軽量で複雑な形状にも対応できるABSやPPなどの樹脂製パーツは、サイドカバーや前後フェンダー、スクーターなら外装の大半に使われているポピュラーな存在です。転倒などで割れたり欠けたりした際は交換されることが多いですが、破損の程度によっては補修できる場合もあります。そんな時に活躍するのが、熱で素材を溶かしながら接合するリペアキットです。

樹脂の中には接着剤がつきづらいものもある

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転倒などではなく、保管中に大きな力が加わって割れたリヤフェンダー。公共の駐輪場で隣のバイクとの隙間が狭く押しつけられることでフェンダーやサイドカバーが破損することもある。

 

日常生活を送る上で私たちの身の回りに存在する樹脂製品は、バイクにも数多く使用されています。前後フェンダーやカウル、サイドカバーやタンクカバーなど、外装の大半が樹脂パーツであることも珍しくありません。
使用後のリサイクルに配慮して、樹脂パーツの裏側などにはABS、PP、PE、PCといった素材名が記載されていることもあります。そしてこれらの略称は破損やトラブルの際にどのように補修すれば良いかの手がかりとなります。
転倒や不注意で樹脂パーツが割れたり欠けたりした場合、損傷が大きければ交換することになりますが、ひび割れや部分欠損程度であれば補修できることもあります。また交換用の部品入手が難しい絶版車の場合、コンディションが悪くても再使用せざるを得ない場合もあるでしょう。
割れた樹脂をつなぎ合わせる材料として思い浮かぶのは接着剤ですが、樹脂の種類によっては接着剤が付きづらいものもあります。それらは難接着樹脂と呼ばれ、バイクパーツ要として多用されるものにPP(ポリプロピレン)があります。耐溶剤性、耐ガソリン性に優れ柔軟性に富むPPはリヤフェンダーやスクーターのステップ周りなど、未塗装状態で使われることが多い素材ですが接着剤が作用しづらく、プライマーを併用する専用品が用意されているほどです。

ABS樹脂は有機溶剤でも接着できる

一方、カウルやフェンダー(塗装タイプ)、サイドカバーやシートカウルなど、塗装されて使用する外装パーツに多いABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)は、溶剤で溶かして接着できます。
有機溶剤としてホームセンターの塗料、FRPコーナーでも容易に入手できるアセトンはABSを溶かすことができ、ぴったり合わせた破断面に流し込むだけで強固に接着できる場合もあります。
ガラス瓶にABSの破片を入れてアセトンを注ぐとABSがドロドロに溶解してペースト状になり、パテのように塗布することもできるほどです。

熱可塑性樹脂全般に使える溶着補修

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全国展開の工具ショップ、ストレートで販売しているプラスチックリペアキット。リチウムイオン電池で加熱する充電タイプで、形状や区割りが異なるこて先を付け替えることもできる。PP、PE、ABS製の溶接棒とステンレスメッシュも付属。

 

バイクのパーツで使用される樹脂には接着剤でつきやすい素材とそうでないものがありますが、そのどちらにも使えるのが熱を使った溶着補修です。ABSやPPは熱可塑性樹脂と呼ばれる素材で、熱を加えていくと柔らかくなり液体化します。一度液体化しても温度を下げれば固体となります。
余談ですが、熱可塑性樹脂と対照的な性質を持つのが熱硬化性樹脂です。こちらは成型された後で熱を加えても溶けないのが特徴です。FRP製品で使われるポリエステル樹脂やエポキシ樹脂が代表的なもので、これらは加熱してもグニャグニャに変形することはありません。
ABSやPPが熱によって溶ける熱可塑性樹脂であることを利用したリペア方法が溶着補修です。アルミや鉄を接合する際に、接着剤で貼るのと溶接するのを比較すれば後者の方が強度が高く剥がれづらいのと同様に、修復部分を溶かしながら接合する樹脂の溶着補修は接着剤による貼り付けよりも強度や耐久性で上回ります。

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