絶版車や旧車でありがちな「エンジン回転が上がれば調子イイんだけど……」「アイドリングでエンストしがちで気を遣う」という症状。コンピュータで補正してくれるインジェクションと違って、キャブレター車はいろいろデリケートだからと諦めていませんか? 実はそれ、キャブレター内部の汚れが原因かも。手間は掛かりますが、完全分解して強力なクリーナーに漬け込むことで改善する可能性もあります。

吹き返しやカーボン、ワニスの付着で汚れたキャブの問題点

d01

純正エアークリーナーボックスには、環境対策のためクランクケースからブローバイホースがつながっている。混合気が燃焼、膨張する際にピストンとシリンダーの隙間からクランクケース内に流れ込む燃焼ガスやオイルミストなどがブローバイホース、エアークリーナーボックスを通過してキャブレターの吸気側に流れるため、走行距離が長くなったりピストンクリアランスが大きくなるとこうした汚れが付着することがある。

 

d02

キャブのファンネル側にスス汚れが大量に付着しているのに、フロートチャンバー内の汚れが皆無なのが、不動車ではない過走行車の特徴。ジェット類が詰まっておらずアイドリングや低速域でも不具合がないので、上の画像のように汚れていても気づきづらいのだ。

 

ベンチュリー内を流れる吸入空気による負圧によってフロートチャンバー内のガソリンが吸い上げられ、混合気となって燃焼室に流れ込んで燃焼する。これがキャブレター車の吸入行程のあらましです。
これだけを見ると、ガソリンや混合気は常にキャブからエンジン側に流れているように思えますが、実際にはエンジンからキャブへの逆流もあります。
4ストロークエンジンであれば、吸気バルブが開いてピストンがシリンダー内を降下する際の負圧により吸入空気がシリンダーに流れます。流れる吸入空気には慣性力があるので、ピストンがシリンダーの下死点を過ぎても吸気バルブは開いており、上昇行程に移った後でようやく閉じます。この時、吸気の勢いとピストン上昇時の圧縮がぶつかり合い、一部がキャブレター側に押し戻されます。
圧縮上死点で燃焼が起こった後で排気バルブが開き、排気行程が始まってしばらくすると吸気バルブが開いて燃焼室内に残った排気ガスを押し出しますが、この際にも燃焼室内に残った圧力によって一部が吸気側に押し戻されます。
インテークマニホールド内部の空気にはこうした動きがあるため、キャブレターのスロットルバルブよりエンジン側にはカーボンや汚れが付着します。

走行していなくても、長期保管や放置によってフロートチャンバー内のガソリンが劣化して発生するワニスも、キャブレター内部の汚れの原因にになります。
キャブレター内部の通路は、空気やガソリンを計量するために内部寸法が厳密に管理されています。最も重要なガソリンの計量に関して、パイロットジェットやメインジェット、ニードルジェットやジェットニードルがあるのはそのためです。
当然ながら、キャブ本体内部通路のコンディションも重要です。ジェットで計量されたガソリンや、空気の通り道であるエアージェット内部に汚れや詰まりがあれば、空気やガソリンの通過量が変化して正しい空燃比にならず、エンジン不調の原因になります。
キャブ内部に汚れが蓄積した旧車や絶版車。長期保管期間がありガソリンが劣化したキャブが不調になるのは、偶然や運が悪いからではなく必然なのです。

ジェットや通路のサイズが小さいスロー、パイロット系が先に詰まる

d03

キャブレターの入り口部分に並ぶスローエアージェットとメインエアージェットは、パイロットジェットとメインジェットに空気を送る重要な部分。ここに汚れなどが詰まると、両ジェットに流れる空気が少なくなるので空燃比が変化して不調の原因になる。メインエアーに比べてスローエアーの方が口径が小さいため、汚れによる影響が大きく現れる。

 

「アイドリングが安定しない」「スロットル開度が小さい領域では3気筒しか燃焼せず、開度が大きくなると4気筒に火が飛ぶ」(いずれも4気筒エンジンの場合)というように、キャブの調子が悪い場合その多くはパイロット系やスロー系で発生します。
その理由はパイロットやスロー系とメイン系の通路径の違いにあります。
メインジェットとパイロットジェットの口径を比較すると、パイロットはメインに比べて明らかに口径が小さいはずです。ケーヒン製キャブレターの一例では、パイロット#28に対してメイン#105という組み合わせがあります。ケーヒン製ジェットの番号は穴径と一致しているのでパイロットはφ0.28mm、メインはφ1.05mmとなります。直径の比較では約4倍、穴の面積では約14倍の差があります。
フロートチャンバー内のガソリンに浸った状態で同条件で放置された場合、穴径が小さいパイロットジェットの方がメインジェットより詰まりやすいことは容易に想像できるはずです。

空気が通るエアージェットに関しても同様で、メインエアージェットよりスローエアージェットの方が通路が小さく作られており、その分詰まりやすくなっています。
パイロット系にはこうした特徴があるため、アイドリングやスロットル低開度時の不整が発生しやすくなります。もちろん、普段から定期的に乗っているバイクであれば、そうした不調を心配する必要はありません。ただし走行距離が多かったりセッティングが濃すぎる状態で乗り続けていると、前述したような吹き返しやカーボンの付着によって、アイドリングからスロットル低開度域の混合気の出口であるパイロットアウトレットやスローポートに汚れが付着して不調を来すことがあるので注意が必要です。

この記事にいいねする

今回紹介した製品はこちら

コメントを残す

今回紹介したブランドはこちら