
雨天走行後すぐに車体カバーをかけたり、長期間屋外で放置するのはバイクにとって大敵ですが、フロントフォークのインナーチューブは影響を受けやすいパーツのひとつです。表面処理の硬質クロムメッキは基本的には丈夫ですが、点サビが発生するとオイルシールを傷つけフォークオイル漏れの原因となるため交換が必要です。愛車のフロントフォークが正立タイプであれば、インナーチューブ交換作業は意外に容易です。点サビでオイルがにじむフロントフォークは、早めに手当しましょう。
水分は目に見えない孔から浸入する
フロントサスペンションを分解する際は、フロントホイールを外してフロントフォークを抜き、マイナスドライバーや画像のような当たり幅の広い工具でアウターチューブ上部に圧入されているダストシールを取り外す。
経年劣化や日常の手入れ不足によるさまざまな不具合の中で、筆頭に挙げられるのがフロントフォークインナーチューブの点サビではないでしょうか? 屋外保管や屋内でも湿気の多い場所、雨天走行の後でそのままおいておくなど、水分はインナーチューブの大敵です。
インナーチューブの表面は硬質クロムメッキで処理されており、パイプ素材の上に金属のクロムを電気的に密着させているのに、そのメッキが錆びることを不思議に感じる方もいるかもしれません。しかし、硬質クロムのメッキ皮膜は数µm(マイクロメートル)~100µmほどしかありません。1µmは0.001mmなので、実はとても薄いのです。
さらにメッキ皮膜には、我々の目には見えないレベルの小ささで無数の孔やクラックが生じています。水分が付着したまま放置することで、その一部は小さな孔やクラックから浸透して鉄素材であるインナーチューブパイプに到達して、そこでサビが発生するのです。
メッキの皮膜を厚くすることで、水分の浸入を減らすことはできます。しかし硬度や耐摩耗性などの特性は薄い皮膜でも確保でき、分厚いメッキ皮膜は製造コストにも影響するため、市販モデルではあまり用いられていないようです。
つまりインナーチューブのサビを防止するには、水分が付着したまま放置しない、湿度の高い状態で保管しないことが重要です。またパーツクリーナーで脱脂するよりも、適度な油分で保湿しておくことも有効かもしれません。ただし油分を与えすぎるとホコリやゴミが付着しやすくなり、その汚れがオイルシールのリップを傷つける原因になるので注意が必要です。
- ポイント1・走行後、保管時の水濡れでインナーチューブは錆びる
- ポイント2・硬いクロムメッキの表面には目に見えない孔やクラックがある
インナーチューブ交換にはサスペンションの分解が必要
ゼファーのフォークピストン上部は12の角があり、対辺21mmのボルトがピッタリはまる。ピストンパイプの穴がもっと小さく、クサビ状の専用工具を押しつけて回り止めとする機種もある。
アウターチューブ下部からフォークピストンを固定するキャップボルトは、なめると大変面倒なので六角穴の汚れを取り除いてからヘキサゴンレンチで回すこと。銅製のシールワッシャーは潰れることでオイル漏れを防止するので、復元時には新品に交換する。
インナーチューブ下端にはグレーのスライドブッシュがあり、アウターチューブ上端には褐色のガイドブッシュが圧入されている。両ブッシュの直径の差によって、インナーチューブを引き抜く際にガイドブッシュが引き抜かれるように外れる。
点サビが出たインナーチューブのままフロントフォークを伸縮させると、剥がれたクロムメッキの縁がオイルシールのリップを傷つける可能性が高くなります。するとサスペンション内部のフォークオイルが密封できなくなり、アウターチューブの上部から滲み出すようになります。これは正立フォークの例ですが、倒立フォークであればアウターチューブ下部からオイルが流れ出てしまいます。
錆びた部分を入念に脱脂して、半田や金属ロウで窪みを埋める修理方法もありますが、大半の場合これは一時しのぎにしかなりません。半田が密着するように、サビでえぐられた部分の周辺、健全なクロムメッキ表面を足づけすれば、その後に表面をならさなければなりません。インナーチューブが入手できるなら、中途半端に半田を使うより部品交換で対応する方がずっと確実です。
錆びたインナーチューブを交換するには、車体からフロントサスペンションを取り外すことが必要で、作業はかなり大がかりになります。また、サスペンションの構造によっても難易度が上下するので、作業前にあらかじめ見極めておきます。
倒立フォークの場合、一般的なハンドツール以外にも機種専用の特殊工具が必要になることが多いので、安易に手を出さない方が無難です。また正立フォークでも、フォーク上部にダンパー調整機構が付く機種は、簡単に分解できないことがあるので要注意です。
それらに対して、主として中型以下のネイキッドやスポーツバイクに多く採用されている調整機構を持たない正立フォークの場合、フォーク上部のボルトを外せばスプリングが外れてオイルが抜けて、アウターチューブ下部にボルト止めされたフォークピストンを外せばインナーチューブを分解できます。このタイプのフロントフォークはチェリアーニタイプ、あるいはピストンスライドタイプと呼ばれています。
- ポイント1・インナーチューブ交換にはサスペンションの分解が必要
- ポイント2・ピストンスライドの正立フォークならハンドツールで分解できる
分解組み立て時はフォークピストンの回り止めが肝心
インナーチューブは機種はもちろん、同一機種でも年式によって変更されている場合もあるので、必ず自分のバイクに適合した部品を使用すること。ウェビックのショッピングサイトでも機種別のインナーチューブを販売している。
標準的な正立フォークとして普及しているピストンスライドタイプは、減衰力を発生させるフォークピストンがアウターチューブ下部のボルトで固定されています。このピストンは、インナーチューブが伸びきった際のストッパーの役目も兼ねているので、インナーチューブ交換時には取り外す必要があります。
アウターチューブのキャリパー取り付け部を万力で保持しながら六角レンチでボルトを回しますが、ボルトと一緒にアウターチューブ内のピストンが回って抜けなくなることがあります。インナーチューブが伸びきり状態にある時はピストンが押さえられるため、ボルトが供回りしたらフォークスプリングと上部のボルトを復元してテンションを掛けると有効な場合があります。
作業手順を紹介しているゼファー400用フォークの場合、フォークピストン上部に12角の凹があり、二面幅が21mmのボルトを差し込むと回り止めとなります。ボルトとナットを組み合わせてソケット工具のエクステンションバーなどで延長してやれば、フォークピストンをしっかり固定でき、下部のボルトの着脱が容易になります。
フォークピストンを外したら、インナーチューブを引き抜くことができます。この時、インナーチューブ下端のスライドブッシュがアウターチューブ上端のガイドブッシュに当たって止まるので、インナーチューブを数回ストロークさせてガイドブッシュを引き抜きます。この時同時にバックアップリングとオイルシールも抜けるので、オイルシールは無条件で新品に交換し、ガイドブッシュとバックアップリングは表面に傷やサビがなければ再使用します。
交換するインナーチューブは、メーカー純正部品に加えて人気機種では社外品が発売されていることもあります。どちらを使うにしても、外径や全長などの寸法はとても重要なので、機種に適合した部品を選ぶことが重要です。
復元時はインナーチューブにフォークピストンを通してからアウターチューブに挿入して、フォークピストン先端のナット部分をアウターチューブ下端越しにキャップボルトで固定する。このときフォークピストンが中心からずれていると、インナーチューブがフルボトムした際にピストン先端のオイルロックピース(画像では白い樹脂部品)に食い込んでしまう。すると最圧縮時の減衰力も変わってしまうので、中心に固定しなくてはならない。
褐色のガイドブッシュをアウターチューブに打ち込む際は、専用工具のシールプッシャーがあると作業がスムーズに進む。斜めに打ち込むとフリクションロスが増えたりオイル漏れの原因になるので、あらかじめ用意しておこう。価格は5000円程度。
ガイドブッシュをアウターチューブに圧入するとこのようになる(バックアップリングは外した状態)。上下のブッシュによってインナーチューブがスムーズに伸縮しながら、内部のスプリングとフォークオイルで衝撃を吸収して減衰力を発生する。
分解時と逆の手順で行う組み立て作業では、フォークピストンをアウターチューブ底の中心に固定することが重要です。中心からずれると部品が干渉して、作動性が悪くなる上に内部パーツが摩耗してしまいます。そうしたトラブルを避けるには、フォークピストン下部のボルトを本締めする前に、インナーチューブを何度かフルストロークさせることでセンターが出て、正しいポジションで固定できます。
インナーチューブの点サビは見た目が悪いのはもちろんですが、オイルシールへのダメージやフォークオイル漏れなど他の部分にも影響するやっかいなトラブルです。さまざまな経験を積んだ上で取り組みたい作業のひとつですが、フロントフォークの分解はオイルシール交換でも必要な作業なので、手順とコツを覚えておくと良いでしょう。
オイルシールをセットする際は、インナーチューブの上部に薄いビニールやラップを被せておくことで、シールのリップ部分の傷付きを予防できる。シールプッシャーのアダプターをシール上面に均等に当てて、傾かないように注意しながらアウターチューブに圧入する。
- ポイント1・サスペンション分解時はフォークピストンの回り止めが必要な場合も
- ポイント2・フォークピストン組み付け時はセンタリングが有効
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