ウレタン塗料やアクリルラッカー塗料など、塗料と言えば多くの人が液体の塗料を想像することでしょう。しかし工業界では溶剤を使わない乾いた塗料、粉体塗料が一般的です。塗膜が厚く衝撃に強く剥がれづらいという利点がある一方で、静電ガンや乾燥器などの設備が必要な粉体塗料を使ったパウダーコートに注目します。

微粉末状の塗料を粉のまま静電気で付着させるパウダーコート

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外装パーツはワックスで手入れすることも多いが、フレームやホイールまで手入れが行き届かず、屋外保管や長期放置、経年劣化によって塗装やコーティングが劣化することでサビや腐食が発生する。

 

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未塗装風に見えるアルミキャストホイールにも必ず表面処理が施されている。その下で腐食が進行すると、このようにまだら模様になってしまう。こうなると金属磨きケミカルでも手遅れで、修理方法としてはポリッシュ仕上げにするか再塗装するしかない。

 

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パウダーコートで使用する粉体塗料は樹脂成分と硬化剤で構成された非常に微細な粉末状で、この状態のまま金属パーツ表面に吹き付ける。塗装前に溶剤に溶かしてスプレーガンで吹き付けるわけではない。

 

樹脂と溶剤と顔料が混ざった溶液をパーツに吹き付け、溶剤が揮発した後の樹脂成分が塗膜となるが溶剤塗料です。こう書くと難しく感じるかも知れませんが、バイク用品店やホームセンターで売っている缶スプレーは溶剤塗料だといえば分かりやすいでしょう。あるいはスプレーガンを使って塗装するウレタン塗料も同じく溶剤塗料です。

これに対して塗料が固形、それも小麦粉のようなサラサラの微粉末状態なのが粉体塗料です。粉状の塗料というと、シンナーなどの溶剤に溶かしてスプレーガンで吹いて使うことを想像するかも知れませんが、粉体塗料は粉のままパーツを塗装します。
粉体塗料を使った塗装方法のことをパウダーコートと呼び、工業製品用の塗装として長く一般的に使われています。塗装のメカニズムを説明すると、専用の静電ガンでプラスの電荷を与えた微粉末塗料と、アース線を取り付けたパーツの間に生じる静電気を利用することで、複雑な形状のパーツの裏側にパウダーがまとわり付くように付着するのが大きな特徴です。

溶剤塗料が空気の圧力、缶スプレーなら缶の中のガス圧でスプレーガンならエアーコンプレッサーの空気圧で塗料を噴射するのに対して、パウダーコートは静電気を使うのが大きな違いです。静電気を与えられた粉体塗料をパーツにまとわりつかせるためにエアーコンプレッサーの圧縮空気を使いますが、その圧力はとても低圧でガンから噴射された粉体塗料は霧状にゆっくりと飛び出し、フワフワと舞いながらパーツに付着します。

溶剤塗料でパイプの裏側を塗装する際は塗り残しがないよう確認しながら慎重に作業を行いますが、静電気を利用するパウダーコートなら塗料自体に自らの意思があるかのように金属パーツに付着するため塗り残しの心配が少なく、溶剤やシンナーを使わないので臭いが出ないのも利点となります。

厚く衝撃に強く剥がれづらい塗膜はフレームやホイール塗装に最適

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赤い塗装ガンは、カーベックが販売するPOWDY MasterProシステムのコロナ静電ガン。本体上部のカップに入っている粉体塗料は内部の静電気発生装置で10万ボルトの静電気が帯電した状態で噴出し、アースされたパーツに付着する。180℃で焼付乾燥する前の粉体塗料はホコリのように付着しているだけなので、指で触ったりエアーブローすると簡単に落ちてしまう。

 

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180℃の高温で焼付乾燥することで、樹脂と硬化剤が溶けて均等に混ざって塗膜となる。溶剤塗料はスプレー後に溶剤が揮発する際に塗膜が薄くなるが、粉体塗料には溶剤がないので体積が減少しないため、塗膜の厚みは溶剤塗料の4~5倍になる。また粉体塗料で一般的なエポキシ樹脂は金属への密着性が非常に良いので、プライマーやサフェーサーなどの下塗りが不要なのも特長。

 

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腐食が進行したホイールはサンドブラストで古い塗装や腐食を取り除き、半ツヤブラックでパウダーコートすることで印象が一変。溶剤塗料の場合、サンドブラスト後にサフェーサーを吹いてサンドペーパーで足づけを行い、ウレタン塗料で塗装するのが一般的だが、パウダーコートは一工程で済む上に静電気の力で形状が複雑なホイールも塗り残しなく仕上げることができる。

 

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粉体塗装でも溶剤塗装でも角や隅は塗膜が薄くなりがちだが、粉体には塗膜が厚いく強靱という利点があるのでホイール塗装に最適。タイヤチェンジャーやタイヤレバーでリムを擦っても簡単には剥がれない。

 

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絶版車や旧車のスタンドやステップ、エンジンハンガーなど車体下部の小物も錆びがちで、なおかつ車体全体の印象を左右する重要なポイントとなる。パウダーコートで再塗装すれば、見栄えが良くなるのはもちろん耐久性の高さによりコンディションが長期間持続できる。

 

ココアパウダー、あるいは小麦粉のようなサラサラの微粉末には樹脂と硬化剤成分が混合しており、180℃で加熱することで両者が反応して滑らかな塗膜となり、常温に戻ることで硬化します。硬化後の塗膜は「厚く」「衝撃に強く」「剥がれにくい」のが特長です。
塗料内の樹脂成分は「エポキシ」「ポリエステル」「エポキシポリエステル」「アクリル」の4つに分類でき、金属への密着性や塗膜の厚さ、意匠性や耐候性、塗膜の透明度など、それぞれの素材によって特徴が異なります。

エポキシ樹脂は金属への密着性と耐久性が高く、塗膜も厚いのが特長です。その一方で紫外線に対する耐久性が低いのが弱点です。ポリエステル樹脂はカラフルで意匠性が高く、紫外線に強いため屋外での使用にも適しています。
エポキシ樹脂の密着性と厚さに耐候性の高いポリエステル樹脂の特長を合わせ持つのがエポキシポリエステル樹脂で、アクリル樹脂はクリアの透明度が高いのが強みです。
バイクの部品では、フレームやホイールといった骨格部品の塗装に適しています。ウレタンやアクリル塗装は走行中に跳ね上げた小石が当たると塗膜が割れたり欠けることがありますが、塗膜が厚いパウダーコートは簡単には剥離しません。フレームにエンジンマウントボルトを強く締め付けたり、タイヤ交換時にリムの端にタイヤレバーを引っ掛けても平気です。

一方で180℃で焼付乾燥するため、それ以下の温度で変質する素材は塗装できません。また静電気を利用する上で樹脂やガラス、木材などの絶縁体にも塗装できません
また作業のやり直しが容易なのもパウダーコートならではです。180℃で焼き付けを行ったパウダーコートの塗膜はきわめて強固ですが、焼付前は粉状なのでエアーブローするだけで簡単に吹き飛びます。

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