステアリングヘッドのベアリングと言えば、メインフレームを構成する極めて重要な部品。このフルレストアを進行していた時には、販売中止になっていなかったのはラッキー!!しかも運良く、数種類のすべての部品がメーカーから納品された。機種統合され、後々に登場したモデルと共用されているのは旧車ファンには大歓迎である。メーカーによっては、新規新策作が合言葉のように新しい部品を採用してきた結果、今では絶版扱いになっている部品が数多いケースもありますね……。

フレームと純正部品が納品されたので、さっそくステアリングヘッド周辺は組み立て開始。先端のフック部分が薄めに仕上げられているアジャスタブルフックレンチは、大変使い勝手が良く、超オススメの特殊工具。先端が薄いので、何より使いやすいのだ。しっかりトルクを掛けて締め付けるような部品ではないため、ステアリングトップナットの締め付け時や微調整では、明らかに使い易い。組み立て段階ではしっかり調整するのではなく、試運転の段階で、じっくりしっかり調整すれば良いだろう。

フレーム骨格のペイント依頼中に、同タイミングで作業進行していたのがインナーチューブの再生だった。レストアベース車のフロントフォークは、インナーチューブがサビサビの状態だったが、福岡県久留米市の東洋硬化さんにて、再ハードクロームメッキ処理をお願いした。同社へは、過去に何度もインナーチューブ再生をお願いしているが、その仕上がりは素晴らしいのひと言。施工後に問題等も発生していない。
再生工程の手順を記すと

①受注段階で曲がりの有無を確認。曲がりがある時には修正される。

②表面から深いものまで円筒研磨ですべてのサビが除去され、金属の生地出しが行われる。

③高硬度で密着性が高いニッケルメッキで下地メッキ処理が行われる。

④硬質クロームメッキ処理が施される。

⑤円筒研磨で狙った寸法に仕上げられる。

⑥精密パフ仕上げで表面の輝きを得る。⇒完成納品。

あくまでざっくりな作業手順だが、このようにインナーチューブは再生される。

実は今回、ベース車両を所有していたオーナーさんから、ヤマハ純正の新品インナーチューブを受け取っていた。ところが、現車フロントフォークを分解すると、年式違いの別部品だったので、使えなかったエピソードがある。仮に、リプロダクションパーツと呼ばれる機種対応部品が販売されていれば、その部品を購入した方が手っ取り早いかも知れないが、入手しづらい、入手できないようなインナーチューブでも、東洋硬化へ依頼すれば、新品同様以上の仕上がりを得ることができる。再生ハードクロームメッキは、メッキ膜厚が純正部品よりも厚く設定されているので、後々サビにくい特徴もあるのだ。

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