バイクにとって「走る性能」より絶対的に重要なのが「止まる性能」です。そのために欠かせないのがブレーキのメンテナンスですが、中途半端な作業はかえって危険を招く原因になるので知識や経験がなければプロにお願いするのが賢明です。その一方で、工具に着目すると作業効率をアップするいくつものアイテムがあります。ここではブレーキメンテ、特にブレーキフルードの交換を中心とした作業で重宝する工具を紹介します。
ディスクブレーキのメンテナンスに欠かせない2年に一度のフルード交換
ディスクブレーキを構成する要素には、ブレーキキャリパーやローター、ブレーキホースやマスターシリンダーなどがありますが、最も重要なのはブレーキフルードかもしれません。
低膨張タイプのブレーキホースやピストン数の多いキャリパーへの換装など、ブレーキの高性能化やカスタムにはいくつかの手法があります。しかしどんな手段を使ったとしても、最終的にブレーキフルードを注入しなければブレーキが機能しないからです。
過去に何度も繰り返してきたとおり、ブレーキフルードは時間の経過とともに劣化して性能が低下します。DOT3やDOT4といったグリコール系のフルードには空気中の水分を取り込みやすい吸湿性があります。そのおかげで、ブレーキ系統に混入した水分はフルードに溶け込み、ブレーキング時に発生した熱で100℃を超えても水分だけが沸騰することはありません。
しかし新品時の沸点が230℃以上のDOT4フルードも、吸湿率がわずか4%弱になっただけで155℃以上まで低下します。サーキット走行のようなハードなブレーキングを行わなければフルードの温度が極端に上昇することはありませんが、水分の混入によって低下した性能を回復するにはフルードを交換する以外ありません。
そのため原則として、最低でも2年に一度のフルード交換が推奨されていますが、通勤やツーリングなどで雨天走行を行う機会が多ければ1年に一度でも良いでしょう。
一方で、水分を吸湿したブレーキフルードはマスターシリンダーやキャリパーのゴムシールを劣化させたり、キャリパーピストンのサビの原因になることもあるので、普段はガレージ保管で雨天時には乗らないというバイクでも、やはり定期的な交換は不可欠です。
フルードにエアーを混入させず入れ替えできる手動式バキュームポンプ
ブレーキフルード交換作業で最も重要なことは「フルード内にエアーを混入させない」あるいは「混入したエアーを確実に抜く」ことです。
ブレーキレバー、またはブレーキペダル操作はブレーキフルードを作動油としてマスターシリンダーからキャリパーに伝達されます。液体であるブレーキフルードは、マスターシリンダーで圧力を加えても体積変化がありませんが、空気が混入するとそれを潰すために使われてしまいます。そのためレバーやペダルの操作感がスポンジーになり、効きが悪くなってしまうのです
フルード交換前の経路中にエアーが混入していなければ、ブレーキキャリパーのブリーダープラグからフルードを抜きつつマスターシリンダーに新品フルードを継ぎ足すのが確実です。この際に手動式バキュームポンプがあるとフルード入れ替えが効率的に進みます。
手動式バキュームポンプはマイティバック、バキュームテスターとも呼ばれ、レバーを握ることで負圧を発生させるポンプを中心に構成されています。
ブリーダープラグとポンプの間に専用のカップを取り付けることで、負圧を掛けて抜いたフルードが貯まり、それと同量の新品フルードをマスターシリンダーに注入すればエアーが混入することはありません。
ブリーダープラグを緩めてブレーキレバーやブレーキペダルを操作してもフルードは抜けますが、全量を入れ替えるには何度もストロークさせなければなりません。またマスターシリンダーのリザーブタンクキャップを開けた状態でレバーを握ると、フルードが噴き上がって飛散することもあります。
手動式バキュームポンプを使うと連続的にフルードが抜けるためリザーブタンクで噴水は起きませんが、スムーズに抜けすぎて気がついたらリザータンクが空だった……ということもあるので注意が必要です。
キャリパーやマスターシリンダーのオーバーホール後に経路内のフルードが空っぽになっても、負圧ポンプによって連続的に吸引を行えるため、レバーやペダルのポンピングを繰り返すよりも少ない手間で確実に充塡できます。
負圧を利用する工具としては、エアーコンプレッサーのエアーを繋いで連続的に吸引できるバキュームポンプもあります。
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