
スパークプラグの電気火花で燃焼室内の混合気を燃焼させる内燃機関にとっては、「いつ点火させるか」が重要です。今では無接点点火が当たり前ですが、1980年以前は原付から大型車まで機械的に接点を開閉させるポイント点火が一般的でした。ほんの僅かの調整次第でフィーリングが大きく変化するので、この調整はとても重要です。
内燃機関にとってきわめて重要な点火時期

日常的に走行していた愛車であれば点火装置の善し悪しは判断できるが、不動車の修理やレストアを行った際は、ポイント点火車であれば点火時期調整が不可欠となる。「とりあえず始動できればラッキー」という考え方もあるが、長期不動状態の絶版車だとなにがあるか分からない。

フライホイールマグネトー点火は絶版原付バイクの標準的な点火システム。フライホイール中心部が卵形のカム形状となっており、ステーターベースに固定されたコンタクトブレーカーのヒールが接触している。フライホイールが1周回るごとにヒールが1度押し上げられてコンタクトブレーカーの接点が開き、その瞬間にイグニッションコイルからスパークプラグに高電圧が流れて火花が飛ぶ。

接点を開いて押し込んだ綿棒はオイルやグリスでベタベタ。フライホイール越しにパーツクリーナーを吹き付けても、これほど汚れているときれいにはならないだろう。接点が汚れていると、点火タイミングで隙間が開いても汚れで通電してしまい一次電流が遮断されなかったり、切れが悪くてイグニッションコイルの電圧が充分に上がらないこともある。接点の表面が凸凹に荒れている場合はサンドペーパーで修正すると良いが、摩耗が進行している場合は交換したい。ただし絶版車の場合、新品コンタクトブレーカーの入手が難しいという問題もある。

汚れはひどかったが接点表面の荒れはなかったので再使用する。走行距離が多くなると、フライホイールのポイントカムと接触しているヒール(指で持ち上げている部分)が摩耗して、点火タイミングを合わせてもポイントが充分に開かないギャップ不足の原因になることもある。最大隙間が0.3~0.4mm以下の場合はコンタクトブレーカー交換が必要。
「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」はこの世にガソリンエンジン(内燃機関)が登場して以来、ずっと変わらず重要視されてきた3要素です。
昔のバイクや自動車にあったポイント点火は今では姿を消し、無接点のフルトランジスタ点火が主流となっていますが、スパークプラグに火花を飛ばして作動していること自体には何ら変わりはありません。
機械式のポイント接点なのか無接点かに関わらず、エンジンにとっては「いつ火花を飛ばすのか」という点火時期が大事です。混合気を吸い込んでシリンダー内を上昇するピストンが上死点に達する過程で、ちょうど良い時機に火花で着火することで、上死点を超えて下降を始めるピストンを最大の力で押し下げることができます。
一般的に点火時期は上死点より手前に設定されており、手前すぎれば燃焼圧力が上昇過程のピストンを押し戻す力となり、ピストンがクランクシャフトの慣性力で下降している上死点過ぎに点火しているようでは、爆発的な圧力を有効に活かすことはできません。
ポイント点火のエンジンは、コンタクトブレーカーの接点が開いた瞬間にスパークプラグに火花が飛ぶため、その調整が重要なメンテナンス項目となります。一方でトランジスタ点火やCDI点火は接点がないためメンテナンスフリーとなります。ただし点火時期という概念はポイント点火車と同様に重要です。
むしろ最近のデジタル制御のフルトランジスタ制御システムは、点火時期を検出するためのパルスローターのトリガー(突起)を複数箇所に設けることで、クランクシャフト1回転で接点が1回開閉するポイント点火車や、トリガーが1個だけの初期のフルトランジスタ点火車よりも、エンジン回転数や負荷に応じて点火時期をきめ細やかに変更できるのが特長です。
それはすなわち、ハイパーフォーマンスエンジンであっても点火時期は変わらず重要であり、逆にいえば、走行状況に応じて点火時期を細かく適切に調整できることで安定して高い性能を発揮できるわけです。
旧車や絶版車のコンタクトブレーカーはいかにも古めかしい見た目ですが、スパークプラグに「ここぞ」というタイミングで火花を飛ばすという点では、最新式のデジタル点火装置と変わらない重要なパーツであることを知っておきましょう。
- ポイント1・絶版車でも現行車でもガソリンエンジンの「良い火花」にとって点火タイミングは重要
- ポイント2・フルトランジスタ点火やCDI点火車に対してポイント点火車は機械的な作動部分があるためメンテナンスが必要
接点が開く瞬間を正確に合わせることが重要

ポイントからイグニッションコイルにつながる配線を途中で抜いてリード線を取り出してバッテリーと電球をつなぎ、電球の反対側のリード線をエンジンにアースする。

ポイント接点が閉じている時は明るく点灯する電球が、接点が開いた瞬間に僅かに暗くなる。消えるわけではないので慣れないうちは判断が難しいが、点火時期近辺でフライホイールを何度か行ったり来たりさせると明暗の差を見分けられるようになる。コンタクトブレーカーの位置が合っていれば、フライホイールのFマークとエンジンの合わせマークが一致した時点で暗くなる。合わない場合はFマークで電球が暗くなるよう、コンタクトブレーカープレートを調整する。

ポイントを清掃して点火タイミングを厳密に合わせると、始動性が明確に良くなる。的確なタイミングで良い火花が飛ぶのだから当然といえば当然だが、点火時期がほんの僅かでも早かったり遅かったりするだけでエンジンの掛かりにも影響するのだ。先に電球で調整しておけば、タイミングライトを照射してもFマークと合わせマークはピッタリ合致する。
ポイント点火車はコンタクトブレーカーの接点を開くことでイグニッションコイルに流れる一次電流を切断し、その際に発生するコイルの自己誘導作用によって高電圧を発生します。そのため「良い点火」のための点火時期調整は、シリンダー内のピストンの位置=クランクシャフトの角度(エンジンによってはカムシャフトの角度)と接点が開くタイミングをいかにシビアに合わせるかが最も重要です。さらには接点が開いた際の隙間(ポイントギャップ)も重要ですが、ここでは点火時期のみに絞って話を進めます。
コンタクトブレーカーの接点はポイントカムで開閉し、開いた瞬間に一次電流が切断されますが、開いた「瞬間」を見きわめるにはある程度の経験が必要です。接点を凝視しながらクランクシャフト(フライホイール)をゆっくり正回転(エンジンの回転方向)に回して、接点が微妙に動き始めた時が点火時期です。
フライホイール外周にT(上死点)とF(点火時期)マークが付いているエンジンはこのマークを参考にしても良いですが、点火時期が完璧に合っていても「今、ホントに開き始めたの!?」というほど接点の動きはデリケートです。
接点が開くというと、完全に隙間ができるほど開いた状態を思うかも知れませんが、実際の変化はきわめて微小です。Fマーク近辺でフライホイールを何度か正回転、逆回転させて接点が動いたかどうか?程度の変化です。
目視では開いたかどうか分からないほどの変化でも、ピッタリ閉じていた接点が僅かでも開くと一次電流が遮断されてイグニッションコイルから火花が飛ぶため、点火系の電気の流れにとって僅かな変化を正確に捉えることが重要です。
そのためにフライホイールのFマークがあるのですが、先の通りFマーク時には接点の動きが少なすぎてタイミングが合わせづらいこともあります。その際は小さな電球を使って調整することができます。
準備は以下の通りです。コンタクトブレーカーからイグニッションコイルにつながる端子を抜き、コンタクトブレーカー側の端子を6Vバッテリーと6V電球につなぎ、電球の反対側の配線をフレームにアースします。
この状態でフライホイールを回転させると、接点が閉じている間は電球が明るく光りますが、接点が開いた瞬間に僅かに暗くなります。電球が暗くなるタイミングと接点の状態を同時に確認すると分かりますが、接点が開いたかどうか分からないようなタイミングで電球がフッと暗くなります。
この暗くなったタイミングでフライホイールのFマークがエンジン側の合わせマークと一致すれば点火タイミングは正常です。一致しなければFマークで電球が暗くなるようブレーカープレートを微調整します。これは1960年代から行われてきた原始的な手法ですが、正確性においては現代でも充分に通用します。
ただこの調整もデリケートで、プレートを僅かに動かしたつもりでも点火時期が大幅にズレてしまうこともあります。それでも根気強く調整を行い、電球が暗くなるタイミングとFマークがピッタリ合ったら、ブレーカーの固定ビスをしっかり締め付けておきます。
一方で、接点が開くタイミングを目視で確認、エンジンを始動してタイミングライトを照射してFマークからズレていたら調整するという方法もありますが、調整確認のたびにエンジンを掛けたり止めたりするのは面倒です。
また4気筒車の場合は1/4番、2/3番プラグを2個のコンタクトブレーカーで管理しているので、点火時期調整も2カ所で行わなくてはなりません。その際にどちらかのポイントが適正位置からズレていたら、エンジンが始動しないこともあります。
それを防ぐためにも目視+電球を用いた調整は有効です。エンジンを始動する前に正確に点火時期を合わせておけば、それが原因で始動困難になる可能性を大幅に減らすことができます。
ここまで慎重に調整しても、ポイントカムとヒールの摩擦や接点の焼損など、ポイント点火車には経年変化要素があり、それゆえ無接点のトランジスタ点火方式に取って代わられたわけですが、調整不良やメンテナンス不足を棚に上げてポイント点火を一方的に否定するのも正しくはありません。まずはエンジンにとって必要な「良い火花」が得られるよう、単純でも合理的な方法で調整してみるのが先決です。
- ポイント1・スパークプラグに火花が飛ぶポイント接点が開く瞬間の見きわめは難しい
- ポイント2・電球の僅かな明暗によって接点が開くタイミングを正確に知ることができる
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