
シリンダーヘッドに取り付けられているスパークプラグは、燃焼室内の混合気に着火するための重要なパーツであり、走行距離に応じて定期的な交換が必要です。取り付けは一般的なビスやボルトと同様にレンチで行いますが、斜めにねじ込んだりネジ溝に異物があるまま取り付けようとするとかじってしまうことがあります。そんな時に活躍するのがスパークプラグ専用の修正タップです。
うかつに手を出すと痛い目に遭うこともあるスパークプラグ交換

キャブレター車にとって、スパークプラグの焼け具合や混合比の状態を表すバロメーターとなる。そのため走行距離による交換時期以外でも着脱することがあるが、簡単な作業だと侮らず慎重に行うことが重要だ。
スパークプラグはエンジンの燃焼状態やコンディションを知るための重要なバロメーターです。フューエルインジェクション全盛の今となっては混合気の濃い薄いはさほど問題になりませんが、キャブレター時代はジェットやニードルの組み合わせによって混合気が大きく変化したため、電極の焼け具合やくすぶり具合はセッティングの善し悪しを知る重要な手がかりでした。
シリンダーヘッドに取り付けられたスパークプラグをプラグレンチで着脱する際、機種によってはカウルやガソリンタンク取り外しなどがあるものの、作業自体はそれほど難しくはありません。
しかし簡単だからと雑に作業すると、思わぬトラブルに遭遇するリスクもあります。最も危険なのがネジ溝の損傷です。一般的なネジに置き換えると、スパークプラグはボルトでありシリンダーヘッドはナットとなります。
ボルトナットの関係であれば、ボルトが鉄製ならナットも鉄というように、基本的に双方の素材は同一になります。しかしスパークプラグとシリンダーヘッドの場合、ネジ部分は鉄と炭素からなる合金なのに対して、シリンダーヘッドはアルミ製であるため、素材の固さが大きく異なります。
そのため、シリンダーヘッドの雌ネジに対してスパークプラグが若干傾いた状態でも、最初の数山は入ってしまう場合があるのです。特に、プラグがシリンダーの奥深くにあって指でつまんで回せず、最初からプラグソケット+ラチェットハンドルの組み合わせで取り付け始める時には注意が必要です。
プラグやソケットを直接回すのに比べて、ラチェットハンドルを使用するとトルクが大きくなりがちで、プラグが傾いてナメそうになっているのに気づかないこともあります。
プラグメーカーでは最初の数山は必ず手で回して取り付けるよう説明していますが、慣れた作業で手間を惜しむと重大な結果につながることがあるのです。
ネジ溝が潰れたらエンジンは終了!?
スパークプラグの雄ネジに比べてシリンダーヘッドの雌ネジの方が素材が柔らかいため、ネジ溝が損傷する場合は大半がシリンダーヘッド側となります。シリンダー内は混合気の爆圧的燃焼によって5MPaもの強烈な圧力が発生して、その圧力はスパークプラグにも加わっています。
プラグを斜めに入れたり、シリンダーヘッドのネジ溝に付着した異物を噛み込むなどして、ヘッドの雌ネジがかじり掛けた際「プラグを締めれば何とかなるだろう」と作業を強行するのは最悪です。シリンダーヘッドのネジ溝が潰れるとスパークプラグの締め付けトルク不足の原因となり、圧縮漏れの原因となります。症状がさらに進行すると、圧縮圧力によって雌ネジが破損してエンジン稼働中にスパークプラグが吹き飛ぶこともあります。
このような場合、リコイルなどの雌ネジ補修アイテムで修理ができることもありますが、そのためにはシリンダーヘッド単体で作業するのが原則です。そうなると、エンジンの分解が必要で、手間もコストも膨大になります。場合によってはそのエンジン自体を諦めなくてはならないこともあります。
プラグ穴が深いエンジンの場合、プラグを外した際に穴の底に溜まった異物が落ちてネジ溝に引っかかることがあります。これを避けるには、プラグを外す前にプラグ穴の中をエアーブローしてゴミや異物を吹き飛ばすのが有効です。
プラグキャップを外したらエアーブローガンを突っ込んでプシューッ!とブローするのにはちゃんとした理由があるのです。
こうしたトラブルを回避するには、最初の数山分はとにかく慎重にプラグを回し、スムーズに入らなかったり異物を噛み込むジャリッとした感覚があった際は、迷わず一旦抜いてネジ溝の状態を確認しましょう。
プラグのネジサイズに合わせて設定されているスパークプラグ修正タップ

スパークプラグのネジサイズに合わせて設定されているプラグホール修正タップ。新たに雌ネジを切るための工具ではないので先端から根元まで直径が変わらず、修正時に切削した切り粉を回収する溝部がある。

修正後も元のサイズのプラグが使えるよう、修正タップはプラグサイズに合わせたものを使用する。NGKの場合、ネジ径φ10mmはCプラグとなる。

ここで紹介するM10&M12、M14の2本のプラグホール修正タップは、どちらも対辺21mmのプラグソケットで使用する。そのためシリンダーヘッドのプラグ穴のサイズによってはプラグソケットが干渉することもあるので、購入前に確認すること。
スパークプラグを取り付ける際に違和感がある場合、無理にねじ込まず修正するのが最善策です。そのための工具として存在するのが「プラグホール修正タップ」です。
タップ&ダイスセットでエンジンや車体のネジの損傷を修正できるように、プラグホール修正タップはシリンダーヘッドのプラグのネジ溝の修正や異物除去が可能です。構造的には材料に雌ネジを作るハンドタップよりも寸胴で、切りくずや異物を回収できる溝部があるのが特徴です。
また、スパークプラグのネジに合わせたサイズが設定されており、装着されているスパークプラグのネジ寸法を確認して適合タップサイズを選択します。
NGKプラグの場合、Cプラグのネジ径がφ10mm、Dプラグはφ12mm、Bプラグはφ14mmで、それぞれのネジサイズに対応するタップがあります。
ここで注意が必要なのは、ネジ部のサイズが同じでもプラグレンチが掛かる六角対辺寸法が異なる場合があることです。ここで紹介しているスパークプラグ修正タップはプラグソケットで回す六角部があるタイプですが、シリンダーヘッドのプラグ穴のサイズによっては六角部が干渉する可能性があります。
ここで紹介する両端にM10、M12のタップを持つ製品の場合、中央の六角部の対辺は21mmで、ソケットはBプラグ用を使用します。しかしM12のDプラグの一般的な対辺は16mm(他に対辺14mm、18mmもある)のため、Bプラグ用ソケットではプラグ穴に入らない場合もあります。
プラグ穴の周辺に余地のある空冷エンジンや旧車、絶版車なら問題なくても、ヘッド周りがコンパクトに設計された水冷エンジンでは、タップやソケットのサイズも確認しておくことが必要です。
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