
フロートチャンバー内のガソリンの量に応じてフロートが浮沈するのに合わせて開閉するフロートバルブ。ガソリンの量で油面の高さが変わり、油面の高さによって空燃比も変化することから、繊細な調整が必要です。油面は調整板=フロートリップで調整するのが基本ですが、中には調整機能を持たないフロートも存在します。
デリケートなフロートリップが油面に大きく影響する

フロートの支点であるフロートピンのすぐ近くにフロートリップがあり、このリップがフロートバルブに接することでガソリン通路を開閉する。画像のようにフロートバルブからリップを離すように曲げると、フロートチャンバー内のガソリンが増えてもリップとバルブがなかなか接触しないため油面が上昇する。フロートチャンバー内で油面が上昇するとベンチュリー内の負圧が小さくてもガソリンが吸い出されやすくなるため、混合比が濃くなりやすい。

フロートピンを上にしてキャブ本体を傾けて、フロートバルブにフロートリップを接触させた状態で油面の高さを測定する。フロートレベルゲージはメインジェットの位置で、ボディに対して垂直に合わせ、フロートを押さないように使用する。4連キャブの場合、それぞれのフロートの高さを測定した後で、4つのフロートを透かして確認する。フロートの並びが凸凹になるようならレベルゲージで再確認すると共に、フロートバルブのロッドスプリングのヘタリも確認する。

フロートバルブの中心にあるロッドは内部のスプリングによって僅かにストロークする。長期不動で劣化したガソリンが内部でワニス化するとロッドが固着したり動きが悪くなることがあり、油面測定時や実油面にも影響する。フロートバルブをキャブクリーナーなどで清掃する際はロッドがスムーズに動くことを確認する。

フロートピンからフロートバルブまでと、フロートピンから油面測定位置までの距離の比によって、フロートリップの曲げ量がゲージ測定値に大きく反映される。フロートを着脱する際にフロートバルブのガイドがリップに引っかかった状態で僅かに力が加わるだけでリップが曲がり、その結果フロート高さが大きく変化してしまうことがあるので、分解組み立て作業を雑に行ってはならない。
キャブレターにとって最も重要な要素のひとつが、フロートチャンバー内の油面安定です。ジェットやニードルのセッティングで混合比が変化するのは事実ですが、それ以上に油面の高さが重要です。メーカーによって指定された寸法より油面が高ければ混合比は濃くなり、低ければ薄くなります。これは大気下で作動するキャブにとって自然の摂理です。
これは単気筒車よりも2気筒以上のエンジンに影響を与えます。ジェットやニードルのセッティングが同じであっても、隣のキャブと油面の高さが違って混合比が異なれば、プラグの焼け具合が変わる可能性があります。キャブセッティングにとってプラグの焼けは重要な判断材料なので誤解の原因にもなりかねません。そんな判断ミスを防ぐためにも、メンテナンスやセッティングの際には最初に油面を確認しておくことが重要なのです。
油面の高さは機種によって規定値が異なりますが、フロートレベルゲージを使用する際はフロートチャンバーの合わせ面からフロート底部までの距離=高さを測定します。この時、フロートリップ=調整板がフロートバルブの中心軸(ロッド)に触れながら押し込まないよう、キャブ本体の傾きをコントロールしながら測定するのがポイントです。
実測値がマニュアル上の基準値から外れていたら、フロートバルブとの接触位置が変わるようフロートリップを曲げて調整します。傾向としては、リップとフロートバルブが近づくように曲げると早く押すようになるため油面が低下し、両者が離れるように曲げると押し始めるタイミングが遅くなるため油面が上昇します。
またリップはフロートの支点であるフロートピンに近く、ゲージで測定するフロート底部はフロートピンから遠いため、リップの僅かな変化がフロート底部で増幅される傾向もあります。そのため雑にリップを曲げると想像以上にフロート高さが変化することもあるので注意が必要です。
油面調整するためにリップに触れるのならまだしも、オーバーホール目的でフロートを着脱する際に誤ってリップを押してしまい、それに気づかず組み立てた後に空燃比が変化して違和感の原因となる例もあります。ゲージ油面の許容範囲も機種やキャブレターによって違いがありますが、基準値±1mmという機種もあれば基準値のみという機種もあり、これらを見てもキャブにとっていかに油面が重要かが理解できるでしょう。
- ポイント1・フロート油面が高いか低いかによってジェットやニードルサイズが同じでも混合比が変化する
- ポイント2・2気筒以上のキャブで油面が揃わないと燃焼状態にバラツキが出るためすべての油面高さを規定値内に合わせることが重要
フロートバルブ長の僅かな違いが油面変化の原因になることもある

フロートバルブとバルブシートはそれぞれのパーツの個体差によってフロート高さが変化することもあり得るので、交換した場合は必ず油面の高さを測定する。

油面高さを調整するリップを持たない、一体成型樹脂製フロートの一例。規定油面どおりであれば問題ないが、規定値から外れている場合はフロートバルブまたはフロートを交換するしかない。規定値を外れる原因はいくつか考えられるが、フロートバルブのロッドが樹脂製リップに当たり続けて摩耗し、油面が上がる方向に変化する例がある。
長期間放置したことでフロートチャンバー内部が腐食したキャブレターをオーバーホールする際に、フロートバルブやバルブシートを交換するのは絶版車ではよくあることです。このような場合、旧車や絶版車ユーザーの間では部品調達の手間やリーズナブルさからキースター製の燃調キットを使用するのが一般的になっています。
ジェットやニードルを複数セットすることで純正キャブでもセッティング変更が可能となる燃調キットには、メンテナンスやオーバーホールに役立つフロートバルブや各種ガスケット類も入っています。フロートバルブ先端のニードルは同社独自の耐アルコール含有燃料(いわゆるバイオガソリン)ゴムを用いたAAニードルを使用しているのが特長です。
それらは純正パーツとの互換性を考慮して設計されていますが、フロートバルブやバルブシートを交換した場合は念のためフロートレベルゲージで油面高さを確認しておきましょう。これは燃調キットだからというわけではなく、純正パーツを使用する場合でも同様です。
フロートバルブやバルブシートをはじめすべての大量生産品には僅かな個体差があり、それらの組み合わせによってはフロート油面に影響を与える場合もあります。フロートバルブ内のスプリングが経年劣化によってヘタることで、フロートリップが触れた際の動きが変化することも考えられます。
ここまではフロートリップによってフロート高さを変更できる例を解説してきましたが、フロートの構造(形状)によって油面の調整ができないキャブレターも存在します。例えばホンダモンキーやスーパーカブなどの横型シリーズ用キャブは、年式によってフロートとフロートリップが一体成型の樹脂製で調整機能がありません。
そのため、フロートレベルゲージで測定した油面が規定値から外れている場合は、フロートバルブやバルブシートの摩耗を点検して、どちらにも異常がなければフロート本体を交換するよう指定されています。またこれらのキャブはバルブシートが圧入されているため交換できず、フロートバルブとフロートの組み合わせだけで油面が決まってしまうという特徴があります。
調整機能を持たないキャブは小排気量車用だけとは限らず、ホンダCB750Fシリーズ(900/1100も含む)でもオール樹脂製フロートを採用しています。調整要素がないため製造時の組み立て効率は向上しますが、経年変化に対応できないのが弱点となります。
このような場合は致し方ありませんが、フロートリップ付きのキャブレターであればメンテナンスやオーバーホールの際にレベルゲージを用いた油面確認と、必要であれば調整を行うことをおすすめします。
- ポイント1・純正部品か社外部品かを問わずフロートバルブやバルブシートを交換した際はフロートレベルゲージで油面を確認する
- ポイント2・キャブレターによってはフロートリップがなく油面調整ができないものもある
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