
ボルトナットやビスを回す時は、ネジのサイズに応じた工具を使うのが鉄則です。しかしちょっとした気の緩みや雑な作業、さらに以前の作業者によるミスで六角部の角や十字穴が損傷することもあります。決定的なダメージに至る前に何とかしたい……。そんなときは強行突破ではなく、一旦立ち止まって状況改善方法を考えてみましょう。
ボルトやビスのサイズに合った工具を使うのが大前提

プラスドライバーの先端サイズは1、2、3番という呼び番号で区別されており、ビスの十字穴も一般的には3タイプが使い分けられている。ビスの十字穴より小さいドライバーを使うと先端が遊んでしまい十字穴を傷める可能性が高いので、ぴったり合うサイズを選択する。また十字穴に生じたサビによってドライバーが密着しないときもカムアウトを起こしやすいので、ワイヤーブラシやピックツールなどでサビを取り除いてからドライバーを使用する。
頭が12mmのボルトなら二面幅12mmのメガネレンチやソケット、十字穴が2番相当のビスを回す際には2番のドライバーというように、ネジと工具のサイズは必ず一致させることが重要なことは言うまでもありません。
二面幅12mmのボルトに11mmのスパナは入りませんが、13mmだとガタが多いものの入ります。もちろん、このガタに気付いたら1サイズ小さい12mmの工具を使うべきですが、横着してそのまま回そうとすることがトラブル=六角部のナメを招く原因となります。
サイズを合わせることもそうですが、使用する工具が六角部の頂点にダメージを与えるリスクもあります。
六角部の全周を取り囲むメガネレンチやソケットは、ボルトナットと6点で接触します。これに対して二面を挟むスパナやモンキーレンチは4点接触かと思いきやそうではありません。ボルトナットの二面とスパナやモンキーの二面には必ず隙間=工具着脱に必要なクリアランスがあるため、実は締め方向も緩め方向も2点でしか接触しません。
6点で接するメガネレンチと2点で接するスパナに同じトルクを加えると、単純に考えてもスパナの方が接触部分に3倍の力が掛かることになります。モンキーレンチは開口幅を任意に調節できますが、クリアランスをガチガチに詰めても力を加えた際にボルトと接するのはやはり2点になります。
ボルトナットのサイズと工具のサイズを合わせるのは当然ですが、物理的にメガネレンチやソケットが入らない場所を除けば、スパナやモンキーはできるだけ使わない方が良いとされるのは、こうした理由によるものです。
プラスビスの宿命、カムアウトが十字穴を潰す大きな原因

カムアウトを起こしそうになると十字穴の入口がねじれてくるので、それに気付いた時は早めに修正を行う。そのまま無理に回そうとすると、十字穴がナメてどうにもできなくなってしまう。

ビスの頭に平ポンチやT型ハンドルの柄を当ててハンマーで打撃すると崩れた十字穴が一時的に修復できる場合もある。ただし修復した十字穴はもろくなっているので、ドライバーで回そうとしても再びナメてしまう可能性が高い。

そんなときは打撃力と回転力を同時に発揮するショックドライバーを使用して、一撃で緩める。ドライバーは押しながら回すといっても手で回す以上、回転力の立ち上がりは緩やかに立ち上がるためカムアウトを誘発しやすい。それに比べてショックドライバーや電動インパクトドライバーはトルクの立ち上がりが急激なので、固着したビスに対して有効なのだ。

十字穴が潰れてドライバーが引っ掛からなくなってしまった場合、タガネを食い込ませて溝を切り、緩め方向に叩くことで回り始めることがある。打撃力が弱いと回らないので、タガネをしっかり叩くのが成功のカギとなる。
プラスビスの十字穴を傷める二大原因といえるのが、カムアウトと十字穴の詰まりでしょう。先端に向かってテーパー状に細くなる十字穴は、ドライバーのアクセス性が良いのが特長ですが、回転トルクを加えたときにドライバービットの先端が十字穴から浮き上がろうとします。これがカムアウトと呼ばれる現象です。
これを防止するため、ドライバーを使う際は「ビスに押しつけながら回す」のが鉄則ですが、固着したビスに対して強いトルクで回す際に押しつけ力が弱くなると、十字穴が崩れてしまいます。
それでも無理に回そうとすると、ドライバーの先端がドリルのように作用して十字穴を削ってしまい工具が全く掛からなくなってしまいます。
そうならないために、まず重要なのはビスに向かってドライバーをしっかり押しつけることです。ドライバーは工具メーカーごとに工夫を凝らしてカムアウト防止策を講じています。しかしながらビスとドライバーの根本的な構造から、押しつけるという動作以外でカムアウトを防ぐことはできません。
そこで固着したビスに対しては、早めにショックドライバー(インパクトドライバー)を使うのもおすすめです。ショックドライバーというと最後の手段のように思われがちですが、ハンマーによる打撃は体重を掛けてグリップを押しつけるよりよほど効果的です。
工具を押しつけつつ強力な回転トルクを加える点では、電動インパクトドライバーも効果的です。カムアウトはビスの十字穴からドライバーの先端が徐々に浮き上がる際に発生することが多いので、一気に最大トルクを加えられる電動ツールによってビットをビスに押しつけることだけに注力できるメリットがあります。
それでも十字穴が潰れそうになったら、なるべく軽度なうちに手当をすることが重要です。具体的には、平ポンチやT型レンチの柄で崩れそうになっている十字穴を叩いて修正してから、ショックドライバーや電動インパクトドライバーで一気にトルクを加えることで固着したビスが緩む可能性が高まります。
また、カムアウト以前に注意すべきなのは十字穴の汚れです。ビスが新品ならドライバーは十字穴の奥まで刺さりますが、泥汚れやサビが詰まった状態ではドライバーの先端が密着せず、押しつける力も回転トルクも充分に伝わらずに浮いてしまいます。
バイクに不具合がある際はできるだけ早く患部に到達したい気持ちがあって当然ですが、あまりに汚れている場合は工具を使えるよう、先に洗車を行う余裕を持つことも重要です。
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