
バイクが古くなるとさまざまな経年劣化が生じますが、中でも「めっきのサビ」は面倒です。補修部品の入手がままならない絶版車の場合、再めっきで対応できることもありますが、素材のコンディションが仕上がりに大きく影響します。見た目だけでなく寸法精度も必要なフロントンフォークのインナーチューブやサスペンションロッドの再めっきは、信頼できるプロにオーダーするのが正解です。
膜厚が厚い硬質クロムめっきにも見えないクラックが存在する

1970年代中盤に発売されたヤマハチャピィ50。約半世紀前のファミリーバイクが残存していること自体が珍しいが、インナーチューブは当然のごとく赤サビが発生している.ストローク範囲内はストロークのたびにフロントフォークオイルによって油分が付着するためまだましだが、それより上はアンダーブラケットも含めて壊滅的。走行距離が長いバイクでは、サビはなくてもアウターチューブのメタルと摺動する部分のめっき被膜が剥離しているものもある。

アウターチューブは鉄製でオイルシールはねじ込みタイプのシールホルダーに圧入されており、フォークスプリングは片側のみ。筒状のライトステーにインナーチューブが挿入されるため、アンダーブラケットより下のサビ具合に比べてそれより上のめっきがきれいな状態で残っている。

インナーチューブ表面のサビをワイヤーブラシで擦り落とすと、無数のクレーター状のサビが明らかに。このサビはクロムめっき表面から奥に進行したのではなく、めっきのクラックから浸透した水分により内側から錆びたもの。再めっきは素材表面の形状どおり掛かるので、凸凹がなくなるまで削り落とさなくてはならない。
金属の素材に電気イオンで金属被膜を形成するめっきの表面は、塗装と違って金属の被膜なので耐久性は高いと認識されています。しかし現実には、クロームめっき仕上げのスチール製フェンダーやマフラー、インナーチューブやサスペンションのロッドにもサビが生じることがあります。
その理由は、めっき表面には目に見えないほどの孔やクラックが存在するからです。均一なはずのめっき表面に孔があるというのは何かのトラブルや施工不良と思うかも知れませんが、作業上の問題がなくても孔やクラックはゼロにはならないそうです。
クロムめっきの場合、金属のクロムはとても耐食性に優れているため腐食することはありませんが、見えない孔からクロム被膜の下に入った湿気や水分が内側で反応してサビとなり、クロム被膜の孔から点サビとなって目に見える形で現れます。
究極的にサビを防ぐにはめっき面に水を触れさせないのが最善ですが、屋外で使われるバイクや車の場合はそうもいきません。そこで雨天走行などで付着した水分は小まめに拭き取ることが重要です。まためっき用ケミカルで表面に保護被膜を作っておくのも有効です。
ところでクロムめっきには、フェンダーやマフラーなどの外装パーツに施工される「装飾クロムめっき」と、インナーチューブやサスペンションロッドなどの摺動部に用いられる「硬質クロムめっき」の2種類があります。どちらも金属クロムの被膜ですが、硬質クロムは耐摩耗性、硬さ、密着性が良好で、装飾クロムよりも被膜が厚いのが特長です。
施工条件や素材によっても異なりますが、装飾クロム被膜の厚さが0.2~0.5μmなのに対して、硬質クロム被膜は200μmほど付着させることもあるそうです。硬くて厚い被膜なのでサスペンションの摺動部分でも被膜が長期間持続されるのです。
そんな硬質クロムめっきの被膜にも目に見えないクラックが存在し、湿気や水分によって内部でサビが進行します。絶版車のインナーチューブのサビがフロントフォークのストローク範囲外に発生することが多いのは、ストローク範囲は少なからずフォークオイルによるコーティング効果が期待できるからです。
一方で、正立式フロントフォークでダストシールから浸入した雨水がオイルシールの周囲に溜まると、油膜コーティングを超えた水分の攻撃によってオイルシール接触部分がリング状に錆びてしまうこともあります。
装飾でも硬質でも、クロムめっきのサビを防ぐには水分の接触を避けることが最も有効なので、雨天走行で濡れたら小まめに拭き取り、洗車で水洗いを行ってもクロスで拭き取った後にしっかり乾燥させてから保管することが有効です。
- ポイント1・均一に見えるクロムめっき被膜の目に見えないクラックから浸入した水分により内側で錆が進行して点サビとなって表面に現れる
- ポイント2・装飾でも硬質でもめっきに付着した水分はその都度こまめに拭き取り乾燥した状態を維持することが重要
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