
直線でもコーナリングでも、バイクが安定して走行できるのは前後のサスペンションのおかげです。リアタイヤはスイングアームピボットを中心に動きますが、可動部が潤滑不足になるとリアサスの動きが悪くなったり、走行中にきしむような異音が出ることがあります。そんな不具合を未然に防ぐには、定期的なグリスアップが効果的です。
サスペンションの動きにとって重要な潤滑とは。

頑丈なジャッキで車体下部を支え、安定していることを確認してからリアタイヤを外したら、スイングアーム端を上下左右に揺すってみる。上下方向のガタが目立つ時はリンクやショックのボルトやカラーの摩耗、左右にガタがある場合はスイングアームピボット部の摩耗が考えられる。
走行中にブレーキを掛けるとフロントフォークが沈むことから、フロントサスペンションを気にするライダーは多いですが、リアサスペンションはどうでしょうか?
乗り心地の善し悪しぐらいしか意識していない人もいるかもしれませんが、リアサスは走行中のあらゆる状況で重要な仕事をしています。
コーナリングで車体を傾けた時、縦方向と横方向の荷重が分散することでリアサスが縮み、コーナー出口に向けてスロットルを開けるとリアサスが伸びて車体が起きてきます。
ライダーの体格が良かったり、コーナリング速度が速い時にはスプリングの反発力を高めることがありますが、それでもリアサスには「縮む」「伸びる」両方の動きが必要です。
ここで重要になるのが、サスペンション各部の潤滑です。
リンクのカラーのグリスアップは焼き付く前に。
- 外したリンクには3本のボルトが刺さっており、それぞれフレーム、スイングアーム、リアショックとつながっている。ボルト径と長さが異なる場合は組み立てミスも起こしづらいが、径が同じで長さがわずかに異なるボルトを使っている機種では、どこから外したボルトかを覚えておこう。
- グリスアップの前にこびり付いた汚れをパーツクリーナーで洗浄する。このリンクには金属製のダストキャップが付いているので、取り外したら裏側も洗浄しておく。ボルトやナットに汚れが堆積してる場合は、車体に付いた状態でクリーナーを吹き付けてある程度ブラシで落としてからメガネレンチやソケットレンチを用いて作業する。
スポーツモデルのリアサスペンションは1本サス=モノショックが一般的で、多くの場合はスイングアームとショックの間にリンクが組み込まれています。
リアサスのリンクは、上下に揺動(ようどう=揺れるように動く)するスイングアームのストローク量と力を変化させてリアショックに伝えるためのパーツで、可動部にはカラーとベアリング(小排気量車ではブッシュの場合もあります)が組み込まれています。
このカラーはグリスによって潤滑されていますが、リアサスペンションがストロークするたびにリンクには大きな力が加わり、雨天走行を繰り返せば水しぶきが浸入することもあります。
先にリアサスには潤滑が重要だと言いましたが、リンクの役割を理解すれば分かるように、具体的にはカラーへのグリスアップが重要なのです。
車体の重量と加減速時の荷重の変化を受け止めつつ、否応なく水を浴びせかけられ続けるリアサスのリンクは、想像以上に過酷な状況にあります。
グリスが流出して多少不足していても荷重が加わればリアサスは縮み、リアショックのスプリングの反発力によって伸びてきます。
潤滑不良の症状が進むと、リンクの動きが悪いため小さな衝撃を吸収できずリアサスが硬く感じたり、リアサスが伸縮するたびにギコギコ、ギシギシと異音を発することがあり、さらに悪化すればグリスが枯れて、カラーが過熱して焼きが入ってベアリングやブッシュが焼き付いてロックしてしまうこともあります。
動きが悪い、異音が出るなどの末期症状に至れば異状に気づくでしょうが、悪くなる前に気づくのはなかなか難しい面もあります。
メーカーのサービスマニュアルにも、2年ごとに定期点検するよう指定されていますが、グリスアップを2年ごとに行うような指示はなく、あくまで点検の結果必要なら分解して洗浄し、グリスアップすることになっています。
グリスアップでリアサスが柔らかくなることも!?
- 常に大きな荷重が加わっているカラーは、潤滑不足によって表面のメッキに熱が加わり焼きが入り、さらに進行するとメッキ面がえぐられてしまう。このカラーの表面には一応グリス分が残っているが、部分的に焦げたようになっておりシビアな状況だったと想像できる。
- カラー、ブッシュともきれいに洗浄できたら、極圧性と耐水性に優れたグリスを塗布する。ブッシュとカラーはクリアランスが少ないので、グリスをカラーに塗ったら指で全面にしっかりこすりつけること。ここではスーパーゾイルグリースを使用した。
リアサスのリンクをグリスアップするには、車体の後部をを持ち上げてリアタイヤを外す必要がありますが、スイングアームを支えるレーシングスタンドやメンテナンススタンドは使えません。
センタースタンドがあれば問題ありませんが、ここで紹介するエイプ50はサイドスタンドしかないので、車体がグラつかないよう安全を確かめながらエンジンの下をジャッキで持ち上げて作業を行います。
メンテナンスを行っていないバイクのリンクは、飛び散ったチェーングリスや雨水などでドロドロに汚れていることがほとんどなので、工具が外れないようあらかじめ泥汚れを掻き落としてからボルトナットを緩め、取り外したボルトがどこに付いているのかを忘れないように洗浄します。
エイプは小排気量車なのでベアリングではなくブッシュ仕様で、挿入されているカラー表面の硬質クロームメッキには潤滑不足を示す焼けた痕跡がありましたが、パーツクリーナーで洗浄して差し込むとガタつきや引っかかりはなく再使用が可能でした。
荷重が大きく水分が付着する部分なので、新たに塗布するグリスは耐荷重が大きく耐水性に優れたものを選ぶ必要があります。
メンテナンス前の状態が悪いほど、グリスアップの効果を実感できるのがリアサスのリンクです。
細かなギャップでもリンクがスムーズに動き、リアショックが伸縮するため乗り心地良く感じたり、フリクションロスが軽減されることでリアサスが柔らかくなったように錯覚することもあります。
また、リンクの抵抗に負けずリアショックが伸びきるようになることで、リアの車高が上がるほど劇的な変化が現れる場合もあります。
しかしそうした激変は普段のメンテナンス不足に起因するものであり、愛車のコンディションを良好に保ち、余分な修理費用を掛けないためには常にグリスによる潤滑が充分であることが必要であり、そのためにも定期的な分解、洗浄、グリスアップが重要なのです。

リンクの状態に復元できるか心配であれば、分解前にあらかじめスマホで写真を撮っておいてから作業を始めよう。リアショックの下部マウントも含めた4カ所のカラーの洗浄、グリスアップによってリアサスの動きが柔らかく感じられるようになった。リアショックのスプリングは替えていないので、柔らかく感じるのはリンク部分のフリクションロスが原因だったというわけだ。
リアサスリンクは縁の下の力持ち
走りを支える重要パーツはグリスアップで性能を維持しよう。
スペシャルショックの装着などカスタムより前にフリクションロスなく動くことが重要なサスペンション。
モノショックのバイクにとってリンクのグリスアップが絶大な効果があることを知っておこう。
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