
エンジン本体に異常がなくジェットやニードルの番号も揃えたのに、アイドリングで1気筒に着火せずプラグの焼け具合もまちまちという4気筒エンジン。エアースクリュー調整でも大した変化がない時は、いきなりキャブレターオーバーホールを行うのではなく、まずはエアースクリューを取り外してキャブレタークリーナーを吹き込んでみましょう。それだけでコンディションが回復することもあります。
始動性の悪さやアイドリングでパンチ感が弱い時はパイロット系統の薄さを疑う

アイドリング時の混合比を調整するエアースクリューは、閉め切りから戻していくほど吸入空気量が増えるため混合比が薄くなる。一方パイロットスクリューは混合気の量を増減させるため、戻し回転数が多くなるほど混合比が濃くなる。ただしどちらも調整範囲が決まっているので、回せば回すほど空燃比が変化するわけではない。

プラグの焼け具合は混合比を判断するひとつの目安となる。この例では左から2本目の絶縁体(白いガイシ部分)が白く、相対的に混合比が薄いと判断できる。市街地走行が中心のキャブレター車、それも大排気量車となるとくすぶり気味のように見える3本の焼け具合の方がエンジンの調子が良いこともある。
スパークプラグの焼け具合は、今も昔もエンジンコンディションを知るための重要なヒントとなっています。キャブレター車の場合、セッティングが合わないと焼けすぎたりくすぶったりしますが、多気筒エンジン用のキャブでセッティングが同じなのにプラグの焼け具合にバラつきが出ることもあります。
ここで紹介するのは、アイドリング時にエンジンの調子が悪い絶版車の事例です。
具体的な症状は
1・エンジン冷間時にチョークを使うと4気筒とも燃焼する
2・チョークを戻すと1気筒だけ燃焼せず3気筒になる
3・3気筒で走行してスロットルを大きく開けると4気筒になる
といったものです。エンジンに異常がないとすれば、これらの症状はキャブレターに由来するものだと考えられます。
ここで不調なシリンダーのプラグを確認すれば空燃比の濃い薄いが分かり、しかるべき処置を判断できます。チョークを戻すと4気筒エンジンが3気筒になるのは、空燃比が濃すぎてプラグがかぶって失火している場合と、薄すぎて着火できないパターンが考えられますが、現車の場合はアイドリングで燃焼していないシリンダーのプラグは他に比べて白い状態だったので、ここだけが薄くて3気筒になっていると考えられます。
スロットルを大きく開ければ4気筒になるのは、混合比の流れがパイロット系統からスロー系統、メイン系統へと移行するためで、それもまた不調がパイロット系統限定という証拠になります。
アイドリング領域でのパイロットスクリューやエアースクリューの依存度や重要性は想像以上に大きく、混合気の供給量を増減するパイロットスクリューは戻し量を1/2回転程度変化させただけでも始動性やアイドリング時の調子を左右します。
オーバーホール後でもあり得るのがパイロット系統の詰まり
スロットル全閉時の混合比の薄さでアイドリング不調になる場合、その原因はパイロット系統にあると思われますが、エアースクリューの場合は閉め切りからの戻し回転数を増やすとエアーの割合が増えて混合比が薄くなります。プラグが焼け気味なのでスクリューを締めて戻し回転数を減らしても症状は改善されません。このキャブレターは直前に4つのボディを分解して液体タイプのキャブレタークリーナーに漬け込んで洗浄を行いましたが、洗浄不足だったようです。
パイロットジェット(スロージェット)とメインジェットの口径を比較すればパイロットスクリューの方が小さいことから明らかなように、パイロット系統はメイン系統より各部の加工穴径も小さくなっています。そのため長期保管などでガソリンが劣化するとメイン径より先にパイロット系が詰まり始めます。エンジンが掛かってスロットルを開ければ調子が良いのに、始動性やアイドリングがダメという不調事例が多いのは、キャブレター内部の構造的な宿命のようなものなのです。
ケーヒンキャブでパイロットジェット#35、メインジェット#110の組み合わせを例に挙げれば、メインジェットの穴径φ1.10mmに対してパイロットはφ0.35mmなので、異物がどちらに詰まりやすいかは明白です。
ジェットの穴径が小さく、キャブボディ内部の通路も狭いパイロット系統は、完全閉塞ではなく一部が詰まるだけでガソリン流量が減少して混合比に影響する場合もあります。
エアースクリューの戻し回転数には調整範囲があり、戻し回転数が閉じ切りから1/2回転未満ではスローエアーの調整範囲を超えてしまいます。それでもアイドリング時の混合比が薄いのなら、パイロット経路の不具合を疑うべきでしょう。
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