ビギナーからベテランまで、多くのライダーに親しまれている原付クラスのミニバイク。スクーターと違って、モンキーやNSR50/80、スーパーカブなど機種を問わず、駆動方式がドライブチェーン式なのはご存じの通り。ビッグバイクに比べてパワーが小さい分軽く見られがちですが、メンテ不足でシビアなコンディションにさらされがちという特徴もあります。少しでも寿命を延ばすには給油が不可欠ですが、伸びてしまったら早めに交換することが重要です。

小排気量車はノンシールだから伸びやすい

チェーンが伸びて遊びが大きくなったら、アクスルナットを緩めてチェーンアジャスターを引いて調整する際は、スイングアームの目盛りを参考に左右の引き具合を合わせることが重要。調整範囲いっぱいまで引いても遊びが大きいなら交換時期だ。画像の場合、アジャスターボルト残量の少なさからも伸び量の多さが判断できる。

外プレートと内プレートの間にゴムシールが組み込まれたシールチェーンに比べて、ノンシールはスムーズに動くため抵抗が少なく感じる。だが駆動力が加わった時にピンとブッシュがダイレクトに接するため、グリスが封入されたシールチェーンの方が実際のフリクションロスは小さい。

原付クラスに装着されているドライブチェーンは420サイズが多く、このサイズだとほとんどがノンシールチェーンとなります。チェーンの構成要素であるピンとブッシュの隙間にグリスを封入したシールチェーンに対して、ノンシールはピンとブッシュがダイレクトに接触するため、本来であればシールチェーンより短いスパンの給油が必要です。

ところが小排気量車はビッグバイクに比べて気軽に乗れることもあり、チョコチョコと近所を乗り回すうちにメンテナンスが疎かになりがちです。また車体が軽くエンジンパワーもほどほどなので、急加速急減速でラフに扱うことも多くなりがちです。

加減速が多いほどドライブチェーンには大きな力が加わり、ピンとブッシュが強い力でこすれ合って接触部分が摩耗してピッチが広がり、チェーンの伸びにつながります。もちろん、信頼できるメーカーの製品であればノンシールであっても必要充分な耐久性がありますが、それでもチェーンオイルが不足した状態で走り続ければ、適切なメンテナンスを行ってきたチェーンより短期間で伸びるのは避けられません。

 

POINT
  1. 小排気量モデルの多くがノンシールチェーンを装着
  2. ノンシールはシールチェーンに比べて頻繁な注油が必要

許容範囲は僅か1%!? シビアな伸び量問題

上が新品チェーンで下の2本が中古チェーン。ピンとブッシュが摩耗してクリアランスが増大している中古チェーンは、横方向にして持ち上げると大きく垂れ下がる。この垂れ下がりの分、回転方向にも伸びが発生しており、実際のピッチは新品時より広がっている。

チェーンが伸びると遊びが大きくなるので、リアホイールのアクスルシャフト部にあるチェーンアジャスターで遊びを調整します。この作業によって一見すると遊びは適正になりますが、チェーンが伸びればピンの間隔=ピッチが僅かずつ広がっていくため、チェーンとかみ合うスプロケットにも影響が出てきます。

チェーンのピッチとスプロケットの山と谷のピッチはそもそもは同じですが、チェーンのピッチが広がることでスプロケットの谷を削る力が発生します。それが進行するとスプロケットの山は細く尖った形状になってしまい、チェーンだけ新品にしてもかみ合いが悪くなってしまいます。そのため、チェーンが伸びきった時にはスプロケットも同時交換が必要用途なり、メンテナンスの費用がかさんでしまいます。

ですから、チェーンの遊びを何度か調整して伸びてきたことを実感したら、スプロケットの山の形が変わる前にチェーン交換することをおすすめします。

チェーンの伸び具合は、スイングーアームのチェーンアジャスターを引き切ったら交換時期と分かりますが、チェーンを張った状態でピンの間の長さを測定するとより正確に判断できます。420チェーンの場合、チェーン側面に見えるリンクピンの間隔は4/8インチ=12.7mmと決まっているので、ピン11本分の間隔は127mmとなります。

チェーンが伸びてピッチが広がって隙間が増えた時、江沼チヱンの場合は伸びが1%以上になったら交換時期であるとアナウンスしています。つまり新品時に127mmだった間隔がおよそ128.3mmになったら交換のタイミングというわけです。
ずいぶん厳しく感じるかもしれませんが、リンク数基準で100リンクが101リンク以上になると考えると、1%の伸びは小さくないことが分かります。

またピンとブッシュが摩耗することで、回転方向だけでなく横方向のたるみも大きくなります。新品と中古を比べてみれば、中古チェーンは明らかに垂れ下がります。

 

POINT
  1. チェーンが伸びに連動してスプロケットの摩耗も進行する
  2. 1コマごとの伸びは僅かでもチェーン全体では伸びが大きくなる
  3. 新品時のピッチより1%伸びたら交換時期

専用工具不要でつなげるノンシールチェーン

江沼チヱン製のスタンダードチェーンにはノンシールの420、428サイズ、シールタイプの420サイズがある。ノンシールの420サイズの適合排気量が80cc以下なのに対して、QXリングを採用する420SRXシールチェーンは150ccまで使用可能。ピンとブッシュのグリス潤滑によって、より大きな負荷に耐えることを示している。

チェーン交換を行う場合、最も気を遣うのはリンク数の問題です。前後スプロケットの歯数が純正どおりであれば、サービスマニュアルに記載されたリンク数で間違いありません。しかしドリブンスプロケットの歯数を純正より増やしている時には、純正リンク数より長くなければ届かないこともあります。ここではEKチェーンの420サイズスタンダードチェーン100リンクを、純正リンク94のヤマハチャピィに装着する手順を紹介します。

あらかじめ6リンク分をカットしても良いのですが、新品チェーンを前後スプロケットにセットしてカット位置を決めれば、短く切断しすぎる失敗がなく安全確実です。またこの時、リアタイヤはチェーン調整範囲の一番前にしておくことがポイントです。カット位置が決まったらチェーンツールでピンを押し抜きますが、具体的な手順は過去の記事(https://www.webike.net/magazine/maintenance/maintenance-chain/28766)を参照してください。

ノンシールチェーンの場合、チェーンをつなぐジョイントはクリップジョイントで、かしめ工具などの専用ツールは不要です。リンクプレートは圧入ではなく指ではめられるルーズ式で、U字型のクリップはラジオペンチで装着できます。

ただしクリップをセットする際はU字の向きに注意が必要で、U側がチェーンの回転方向に向かうようセットします。こうしておけば、チェーン回転時に万が一クリップに何かが接触してもクリップが開く力にならないためジョイント脱落を防止できます。

ジョイントをセットしたら、チェーンアジャスターで適切な遊び量を確保してアクスルナットを締め付けます。この時、ドリブンスプロケットとチェーンの間にウエスや丸軸のドライバーなどを挟んでチェーンをピンと張っておくと、チェーンアジャスターのガタを抑えることができます。

パワー少ない小排気量車だからこそ、駆動系のロスを減らすことが重要です。ノンシールチェーンはシールチェーン以上に普段のメンテナンスに気を配り、適切なタイミングで交換することを心がけましょう。

作業のポイント

エンジン側のドライブスプロケットの固定方法には、センターナット式、ボルトプレート式があり、小排気量車の中には画像のようなスナップリング式もある。スナップリングプライヤーで取り外す際、リング自体がねじれて変形した場合は再使用せず、新品リングに交換する。

アクスルシャフトを一番前までずらしてチェーンを掛けて、カット位置を決める。この時、チェーン両端の内プレート同士が隣り合わせにならなければ、アクスルシャフトを若干後方に引いて調整する。遊びができないほど張ってしまうようなら、一コマ分ずらしてセットする。

チェーンサイズの大小にかかわらずリンクピンの両端は強固にかしめてあるので、カット時には専用のチェーンツールを使用する。ピンを押し抜く際にはチェーンツールのボルトに大きな力が加わるので、かじり防止のために二硫化モリブデングリスを塗布。

本体、継手リンクプレート、クリップからなるクリップジョイント。本体のピンとチェーン側のブッシュの隙間にグリスが封入されたシールチェーンに比べて、潤滑とフリクションの両面でシビア。420サイズではノンシールが標準なので、日頃のメンテナンスが重要になる。

画像右手方向にチェーンが進行する時、U字側が進行方向に向くようにクリップをはめる。ラジオペンチでU字の外を挟み、ピンの溝にパチッとはまったことを確認する。外プレートとクリップを0.4mm程度の細いステンレスの針金でワイヤリングすると、クリップの脱落防止に有効だ。

 

POINT
  1. スプロケ交換歴が不明なら、チェーンを掛けて長さを決める
  2. ジョイント固定のクリップはU字側を前に向ける

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