簡単だから慎重に。プラグを外す前に絶対にやっておきたいエアブロー・GPZニンジャ系編

キャブセッティングが外れてかぶったり、走行距離が多くなり電極が消耗したすると、スパークプラグ本来の性能が発揮できなくなるので交換が必要です。プラグ交換は初歩的なメンテナンス項目のひとつですが、手順を誤ればプラグのネジ山を傷めたり燃焼室にゴミを落とすなど重大なトラブルを引き起こしかねません。プラグレンチを差し込む前に、締め付け部周辺に注目して汚れを落としておくことが重要です。

プラグ周辺の砂利や水分がトラブルの元

カワサキGPZ1000RXのシリンダーヘッドの上には、エアクリーナーケースに繋がるインテークパイプが配置されている。もちろん、このパイプを外す前には大きなガソリンタンクも外さなくてはならない。1980年代半ばのモデルでもすでにパーツが立て込んでおり、現代のスーパースポーツはさらに構造は複雑。スパークプラグを発見するだけでもひと仕事だが、エンジンの要となる部分なのでノーチェックで放っておくわけにはいかない。

燃焼室の混合気を爆発的に燃焼させるきっかけとなるのが、スパークプラグによる電気火花です。点火タイミングでスパークする火花が大きく、その火花が飛ぶ時間が長いほど大きな燃焼に繋がるため、エンジンにとって重要な部品です。プラグの電極は火花を発生させることで摩耗するため、一定期間使用した後には交換が必要になります。

プラグの取り付け位置はエンジンの形式によってまちまちですが、水冷４ストロークエンジンの場合はプラグ取り付け部がシリンダーヘッドの深い場所にあることが多いです。空冷の場合は穴の奥というほどではないにせよ、やはりプラグの周辺には冷却フィンが立ち並んでいることが多いです。

こうした構造ゆえ、プラグの周りには走行中に跳ね上げた砂利や小石が堆積したり、雨天走行や洗車中に掛かった水が付着する例があります。水が付着しても走行中の熱で乾燥しますが、蒸発しない砂や小石は残ったままになり、そのままの状態でプラグを緩めると周辺の砂利がプラグのネジ穴を通じて燃焼室内に落下する危険があります。落下しなかったとしても、シリンダーヘッドの雌ネジに砂利が付着すると新しいプラグを装着する際にネジに食い込み、雌ネジを傷める原因となります。

こうしたトラブルを避けるため、プラグを外す前にプラグ穴の洗浄を行うことを心がけましょう。先端が細い筆のようなブラシでプラグ周辺をはらい、コンプレッサーのエアで吹き飛ばすのが理想ですが、ゴムボールを膨らませるための針状のアダプターを取り付けた足踏み式の空気入れでもかまいません。

深いプラグ穴は雨水の浸水に要注意

サイドスタンドで駐車した際に低くなる車体の左側にカムチェーントンネルがあるGPZ900Rニンジャ系のエンジンは、カムチェーンカバーが堤防のようになってカバー上面の水をせき止める。その水面が１番シリンダーのプラグ穴を超えるとプラグ周辺に水が溜まってしまう。このトラブルはニンジャ系の持病のようなものなので、部品メーカーから浸水を防ぐためシール部分の背が高いプラグキャップが発売されているほど。

ヘッドカバーのガスケットの劣化によりプラグ穴にオイルが流入するのはニンジャ系エンジン特有のトラブルで、１番だけでなくどのプラグにも発生しうる。プラグキャップはオイルでベトベトになっていたら、ヘッドカバーガスケットの交換が必要だ。

プラグ穴が深い水冷エンジンの場合、プラグ穴に溜まった水が抜けづらいという問題があります。空冷エンジンなら作動中のエンジン表面はかなり熱いのでプラグ周辺の水分は蒸発しやすいですが、冷却水が循環している水冷エンジンはプラグ穴周辺が極端に高温にならない場合もあるのです。

また、車体カバーもかけずに屋外で保管しているバイクの場合、シリンダーヘッドを濡らした雨がプラグ穴から浸入することもあります。防水機能つきのプラグキャップを備えたエンジンもありますが、エンジンの熱や経年劣化でシール性能が低下すると浸入を防ぎきれません。

ここで紹介しているカワサキGPZ1000RXの場合、エンジンがGPZ900Rニンジャ由来のサイドカムチェーンタイプで、１番シリンダー左にカムチェーンが装着されています。そのためシリンダーヘッドカバーは左端が堤防のように高く、サイドスタンドで駐車しているとヘッドカバー上の水がここに集まってしまうのです。そのため、１番プラグだけ金具部分が真っ赤に錆びていることも珍しくありません。

さらにニンジャ系エンジンの定番トラブルとして、ヘッドカバーのプラグ穴ガスケットのシール性低下により、ヘッドを潤滑しているエンジンオイルがプラグ穴に流れ込む事例があります。油分が付着すればサビは防止できるかもしれませんが、もちろんこのままプラグを外して良いわけはありません。

このRXの場合は浸水はなかったものの、ガスケットの劣化によってエンジンオイルがプラグ穴に流入していたので、プラグを外す前にオイルの除去を行います。

ウエスでフタをしてからエアブローが効果的

プラグ穴を覗いても深くてまったく見えないので、プラグソケットをディップスティック代わりに挿入してオイルの量を確認する。幸いオイルが流入していたのは１番だけで、他のプラグ穴は大丈夫だった。この段階ではまだプラグを緩めないので、エクステンションバーの根本にラチェットハンドルはセットしていない。

ソケットの先端から５mmほどが濡れており、ここまでオイルが浸かっていることが分かる。プラグ穴に水が溜まると、その量によってはプラグキャップからリークが発生してプラグが失火することもあるが、オイル漏れだと失火しないため不具合が分かりづらい。

プラグ穴にオイルが溜まっているか否かは、プラグキャップへの油分付着で判断できます。抜いたプラグキャップをウエスでぬぐって、オイルでヌルッとするようならガスケットは要交換です。

このエンジンはプラグキャップがオイルでツルツルだった上に、確認のために差し込んだプラグレンチの先端にクッキリとオイルが付着したため、プラグ周辺には明らかにオイル溜まりがあると判断しました。

プラグを外す前にオイルを除去するには、プラグ穴に細い短冊状に切ったウエスを押し込んで少しずつ吸引する方法もありますが、コンプレッサーとエアブローガンがあれば空気の力で吹き飛ばすのが手っ取り早いです。この時、プラグ穴の入り口をウエスで塞いでおけば、穴の底から噴き出したオイルで周囲を汚さずに済みます。

噴出したオイルで周囲を汚さないよう、プラグ穴をウエスでカバーした状態でエアブローするのがポイント。パーツクリーナーをスプレーした後にエアブローすれば、汚れ落ちがさらに良くなる。

エスには噴き出したオイルだけでなく、プラグ穴内部の汚れも一緒に付着している。プラグキャップは一応シールタイプだが、気密性が高いわけではないので汚れるのは致し方ない。裏を返せば、水やオイルが入っていなくても、シールタイプのプラグキャップを外した後のエアブローは必須ということだ。

また一度で洗浄しきれない場合、プラグ穴にパーツクリーナーをスプレーしてエアブローすることで、効果的に洗浄できます。密閉タイプのプラグキャップ装着車の場合、プラグ穴に砂利や異物が入り込むことは稀ですが、パーツクリーナー＋エアブローで事前に洗浄を行うことは、空冷エンジンにとっても有効です。

プラグを外す前にここまで準備しておけば、燃焼室に異物を落とすことも雌ネジを傷めるリスクも減らすことができるはずです。新しいプラグを装着する際は、ネジがしっかりかみ合うまでは指で摘まんで回すのが基本ですが、プラグ穴が深いエンジンでは最初からプラグレンチを使わざるを得ない場合もあります。その際はプラグをネジ穴に対して垂直に運び、プラグレンチに勢いをつけず、ネジがかみ合うまでゆっくりと回します。

通常のボルトナットと違って、プラグのネジ穴を傷めるとシリンダーヘッドの大修理が必要になります。たかがプラグ交換だと侮らず、緩める前の準備が重要であることを理解しておきましょう。

外したプラグの金具部分は乳化したオイルでベトベトに汚れている。ここから判断できることは、このプラグ穴にはオイルと水分が混在していたということだ。水だけが入ってプラグが錆びついてしまうと、外す際に折れて抜けなくなることもある。そうなると抜き取り作業でたいへんな労力がかかるので、油分もあったのは不幸中の幸いだったかもしれない。