カスタムやレストアで行う塗装の中で、特にエンジンやブレーキ周りに最適な塗料として知られているガンコート。ガソリンタンクやカウルを塗装する装飾的な塗料に対して、機能性塗料と呼ばれるガンコートにはどのような特長があり、なぜモータースポーツシーンをはじめとした自動車&バイクユーザーから支持されているのかを解説します。

アメリカ軍が銃火器用に開発した塗料だから「GUN」「KOTE」

空冷エンジンのシリンダーやラジエター用塗料として、カスタム業界で圧倒的な人気を誇るのが、アメリカKG社が開発したガンコートです。この塗料はそもそも、ライフルなどの銃火器の塗装用として開発されました。
ライフルや拳銃は弾丸を発射すると銃身が高温になり、連続的に使用すると熱によって銃身が歪み照準がずれるという問題がありました。
また上陸用舟艇から海に飛び込んだり砂地を移動するなど、作戦行動時には兵士と共に銃火器類も過酷な状況にさらされます。
そうした環境下で、まず第一に温度による照準への影響を最小限するための放熱性を有し、手荒な扱いを受けても塗膜がダメージを受けない表面処理として開発されたのがガンコートです。
ガソリンタンクやカウルなどの外装パーツをペイントする塗料であるラッカーペイントやウレタンペイントの主たる目的が装飾であるのに対して、ガンコートは放熱性や塗膜の耐久性といった機能性が特徴であり「機能性塗料」と呼ばれることもあります。
このガンコートを2006年頃に日本市場に導入し、現在日本総輸入元でありアジア総代理店を務めているのが愛知県のカーベック(https://www.carvek.jp/)です。
同社ではKG社と緊密にコンタクトを取り、そもそも銃器用に開発されたガンコートがモータースポーツやオートモーティブにとってどれほど可能性がであるかを伝え、製品開発にも協力しています。
詳しくは以下で説明しますが、ガンコートの性能を最大限に発揮させるには170℃で1時間以上の焼付乾燥が必要です。そのため、焼付乾燥器を所有していない場合は施工店に作業を依頼することになります。
ガンコートの施工店は全国各地にあり、それぞれのショップがSNS等を通じて情報を発信しています。カーベックは輸入元であり総代理店なので、ユーザーからの依頼で直接作業を行うことはありません。
ただしガンコートに魅力を感じ、近所に施工店を見つけられない場合、カーベックに問い合わせることで最寄りの施工店を紹介してもらうことは可能です。
次項ではガンコートの具体的な特長を紹介していきましょう。

ガンコートの特長その1・放熱性の高さ

前述の通り、ガンコートは発砲の際の熱による銃身の歪みを防止する目的で開発された製品です。具体的には銃身に伝わる熱を空気中に効率的に放散させることで過熱を抑制します。
塗ることで放熱性が向上する理由やメカニズムについては、ガンコートの最も重要な部分でありKG社からも公表されていません。しかしアメリカ軍が制式採用している事実は、ガンコートに確かな機能があるという証明といって良いでしょう。
放熱性の高さという機能は、バイクでは空冷エンジンのシリンダーやシリンダーヘッド、水冷エンジンのラジエターに施工することで、オーバーヒートの抑止や水温管理に効果があります。
放熱性の高さ=冷却性の向上を期待したくなるのも無理はありませんが、使用環境や測定条件によって「油温が○℃低下する」とは簡単には言えません。しかし例えばモトクロスマシンのアルミ製ラジエターの場合、未塗装品とガンコート塗装品でコースを同一周回走行した際の水温には明確な違いがあったそうです。
アルミニウムは素材自体の放熱性が高いのが特長ですが、その表面をガンコートでコーティングしてさらに水温が低下したということは、ガンコート自体の放熱性が優れているという証拠と言って良いでしょう。
空冷エンジンのシリンダーやシリンダーヘッドは熱のたまり場となる部分で、ガンコートによる放熱性の高さが最も効果的に作用する部分です。ブラック塗装のエンジンはレストアする際に再塗装すると仕上がりが断然良くなりますが、その際にガンコートを使用することで見た目に加えて機能面でもメリットがあるというわけです。
もちろん、空冷のチューニングエンジンにとっての必須パーツであるオイルクーラーへの施工も、放熱性向上に確実な効果があります。

ガンコートの特長その2・耐薬品性の高さ

外装パーツの塗装に使用するラッカー塗料やウレタン塗料にとって、ガソリンやシンナーなどの溶剤やパーツクリーナー、ブレーキフルードなどの液体は大敵です。ラッカー塗料はガソリンで簡単に溶けてしまい、耐ガソリン性があるウレタン塗料であってもブレーキフルードが付着することで変質し、剥離してしまう場合もあります。
これら一般的な塗料に対して、焼付換装後のガンコートははガソリンやシンナーで変化しないのはもちろん、ブレーキフルードでも剥離しません。
理由としては放熱性の高さと同様に、ガンコートはそのように設計された塗料であるというより他はありません。
通常の塗料の塗装面に脱脂洗浄力が強力なパーツクリーナーをスプレーすると、成分中のヘキサンやイソプロピルアルコールの作用によって表面がツヤ消し状になることがありますが、ガンコートのツヤはパーツクリーナーをスプレーしても変化しません。
最も人気のあるサテンブラックは、アセトンに浸しても塗装剥離剤でも剥がれないほど強靱で、ブレーキキャリパーやマスターシリンダーの塗装に最適です。もちろん、ガソリンが付着するエンジンパーツにとっても、耐薬品性の高さは大きなメリットとなります。

ガンコートの特長その3・表面硬度の高さ

ラッカー塗料もガンコートも、すべての塗料の成分は「樹脂+溶剤+顔料」で構成されていて、塗膜の硬さは樹脂の種類や性質によって決まります。塗膜が柔らかいほど傷が付きやすく、硬くなるほどひっかき傷などの外的要因に対する耐性が高くなります。
塗膜の硬さは鉛筆の芯の硬さを基準として規定されており、ガンコートの塗膜は鉛筆硬度9H相当とトップクラスの硬さを誇ります。
この表面硬度の高さはラジエターやオイルクーラーへの施工で効果を発揮します。表面積を増やすために採用されている薄いフィンは跳ね石などで簡単に曲がってしまい、フィンが潰れると冷却効率が低下します。
ガンコートを施工したパーツは表面が硬くなるため、柔らかいアルミフィン自体が硬くなる効果があるのです。シリンダーやシリンダーヘッドなど、そもそも素材自体に充分な固さがあるパーツでは施工後の表面硬度の高さを実感することはできませんが、ラジエターやオイルクーラーでは効果は明らかです。
またガンコートの塗膜には汚れが付着しづらくなる防汚性能もあるため、汚れたラジエターのクリーニングも容易です。ガンコートがペイントしてあれば、オフロード走行で付着した汚れが簡単に落ちるのと同時に、高圧洗浄機の高圧洗浄水を当ててもフィンが曲がることはありません。

ガンコートの弱点は?

機能性塗料として数々の強みを持つガンコートは、他に代わるものがない塗料と言っても過言ではありません。ベーシックなソリッド色や美しいメタリック色、派手な蛍光色やクリアなどカラーバリエーションも豊富で、カスタムニーズにも充分に応えられます。
施工するにはスプレーガンを使用し、それに伴ってエアーコンプレッサーも必要ですが、ガンコートは硬化剤を使用しない一液性の塗料なので、硬化剤使用タイプよりも作業は用意です。
そんなガンコートの唯一最大の弱点を挙げるとすれば、170℃で1時間以上焼付乾燥を行う必要があるという点でしょう。
これはKG社がガンコートを開発した際にそのように設計してあるため、温度が上がらなくても加熱時間を長くすれば大丈夫なはず…という論理は通用しないようです。仮にうまくできたように見えても、設計値通りの性能が出るとは限りません。
そのために、全国各地に焼付乾燥器を備えた施工店が存在します。また、小さなパーツを塗りたいのであれば、カーベックで販売しているホビー用のクラフトオーブンを利用しても良いでしょう。
ラッカーやウレタン、パウダーコーティングなど他の塗装とはひと味もふた味も異なる個性と機能があるのがガンコートの魅力です。エンジン周りやブレーキ関連パーツを塗装する際は、是非とも活用したい塗料です。

POINT

  • ポイント1・ガンコートは元々銃火器用の塗料として誕生した
  • ポイント2・ガンコートには放熱性の高さ、耐薬品性の高さ、表面硬度の高さという三大特長がある
  • ポイント3・塗膜性能を発揮させるには170℃・1時間以上の焼付乾燥が必要
ラジエターやブレーキキャリパー、エンジンを塗るなら「ガンコート」しかない理由ギャラリーへ (12枚)

この記事にいいねする


コメントを残す

今回紹介したブランドはこちら