加速や減速で強い力で引っ張られながら、前後のスプロケットで屈曲させられるドライブチェーンは、定期的に注油を行っていたとしても摩耗は避けられません。チェーンが伸びるとたわみが大きくなりますが、それと同時にスプロケットの摩耗も進行します。たるんだチェーンの張りを調整する際は、スプロケットの歯の状態も確認しておきましょう。

ピンとブッシュの摩耗でチェーンが伸びるとローラーのピッチが広くなる

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チェーンのたわみ量を確認する際は前後スプロケットの中間あたりでチェーンを上下に揺すって測定する。ヤマハトリッカー(2004年モデル)のたわみ量は40~45mmで、チェーンの偏伸びも考慮して最も張りが強くなる場所で測定する。

 

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チェーンが伸びるとたわみ量が増加するので、チェーンプーラーで適正値に調整する。たわみ量を規定範囲内に収めることで問題が解決したように思えるかも知れないが、ピンの摩耗によりピッチが広がることでスプロケットとうまく噛み合わなくなる。ドリブンスプロケット上でチェーンをつまみ上げた際に歯面から浮き上がる場合はチェーンが伸びていると判断できる。

 

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ピンとブッシュの摩耗によりチェーンが伸びる時、ピンが圧入された外リンクとブッシュが圧入された内リンクで広がり方は同一ではない。内プレートによってピッチが固定された内リンクのピッチは変化しづらく、隣り合う内リンクをつなぐ外リンクはピンの摩耗によってピッチが広がりやすい。不均一にピッチが変化するチェーンとスプロケットの当たり面は前後の歯数が異なるためランダムになり、歯面の側面が徐々に削り取られていく。

 

ドライブチェーンの伸びを抑えるには、清掃と潤滑を定期的に行うことが重要なのはご存じの通りです。小判形のプレートをピンで連結しているチェーンにとって、ブッシュとピンの接触部分の潤滑は重要であり、その潤滑を確保するためにシールチェーンが実用化されています。

ピンとブッシュ以外にも、スプロケットの歯面と接するローラーや、ローラーの内側に位置するブッシュとの間にも潤滑成分が必要で、さまざまな過酷なテストを行うチェーンメーカーは数百キロごとの注油を指定しています。

ただ、定期的に注油を行っていてもピンとブッシュの摩耗がなくなることはありません。それは潤滑用のグリスが封入されているシールチェーンであっても同様です。ブッシュとピンはそれぞれ焼き入れ処理によって表面硬度を上げて耐摩耗性を持たせていますが、加減速時に強く引っ張られることで働く強い摩擦力により、両者の表面は徐々に摩耗していきます。

ピンとブッシュの摩耗によるチェーンの伸びは、前後スプロケット間のたわみ量の増加によって分かります。チェーンアジャスターでたわみを適正量に調整しても、走行距離が増えればたわみ量が多くなるのは仕方ありません。たわみ量が増えることで「チェーンが伸びた」と認識しますが、伸びの原因をより具体的に説明すれば「ローラーのピッチが広がった」ことでたわみが多くなっていきます。

ピッチとはピンの間隔のことで、チェーンのサイズを示す428や530などの三桁数字の百の位で表記されています。具体的には428の4なら8分の4インチ、530の5なら8分の5インチがピンとピンの間隔になります。ここでピンの摩耗によるたわみ量を考えると、100リンク100本のピンが0.1mmずつ摩耗すると全体では10mm伸びることになります。この伸び分がたわみ量の増加につながるわけです。

 

POINT

  • ポイント1・ドライブチェーンの伸びはチェーン一コマずつに組み込まれたブッシュとピンの摩耗が原因
  • ポイント2・一カ所ずつの摩耗は僅かでもリンク数が長くなることでたわみ量が多くなる

ピッチが広がったローラーが食い込むことでスプロケットの摩耗が進行する

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スプロケットの歯面の摩耗はローラーが強く当たる面がより顕著に進行する。走行時、画像のスプロケットは左回転するため、谷の左面のアルマイトがより多く削り取られていることが分かる。

 

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チェーンが伸びてピッチが広がったにも関わらずたわみを調整せず走行することで、スプロケットの底に収まらなくなったローラーが歯面を斜めに削り取った例。このままさらに摩耗が進行すると、向かって左側の歯面がさらになだらかになり、なるとのように変形してチェーンが掛からなくなる。

 

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チェーンを引っ張るドライブスプロケット歯面の摩耗は、チェーンに引っ張られるドリブンスプロケットとは逆になり、チェーンのローラーは歯面の右側に食い込もうとする。

 

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2004年式ヤマハトリッカーのドライブチェーンサイズは428で124リンク。摩耗チェックは10リンク分のブッシュ内幅を測定して判断する。急加速や急減速によって部分的に衝撃が加わると偏伸びすることもあるので、一カ所だけでなく何カ所かで測定して交換時期を判断する。

 

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サービスマニュアル上の長さ限度119.5mmに対して、実測値も119.5mmなので要交換。ノンシールチェーンでメーカー推奨タイミングで注油しても、シールチェーンはそれより2~3倍の耐久性がある。ここでいう耐久性とは、決められた伸び率に達するまでの走行時間で、チェーンが伸びづらければスプロケットの摩耗も緩やかになる。

 

ピッチが広がる=ピンとブッシュが摩耗するのはチェーンの劣化の典型的なパターンですが、その影響はスプロケットにも及びます。なぜならスプロケットの歯の形状は、新品チェーンのピッチに合わせて設計してあるからです。

チェーンもスプロケットも新品の時には、チェーンのローラーはスプロケットの谷にぴったり密着ながら歯面を移動します。しかしピンとブッシュが摩耗してピッチが広がると、スプロケットの谷の幅よりローラーの幅の方が広くなっていきます。するとローラーは歯面の谷底まで食い込まなくなり、谷底から僅かに浮いた状態で動力を伝達することになります。

そしてさらにピンの摩耗が進行してピッチが広がると、ローラーがスプロケットの谷底ではなく側面に強く当たり、歯面の痩せが始まります。するとチェーンは歯面の底に近づくため、たわみがより大きくなります。

こうしてピンの摩耗によるピッチの拡張とスプロケットの摩耗が相乗的に進行することで、たわみの増加もとどまることなく進行していくのです。機種によってはスイングアーム後端のチェーンプーラーに交換限度が記されていることがありますが、プーラーを引き切った時点でチェーンもスプロケットも交換時期に達している場合がほとんどです。

この時チェーンだけ交換すると、摩耗したスプロケットの歯面とピッチが合わず、チェーンと噛み合った状態で回転方向に遊びが生じ、せっかく装着した新品チェーンのローラーを偏摩耗させる原因になってしまいます。ある機種のサービスマニュアルには、ドライブチェーンの伸びが規定値以上になった場合はチェーン、ドライブスプロケット、ドリブンスプロケットの3点セット交換が指定されています。

ノンシールチェーンはもちろん、ピンとブッシュの空隙にグリスが充填されているシールチェーンであってもピンとブッシュの摩耗は進行しますが、ローラーとブッシュ、ローラーとスプロケットの歯面の潤滑はそれぞれの摩耗を低減させるために有効なので、注油が無駄だと考えるのは間違いです。

チェーンがスムーズに回転し、スプロケットとの噛み合わせが滑らかになれば、手入れすることなく乗り続けるより寿命が長くなるのは確実です。チェーンのたわみ量増加とスプロケット歯面の摩耗を確認しながら、適切なメンテナンスを継続的に行いましょう。

 

POINT

  • ポイント1・ピンが摩耗してチェーンのピッチが広がるとスプロケット歯面との噛み合い位置がずれてスプロケットの摩耗が進行する
  • ポイント2・チェーンの伸び量が増えるのに合わせてスプロケットの摩耗量も増えるためチェーンとスプロケットは同時に交換する

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