クラッチレバーの操作が重くなってきたら、クラッチケーブルの洗浄と給油を行うのが第一段階です。それでも症状が改善しなければ、もう一歩踏み込んで「クラッチレリーズ」の潤滑に注目します。ケーブルを引く力をクラッチを切る力に変換するクラッチレリーズには大きな力が加わるため潤滑が必要です。パーツ交換の前に、まずは愛車のレリーズ形式を確認して、適切なメンテナンスを行いましょう。

クラッチケーブルとクラッチの間にあるのがクラッチレリーズ

クラッチレバーを握った力がクラッチケーブルを引っ張り、フリクションプレートとクラッチプレートに隙間ができてクラッチが切れた状態になります。
だからレバーの操作感が重くなった時にケーブルにオイルを挿して潤滑性が回復すると、レバータッチが軽くなるわけです。

しかしクラッチケーブルとクラッチ本体の間にはもうひとつ「クラッチレリーズ」という部品が存在します。
これはケーブルを引く力をクラッチを切る力に変換する部品で、プッシュタイプとプルタイプに区別され、さらにケーブルタイプだけでなく油圧クラッチのバイクにもクラッチレリーズが存在します。

クラッチ操作時に重さを感じるのは、主にケーブルタイプのクラッチであることが多いので、ここではケーブルタイプクラッチレリーズの役割に注目します。

カワサキKZ1000Jのクラッチレリーズはドライブスプロケットカバーの裏側にある。クラッチケーブルを引くとレリーズアームが反時計方向に回りながらせり上がり、プッシュロッドを押し込む。押されたプッシュロッドがクラッチハブを押し上げることでクラッチが切れるという仕組み。

POINT
  1. クラッチレリーズはケーブル式クラッチにも油圧クラッチにも存在する
  2. ケーブルにオイルを与えてもクラッチの操作感が重い場合は、クラッチレリーズの確認が有効かも

カムベアリングタイプのレリーズはグリスアップが有効

ここで紹介するクラッチレリーズはカワサキKZ1000Jのもので、「カム」と「ベアリング」と「クラッチレリーズ本体」の3点で構成されています。
クラッチケーブルを引くとクラッチレリーズが回転し、レリーズとカムの間にセットされたベアリングに乗り上げることでプッシュロッドを押してクラッチが切れる、というのが動作の原理です。

KZ1000Jのクラッチレリーズはエンジン左側のドライブスプロケットカバーに組み込まれているため飛散したチェーンオイルが付着する上に、砂やホコリがチェーンオイルと混ざれば粘土状の異物となります。
こうした汚れが抵抗になるとクラッチレリーズの動きが悪くなり、それを無理に動かそうとするためクラッチレバーが重くなり、それだけならまだしも稼動部分に付着した汚れでレリーズが摩耗すればさらに面倒なことになります。

クラッチレリーズの状態を知るにはケーブルを外すか、このバイクの場合ならスプロケットカバーを外してレリーズを単体で動かしてみれば分かります。
動作に抵抗がある、引いたレリーズがスムーズに戻らないなどの症状があれば、レリーズを分解して洗浄、グリスアップしてみましょう。

POINT
  1. スプロケットカバーに組み込まれたクラッチレリーズは汚れが着きやすい
  2. クラッチレリーズの潤滑不良は単体で動かすと分かりやすい

分解前にパーツ構成を覚えておこう

クラッチレリーズの取り外し方は車両によってまちまちですが、KZ1000Jの場合はレリーズ本体を引き上げることで外すことができ、スプロケットカバー側にはホコリや水の浸入を防ぐオイルシールがセットされているので、このシールの状態も確認しておきます。
レリーズの奥には3個の鋼球が一体化されたベアリングとして収まり、これをピックアップツールで外すと、一番奥にカムがあります。
レリーズ本体にはクラッチケーブルを取り付けるアームが付いていますが、このアームの角度を間違えるとケーブルが届かなかったりカバーが付かなくなるので、部品を外す際はそれぞれがどのように組み込まれていたかを確認しながら作業しましょう。

裏を返せば、復元した際にレリーズの機能が正常であれば、組み立て方は正しいと判断できます。

レリーズとカムには、ベアリングの球が入る溝(窪み)が3カ所にあります。
クラッチレバーを握ってレリーズが回転すると、ボールが溝を乗り越えてリフトすることで、プッシュロッドを押してクラッチが切れます。

そのため、ベアリングの潤滑が不足すればカムとレリーズに抵抗が発生してクラッチの操作感が重くなるのはもちろんのこと、溝が摩耗すればレリーズのリフト量が減少するためクラッチの切れが悪くなってしまいます。

レリーズとベアリングを取り外したら古いグリスをていねいに取り除き、新しいグリスを塗布します。
せっかくレリーズをグリスアップしたのなら、クランクケース内を左右に貫通しているプッシュロッドを引き抜いて汚れを拭き取り、防錆のため薄くグリスを塗って復元するのも有効で、この際にクランクケース側のオイルシールのリップがプッシュロッドに食い込み、線状痕が入っていないかどうかも確認しておきましょう。

クラッチケーブルの給油は行っても、クラッチレリーズのメンテナンスに気がついていないオーナーさんも少なくないようですが、スムーズなクラッチ操作のためにはクラッチレリーズが重要な役割を果たしていることを知っておくと良いでしょう。

クラッチを断続するプッシュロッドはミッションカバー部分からエンジン内に入り、インプットシャフトを貫通してクラッチのオペレーティングプレートに接する。オイルシールのリップの接触部分や、ロッドの両端が摩耗していないかをチェックする。

POINT
  1. 分解時はパーツどうしの組み合わせを確認しよう
  2. プッシュロッドの洗浄と摩耗もチェックしておく

クラッチレリーズのメンテナンスはクラッチ操作感に影響を与える。

特にプッシュタイプのレリーズは定期的にチェックしよう。


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