4ストモデルにばかり乗っていた人や2ストモデルを所有したことが無い人が2ストモデルに乗ると、得てして忘れてしまうのが「エンジンオイルの補給」である。ガソリンにオイルを混ぜて走らなくてはいけないのが2ストロークエンジンなので、エンジンオイルの入れ忘れが「焼き付き」原因最大の要因だが、このバイクは違っていた。まずはロック原因=具体的な患部探しから始めよう。
どうやら焼き付きではない!?なら何が原因?
キックが完全にロックしてまったく動かない。そこで、クラッチカバーを取り外してプライマリーギヤとドリブンギヤ部分に噛み込みなどが無いか!?確認してみた。まったく問題は無いので、クランクエンドのナットにソケットを掛けて、レンチでクランクシャフトを直に回してみた。すると、キックを踏み込む正転方向へは回転しないが、反対方向=クランクシャフトは逆転した!!えっ……。つまりクランク室内で「何か!?」が起こっているのだと判断し、作業手順としてはエンジン腰上を分解することにした。そして、クランク室内に異物を発見したので、掃除機で吸い取ろうと考えたが……。
エンジン腰上の分解手順
2スト空冷エンジンはシリンダー&ヘッドを固定するスタッドボルトのナットを緩めることで簡単に分解することができる。袋ナットではなく普通のナットなら、緩める前に防錆浸透スプレーを吹きつけ、カジリを防止しよう。シリンダーヘッドを取り外し、ヘッド側燃焼室とピストンが当たっていないか確認しよう。ヒットした形跡は無かった。ただ気になったのが、ピストントップと燃焼室のカーボン堆積がたいへん少なかったことだ。シリンダーを抜き取る前にキャブレターを分離しよう。
ヤマハリトルツインはシリンダーから突き出たインテークポートにキャブレターを差し込んで締め付け固定するタイプ。このようなキャブ固定を採用した2ストエンジン組み込み時は、二次空気の混入に要注意。エキパイナットを緩めたらシリンダーを上へ引き抜くが、ベースガスケットが固着しているのか? シリンダーがビクともせずにまったく動かない。仕方なく木片をシリンダーへ当ててハンマーで状況確認しながら叩いた。直接ハンマーで叩くとフィンを折ってしまうことがあるので要注意。激しく固着していたので、スタッドボルトの隙間から防錆潤滑浸透スプレーを大量に吹き付けてしばらく待った。
その後、シリンダーが動き始めたので、さらに木片越しに叩いてシリンダーを抜き取った。案の定、スタッドボルトは真っ赤になっていた。サビ粉がクランク室内に落ちてしまわないように掃除機で吸い取り、オイルに浸したティッシュでサビ粉を吸い寄せた。先細プライヤーでピストンピンクリップを取り外し、ピストンピンを抜いてピストンを取り外した。とコンロッドをセパレートにしてみよう。クリップを落さないようにウエスをピストンの下に押し込んでおこう。メーター積算計の通り5000キロ強が本当なのかどうかは不明だが、決して悪いコンディションではないピストンが出てきた。左右のピストンともスカート部分に深いキズなど一切無いので、焼き付き履歴は無さそうだ。
クランク室内に異物がある!?
左右コンロッドのスモールエンドを両手で保持し、居合わせた仲間にクランクシャフトをゆっくり回してもらうと、クランクシャフトが回らなくなるのと同時にコンロッドにもコツッといった感触があった。クランク&コンロッドがフリーに動く箇所までクランクの回転位置を戻し、マグネット付きピックアップツールを一次圧縮室内に突っ込んでみた。するとパチッ!!という音とともに出てきたのが、ベアリングのニードルローラーのような破片!? ニードルピンのような破片が落下しているだけでも、クランクシャフトは回らなくなる。つまり、一次圧縮を高めるためにギリギリサイズで設計されているのが2ストエンジンのクランク室なのだ。このあたりは4ストエンジンとは大違いである。
圧入ピンが折れて吸い込まれたか!?
一次圧縮室内に落下していたのは太さΦ2mmの「ピン」のようなもの。クランクケースとコンロッドのビッグエンドの間に挟まりクランクシャフトをロックしていたようだ。それが原因でキックが降りない状況になっていた。このピン、いったい何なのか!?左側シリンダーの一次圧縮室内に落下していたこのピンが、仮にビッグエンドベアリングのニードルローラーだったとしたら……。そんなことを考えながら左シリンダーを点検していたら、異変に気が付いた!!右シリンダーのインテイク部にはキャブの回り止めピンが圧入してあるが、左側のシリンダーにはそのピンが無かった!?ピンの太さを測ると落下していたピン、ズバリそのもの。落ちたピンがコンロッドに叩かれて変形した様子は無いので、落下と同時にクランクシャフトはロックしたようだ。何故!?どのような経緯があったのは不明だが、ロック原因と現状把握はすることができた。
- ポイント1・第一優先はクランクがロックしている原因=患部究明
- ポイント2・必要最小限の分解作業で効率良く原因究明
- ポイント3・患部を特定できたらクランクのスムーズ回転を確認
クランクシャフト側にトラブル原因がありそうなので、シリンダーヘッド、シリンダー、ピストンの順で分解し、一次圧縮室内の状況を外側から確認してみることにした。ピストンを外してからクランクシャフトをゆっくり回すと、左コンロッドを持つ指先にコツッと感触があり、同時にコンロッドが振れなくなった。そこでマグネット式ピックアップツールをクランク室に突っ込むと、マグネットに異物が吸い寄せられてきたのだった。
今回の腰上分解では、シリンダーが思い通りに抜けてくれなかった。ベースガスケットが固着していたり、液体ガスケットとの併用で完全に接着されたような状況でも、シリンダーに衝撃を与えれば、ガスケットが削げてクランクケースからシリンダーは分離できることが多いのが2ストエンジンでもある。特に、原付クラスに多いM6スタットボルト車の場合は、シリンダーが抜けないことは比較的少ない。
現場判断の結果、スタッドボルが錆びで「太って」しまったのだろうと考えた。そこで、スタットボルトとシリンダーの隙間に防錆潤滑スプレーをたっぷり吹き付けてから休憩。その後、木片をエキゾーストポート出っ張り部やインテークポートの下など、強度的に高い部分に当ててハンマーでコツンコツン。するとシリンダーが徐々に浮いてきて、ザグッといった音とともに抜き取ることができた。しかし、運悪く少量のサビ粉がクランクケース内へ落ちてしまったので、掃除機を使って可能な限り外側からサビ粉を吸い取り、さらオイルに浸したティッシュをコンロッドの隙間へ突っ込み、サビ粉をティッシュに付着させて除去した。
サビてしまったスタッドボルトにも防錆スプレーを吹き付け、ボルトをブラッシングして磨いた。単純なサビが原因で、2ストエンジンはメンテナンスが滞ってしまうことがあるので要注意。組み立て復元時には、スタッドボルトにグリスを塗布したり、防錆対策してから組み込むのが良いだろう。
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