
コーナリングでスムーズにハンドルが切れるのは、フレームのヘッドパイプとステアリングステムの間に存在するステムベアリングのおかげです。
ところが、グリス切れや転倒などの原因でベアリングがダメージを受けると、ハンドルをある程度曲げたところで引っかかったり、コーナリングで違和感が生じることがあります。
ハンドル操作で「何かおかしい?」と感じたら、ステムベアリングの確認とメンテナンスを行いましょう。
目次
2方向からの大きな力に耐えて働くステムベアリング
トップブリッジを外す際にステムヘッドナットを緩める際は、工具や外れたナット、ハンドル付きで重いトップブリッジでガソリンタンクを傷つけないよう毛布やタオルでカバーすると良い。あらかじめタンクを外しておけば、さらに安心だ。
ハンドル部分に組み込まれたステムベアリングは、ホイールベアリングを初めとしたバイク各部のベアリングと同様に、スムーズなハンドル操作にとって不可欠な部品です。
ステムベアリングの典型的な不具合に、右から左にハンドルを切る途中でコツンと引っかかる症状があります。
これは転倒などの大きな衝撃によって、ベアリングを受けるレースという部品に傷や打痕が付くことで、スムーズにボールが移動できなくなることで発生するものです。
そうした外的要因だけでなく、グリスによる潤滑が不可欠なステムベアリングが油膜切れを起こせば、やはりスムーズに回転できなくなりハンドル操作に違和感が生じる原因となります。
ステムベアリングには丸い鋼球を並べたボールタイプと、円錐のコロを並べたテーパーローラータイプの2種類が機種によって使い分けられていますが、いずれのタイプでもグリスは不可欠です。
ボールベアリングタイプは「タマ」の落下に注意
タイヤやフォークなどの重量物を外すことで慣性重量が軽くなり、ステムベアリングの真のコンディションが把握しやすくなる。
普段のライディング時には気づかないほどの打痕も、ステム単体だとカクカクカク……と分かることもある。
上部のステムナットを外す際は、落下するステムを支えること。
バラバラタイプのボールベアリングは、下側のレースが見えた時点で球が転がり落ちることがある(グリスでレースに張り付いていることもある)ので要注意。
ステムの下側にバットを置いておくと良い。
ここで作業実践を紹介しているホンダエイプは、ボールタイプのステムベアリングを採用しています。
ボールの上下にはレースと呼ばれる部品があり、これでボールを挟み込みながら左右に切れるハンドルの動きを助けています。
そしてレースの上に並ぶボールには、小さな球を隣り合わせにびっしり並べるタイプと、リテーナーと呼ばれる保持器を用いるタイプがあり、前者の場合にはフレームからステムを取り外す際にボールがバラバラに落下してしまうので注意が必要です。
またバラバラタイプのボールは、ステム上部と下部で装着個数が異なる場合があるので、ステムを取り外す際に使用個数を確認しておきます。
使用個数20個のレースに21個のボールを並べようとすると、レースに入らないのですぐに分かりますが、1個足らない19個ならボール同士の隙間が何となく大きいかも……という感じになることもあります。
もちろん20個並ぶべき部分には20個必要なので、ステムを外す際にはボールの落下に気をつける必要があるのです。
一方このエイプもそうですが、リテーナーを用いた一体タイプのボールベアリングは、ボールの落下がない分、ステムを外す際に神経質になる必要はありません。
ハンドルが引っかかるような違和感があって分解する際は、レースの表面に等間隔で釘で叩いたような痕跡がないかを確認します。
もし点々と痕があれば、それがボールが強く押しつけられた打痕であり、ハンドルを左右に切る際にボールが打痕部に差し掛かると、これを乗り越える際に抵抗が生じて引っかかりとなるのです。
打痕が付いてしまったレースは、グリスアップを行っても引っかかりは解消しないので交換するしかありません。
今回のエイプのレースには異常はないので、レース交換はまた別の機会に紹介します。
復元時のキモはステムナットの締め付け具合
ステム下部を支えた状態で、ステム上部のベアリングを確認。
指で摘まんだレースに傷や打痕はなく、ステム側に残っているリテーナー付きボールベアリングにもグリスがたっぷり付着している。
以前にグリスアップを行っているようだ。
一方、下側のベアリングは赤さびが付着したような状態だ。
オイルシールのリップに損傷はなく、上部ベアリングとの差が著しい。
ただしレースにサビや打痕はなく、ボール自体にもサビは発生していないので、洗浄して再使用する。
ベアリングレースにパーツクリーナーをスプレーして、古いグリスを完全に除去する。
ここでしっかり洗っておかないと、レース表面の微細な打痕を見逃す可能性がある。
ボールやリテーナーも洗浄して、傷などがないことを確認しておこう。
ステムベアリングのグリスアップを行うには、フロントタイヤとフロントフォーク、ステアリングステムを外します。
先述したとおり、エイプはリテーナータイプのボールベアリングを採用しているので、ボールがバラバラと落下する心配はありません。
ステムを外したら、上下のベアリングの潤滑状況を比較して、特に下部のベアリングが劣化している時には、走行中に水が掛かりやすいステムシャフト下部で水分の浸入を防ぐオイルシールの損傷の有無を確認します。
オイルシールのリップが切れたり損傷していたら交換が必要ですが、その場合はステムシャフトに圧入されたインナーレース脱着作業が発生するので、相応の工具がない場合はバイクショップにお願いした方が無難です。
レースに打痕がなくオイルシールも無傷なら、レースとボールを洗浄して新しいグリスを塗布します。
レースとボールの両方にグリスを塗布する。スムーズな操作性に加えて防錆の目的もあるので、表面にしっかり塗っておく。
リテーナー無しのバラバラタイプのボールは、上下の使用個数を正しく復元すること。
ステムを復元してステムナットを締め付ける。
ナットの締め付け具合をほんの少し変えるだけで、ハンドルの重さが大きく変化するので、ナット外周の切り欠き部分をマイナスドライバーで叩くような大雑把な締め方では、うまく調整できないこともある。
この調整作業では専用のフックレンチを使用したい。
ステムは走行中に水が掛かる部分なので、使用するグリスは耐水性が良好なリチウム系のマルチパーパスタイプや、極圧性に優れたウレア系がおすすめで、ここでは金属改質成分を配合したゾイルグリースを使用しています。
リチウム系グリスの購入はこちら
グリスを塗ったステムを復元したらステムロックナットを締めますが、この締め具合が難しく、強すぎるとハンドルが重くなりベアリングも傷みやすく、かといって弱すぎればボールとレースにガタが生じてやはりベアリングを傷めます。
機種によって締め付けトルクが指定されていたり、一度強く締めてから少し緩めるなど、締め方の手順は機種によって異なるため、サービスマニュアルで確認するのが基本です。
ただ一般的には、ステム単体で締めた時に動きが重いと感じても、フロントフォークやフロントタイヤなどの重量物を装着すると、慣性重量が大きくなるため軽く感じるようになります。
そのためステム単体時に軽く締めると、フォークやタイヤが付いたときに動きが軽すぎたり、場合によってはベアリングにガタが生じる場合があるので注意が必要です。
フロント周りを復元した後にガタがあった場合、トップブリッジを装着した状態でステムナットが回せる機種もあるので、ナットを増し締めして再確認しましょう。
原付からビッグバイクまで、ステムベアリングのグリスアップとナットの締め付け具合の見直しによって、ハンドリングがスムーズになりライディングはさらに楽しくなります。
まだ一度もグリスアップをしたことがなければ、ぜひチェックしてみましょう。
ステムベアリングは、定期的なグリスアップを行おう。
ステムベアリングはスムーズなハンドル操作と同時にフロントタイヤからの突き上げを受け止める重要パーツ。
レースのコンディション維持のためにグリスアップとチェックを忘れずに実践しよう。
この記事にいいねする