
正立式と呼ばれるフロントフォークの全盛期は1980年代末以前で、1990年代に入ってから登場した高性能スポーツバイクの多くには、倒立式フロントフォークが採用されていた。正立式にも内部構造が異なるタイプがあるが、1970年代初頭から1990年代に入ってからも、正立式フロントフォークの「普及型」といえば、ここに紹介するダンパーシートパイプ型だろう。ここでは、ダンパーシートパイプ型正立式フロントフォークのメンテナンス&組み立て時のポイントを解説しよう。
目次
新品オイルシールに交換するのだから組み立てミスに注意
新品オイルシールをインナーチューブに差し込み挿入する際には、金属とラバーゴム部品の摺動性を高めるラバーグリスをオイルシールリップ周辺に塗布し、インナーチューブのエッジでリップにダメージを与えないよう慎重に挿入しよう。この際には、ビニール袋の切れ端をインナーチューブに被せて、鋭いエッジからオイルシールリップを保護することで、スムーズな組み付け作業ができるようになる。オイルシールは、寸法数値や型番が記された面を、上向き(外向き)にセットしよう。
作業台+大型万力が最高の作業環境!!インフラ整備も重要
ボトムケースの平面部分、例えば、ブレーキキャリパーサポートブラケットやアクスルシャフトの差し込み面を口幅が広い万力にクランプ固定して、ボトムケースの底から締め付けてあるソケットボルトを抜き取る。この作業でボトムケースからインナーチューブを抜き取ることができるが、ボルトの座(ダンパーシートパイプ)が供回りしてしまう時には、四角錘状のホルダーツールとロングTレンチでダンパーシートを固定してボルトを抜き取るのが良い。
ダンパーシートパイプのピストンリングにも注目
インナーチューブを抜き取ると、オイルロックピースと呼ばれる外周がテーパー状の部品が出てくる。ダンパーシートパイプはインナーチューブの上側から抜き取ることができるので、これらの部品は徹底的に洗浄&エアーブローしよう。過去にオイル交換履歴があったため、黒く汚れていたものの悪臭は無かった。しばらく交換しなかったフォークオイルは、真っ黒かつ悪臭を放つので、汚れた部品は徹底的に洗浄し、各部を確認点検して組み立て直そう。
ゴム部品×金属部品の摺動抵抗低減にはラバーグリス
ここで再確認。新品オイルシールを組み込む前には、オイルシールリップ周辺にラバーグリスを多めに塗って、金属部品との摺動抵抗を減らしてから組み込もう。オイルシール外周にもラバーグリスを塗布し、ボトムケース側のオイルシールホルダーとの摺動性を高めよう。双方ともに乾燥状態だと、オイルシール外周がボトムケースに食い付いてしまい、滑りが悪く正しく水平に打ち込めなくなってしまう。ラバーグリスはシリコン基油をベースにしたグリスだ。シリコン系グリスならゴム部品×金属部品の摺動抵抗低減に最適と言えるだろう。
オイルシールリップを傷めず打ち込む専用工具
インナーチューブの太さに合わせた分割コマを金属ウエイトにセットして、インナーチューブをガイドにスライディングさせながらオイルシールをボトムケースへ打ち込む特殊工具がオイルシールドライバーだ。インナーチューブサイズに合致したコマ(写真の工具セットでは赤い部品)を組み合わせないと、オイルシールが傾いて挿入しにくくなってしまう。
油量指示か?油面高さ指示か?事前に確認しておこう
メーカーやモデル年代によってサービスデータが異なるが、フォークオイルの注入量は、ズバリ「何cc」のときと、オイル注入してからエアー抜きを行い、フルボトムにした状態でインナーチューブの端面から何ミリの「油面の高さ」で決定する場合がある。1980年代の前半以前は容量指示が多かったが、それ以降から現在までは、油面の高さ指示が多いようだ。オーバーホールやオイル交換時には、サービスデータを必ず確認してから作業進行しよう。容量指示の時にはメスシリンダーで計量し、油面の高さ指示のときには、シリンジとパイプを組み合わせた専用ツールを利用するのが便利である。
- ポイント1・作業性の良し悪しは作業環境で大きく変わる。作業台と大型万力は環境作りに必須だ
- ポイント2・シートパイプの締め付け固定時にはインナーチューブをフルボトムで回転させながらボルトを締め付けるのが良い
- ポイント3・使い勝手が良い専用特殊工具は購入しよう
国内外を問わず1970年代後半以降の正立式フロントフォークは、内部の基本構造がほぼ同一で、普及型とも呼ぶことができる。国産車の場合は、KYB製かショーワ製(現日立アステモ製)が圧倒多数なので、バイクメーカー別に外観的なデザインが異なっても、内部の基本構造はほぼ同一のような商品が多い。正立式フロントフォークで高性能を追求した1980年代後半には、スプリングのイニシャル調整機能だけではなく、伸び側、縮み側のそれぞれに減衰力調整機能を持つタイプや、より安定した減衰性能を得るためにカートリッジ型ダンパーを装備したモデルも複数あった。その後、時代の流れがアップサイドダウン=倒立式フロントフォークへ移行したのと同時に、高性能スポーツバイクの多くがフルアジャスタブル仕様の倒立フォークを採用するようになった。それに伴い、正立式フロントフォークは「普及型部品」としての役割を担っている。
ここでは、一般的かつ普及型とも呼べる、正立式フロントフォークを分解メンテナンス時の「注目ポイント」に的を絞りリポートしよう。作業実践で大切なのは、作業スペースの確保だろう。また、口幅が広い万力をセットした作業台があると、作業性は圧倒的に良くなる。ボトムケース(もしくはインナーチューブ)をしっかり固定できないと、内部パーツの分解はかなり困難になってしまう。無理な作業は禁物なので、何とか分解できたとしても、大切な部品にダメージを与えてしまっては、メンテナンスの意味が無くなってしまうこともある。
分解したパーツは徹底的に洗浄しよう。経験者ならご理解いただけると思うが、過酷に作動しているフロントフォークは、我々が想像する以上に汚れやすい部品なのだ。一般的には、オイルシールがダメージを受けてオイル漏れが発生すると、分解洗浄と同時にオイルシール交換、オイル交換などなどを行うことが多いと思うが、街乗り車でも4~5000キロ走行毎にはオイル交換したいものだ。そんな走行距離数でも、旧オイルを抜き取ると真っ黒になっていることに気が付く。つまり、もっと短い距離でオイル交換しても、良いほどなのだ。
組み立て時の注意点は、パーツ洗浄後の乾燥した部品をそのまま組み込むのではなく、例えば、ダンパーシートパイプに組み込まれる接触部分=ピストンリングには、フォークオイルをタップリ塗布してからインナーチューブ内に差し込み復元しよう。樹脂製ピストンリング外周が摩耗している時には、迷うことなく新品ピストンリングに交換することで、メーカー設定の減衰性能を得られるようになる。オイルシールからオイル漏れやオイル滲みが無かったとしても、オイル交換のみ行うことで、想像以上の作動性を得られるのがフロントフォークでもある。積極的なフォークオイル交換を行い、最善のクッション性能を手に入れたいものだ。そして、セッティング変更(油量や油面の高さ変更など)による体感的な違いを覚え、自身の経験則を高めてみよう。
シンプル構造「正立フロントフォークの分解整備」メンテポイントは? ギャラリーへ (12枚)この記事にいいねする