
六角頭のボルトと並んで締め付け部分で多用されているのが、キャップボルトとかヘックスボルトなどと呼ばれる六角穴付きボルトです。そもそも六角頭と六角穴は何が違ってどのように使い分けられているのか? 六角穴付きボルトを回すための六角棒レンチにはどんな種類や特徴があるのか? それを知ることで工具選びが楽しくなります。
六角穴付きボルトは狭い場所でも使えるのが特徴
昔ながらの六角頭のボルトに対して、最近のバイクでもっぱら多用されているのが六角穴付きボルトです。ネジの中心に六角形の穴がある形状からそう呼ばれる六角穴付きボルトは、他にキャップボルトとかヘックスボルトとも呼ばれています。
長年にわたって六角頭が主役を務めてきたネジの世界で、キャップボルトが台頭してきたのには主に2つの理由があります。
一つ目はネジの頭の周囲をコンパクトにできるという理由です。六角頭の場合、スパナやソケットをボルトの外側からかぶせるため、工具分の余地が必要です。一方キャップボルトは頭の内側に工具を差し込んで回すため、他の部品をボルトの外周ギリギリまで寄せることができ、全体を小さく仕上げることが可能です。
二つ目はキャップボルトの方がトルクをしっかり伝達できるという理由です。六角頭のボルトも、メガネレンチやソケットレンチで回せば工具とボルトの接点は6カ所になりますが、スパナだと接点が2カ所しかないため大きなトルクを加えると角部をなめるリスクがあります。
これに対してキャップボルトとヘキサゴンレンチは必ず6点で接触するため、応力が分散されてボルトや工具が痛みづらい利点があります。
ちなみに六角穴付きボルトにいくつかの呼称があるように、ヘキサゴンレンチも六角棒レンチやヘックスレンチなどユーザーや工具メーカーによって異なる名称で呼ばれています。とはいえどれも役割は同じなので、呼びやすい名前で呼べば良いでしょう。この記事では以後、キャップボルトとヘキサゴンレンチという呼称で進めます。
L形レンチはボールポイントタイプが使いやすい

ヘキサゴンレンチを象徴するL形レンチ。軸部を含めてすべて六角棒から製造されているレンチもあるが、このKTCレンチは軸部が丸いのが特徴。丸軸の採用により大きなトルクを加えた際にしなりづらく、強く握っても角部が指に食い込まない。

きつく締まったボルトを緩めたり本締めに使えるよう、短軸側の先端はボールポイントではなくストレート構造であることが多い。六角部の先端に表面処理を行わないのは、メッキなどの表面処理による寸法変化を避けるためと言われている。

レンチの軸が傾いても六角穴から外れず6点で接触し続けるよう、ボールポイントレンチは先端部分にくびれがある。このおかげでレンチが傾いたままでもスムーズに回転するが、細くなった部分の強度は低くなるため早回しと仮締めで使用すること。

ドライバーで有名なPBスイスツールズ製のマルチアングルボール付きレンチ。長軸側のボールポイントはよくある形状だが、短軸側に特徴がある。

短軸の先端に近い位置にほんの僅かな切り込みがあり、このおかげで六角穴に差し込んだ先端部分を若干ながら傾けることができる。

2枚の画像を比較すると分かるように、90~100°の角度をつけた状態でボルトを回すことができる。フレキシブルヘッドはボールポイントのような大きなくびれではないので、本締め作業にも使える。レンチをほんの少しだけ逃がしたい時、六角穴への差し込みを浅くして軸を傾けることがあるが、無理をすれば六角穴をなめる原因になる。最初から逃がしが設けてあるこのレンチなら、狭い場所での使い勝手は大いに向上する。
長軸を持てば大きなトルクを加えることができ、短軸を持てば周囲に干渉することなく早回しできるL形レンチは、工具店で見かける機会が多くどんな工具セットにも入っている、ヘキサゴンレンチの代名詞といえる存在です。
L形レンチを購入する際は、長軸側の先端が丸いボールポイントタイプがおすすめです。スパナやメガネレンチで六角頭のボルトを回す時に工具が傾かないよう当てるのが重要なのと同様に、キャップボルトを回す際はヘキサゴンレンチを六角穴の奥までしっかり差し込むことが重要です。
しかしボルトの取り付け位置によっては、レンチの軸が邪魔になって振り角が制限されて何度も差し替えなくてなならないこともあります。そんな時、ボールポイントレンチならボルトに差し込んだ状態で軸を傾けられるため、差し替えることなく連続的にボルトを回せて作業効率がアップに役立ちます。
ただしボールポイントは先端付近にくびれがあるため、ストレートな六角軸ほどの強度はなく、きつく締まったボルトの緩めや本締めには適しません。ボールポイントが長軸側にあるのは、短軸側をハンドルにすることで物理的に大きなトルクを掛けられなくするためです。
したがってボールポイント側で締め付けトルクを稼ぐために、短軸にメガネレンチなどを掛けて延長してはいけません。
ボールポイントほどではありませんが、独自の先端形状で短軸側にも角度調整機能を持たせたのが、ドライバーで有名なPBスイスツールズのフレキシブルヘッドレンチです。このレンチの先端はボールポイントほど明確なくびれではなく僅かに面が削られたような形状で、直角状態から100°まで10°だけ傾けられるのが特徴で、それによって狭い場所でも作業スペースを作り出すことができ、本締めも可能です。
長軸側のボールポイントが30°傾くのに比べると控えめですが、実際にメンテナンス作業を行っていると「レンチがあとちょっと逃げれば……」というシーンは多くあります。そんな時にこのPB製レンチが強みを発揮します。
崩れた六角穴に食い込むレスキュービットがある

工具ショップのストレートで販売しているキャップボルト用逆タップ。一般的な逆タップは左ねじのタッピングビスのようなデザインだが、このタップは独自のヘッド部分がなめた六角穴に食い込むように設計されている。

六角穴がなめたキャップボルトを緩めるには、逆タップのエッジを勢いよく食い込ませることが有効。そのため電動インパクトレンチに装着できるよう、差し込み部分は対辺1/4インチの六角ビット形状となっている。
キャップボルトの六角穴とヘキサゴンレンチは常に6点で接触するため、なめづらいのが特徴ですが、着脱を繰り返したりレンチの差し込みが浅いまま回そうとすると、六角部の角がなめてレンチが空回りする場合もあります。サビや汚れが六角穴に詰まったままレンチを差し込むのも、ダメージを与える原因になります。
そんな時に活用したいのはキャップボルト用の逆タップです。工具ショップのストレートが販売しているタップはなめた六角穴に食い込むよう、先端部分にひねりが加わっています。また差し込み部を対辺1/4インチのヘックスビット形状とすることで電動インパクトレンチに装着でき、強い衝撃を加えて一気に緩められるのも特徴です。
キャップボルトの周辺に余地があれば、頭の外周をロッキングプライヤーなどで掴んで緩められるかもしれません。しかしキャップボルトは先述の通り、狭い空間に取り付けできるのが特長なので、外側を掴めないことも少なくありません。そんな時になめた六角穴に食い込むビットが効力を発揮します。
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