発進から最高速までスロットルをひねるだけでスピード調整できる手軽さがスクーターの魅力です。そんなスクーターの駆動系は前後2組のプーリーとV字断面のゴム製ベルトで自動変速を行っています。このメカニズムのカギを握っているのが、プライマリー側のプーリーとウェイトのコンビです。ここではウェイトローラーと共に、スライダーの偏摩耗のチェックも重要です。

1980年代から変わらないプーリー&ウェイトによるスクーターの無段変速

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走行距離が多くなるとローラーの偏摩耗だけにとどまらず、プーリーのランプ(ローラーが転がる溝)が深く掘れてしまうことがあり、それもスムーズな変速を妨げる原因になることもある。その場合はローラー単品交換だけでは充分なメンテナンス効果を得られないこともある。

 

原付から250ccクラスまで、スクーターの駆動系を支えているのがVベルト式無段階変速です。エンジンが2ストロークエンジン+キャブレターから4スト+インジェクションに変化しても同じメカニズムを踏襲しているのは、この仕組みがシンプルで必要十分条件を満たし低コストで実現できるからでしょう。
このシステムはエンジン側とリヤタイヤ側に直径が変化する2組のプーリーを置き、その間をゴム製のVベルトでつないでいます。エンジン側はクランクシャフトの端部に付き、リヤタイヤ側はいったんファイナルドライブを介してリヤタイヤにつながっています。
一般的にプーリーと呼ばれていますが、メーカーによって呼称はまちまちです。ここで画像を掲載しているヤマハ製スクーターの場合は、エンジン側のプーリーをプライマリースライディングシーブ、これと向き合う円盤をプライマリーフィクスドシーブと呼んでいます。一方スズキ製(スカイウェイブ400)の場合、ムーバブルドライブフェイスアッシ、フィックストドライブフェイスと呼んでいます。

プライマリースライディングシーブの裏側にはカムと呼ばれるプレートがあり、シーブとプレートの間には円筒形のローラーウェイトが挟まれています。そしてエンジン回転数の上昇に合わせて遠心力によりローラーがシーブ外側に移動することでVベルトの回転直径が大きくなり、一方でリヤタイヤのセカンダリーシーブ側の回転直径が小さくなって速度が上昇します。
Vベルトの回転直径の変化で速度が変わるのは、変速機付き自転車の歯数の異なるスプロケットを想像すれば分かります。ペダル側のスプロケット歯数が固定で、リヤタイヤ側の歯数を小さくしていくほど、クランクの回転が同じでも速度が上がっていきます。

ランプを登ったり降りたりするウェイトは外周が摩耗する

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ローラーは金属の芯材と樹脂製カバーの二層構造。エンジン回転数が上昇してプーリーに働く遠心力が大きくなると中心から外側に転がり、最高速でランプの外壁に押しつけられた状態になる。画像のように一部が段付き摩耗しているとランプを転がる際に引っかかって変速がスムーズにできなくなることがある。ローラーとランプの接触面にグリスを塗布するか否かは、機種ごとのサービスマニュアルに従って対応する。

 

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プーリーとウェイトローラーはメーカー純正、社外品を含めて数多く販売されている。画像のNTB製は、純正部品同等の安全性と性能を両立した規格部品というポリシーで消耗部品や外装部品を開発している。

 

プライマリースライディングシーブ内のローラーウェイトは、エンジン回転数によって発生する遠心力と釣り合うよう、シーブの溝をカムに挟まれながら転がっています。そのため、走行距離が多くなると外周が摩耗します。また急減速と急加速を繰り返すような走り方をすると、ローラーに加わる遠心力の変化が大きくなるため、摩耗が進行しがちです。
ローラーの摩耗が進行すると、ランプと呼ばれるシーブ内の溝をうまく転がれなくなり、シーブの動きに異常が発生することがあります。エンジン回転数を上げた際にローラーが外側に移動しなければ減速比は大きいままになり、速度が上がりません。逆にシーブの外側にローラーが張り付いたまま戻れなくなると、減速比が小さいまま固定されてしまいます。
また、ローラーの摩耗に伴ってランプが摩耗すると、エンジン回転の上下動とローラーの位置がシンクロせず、変速タイミングがおかしくなるなることがあります。
これらの違和感や異常が発生した際にはプライマリースライディングシーブとローラーウェイトの確認が必要です。そしてローラーやランプが摩耗している場合は交換します。チェーンドライブ車と同様に、ベルトドライブのスクーターも定期点検が必要なのです。

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