絶滅危惧種と呼ばれるようになって久しいのが、日本のバイクメーカーが世界市場で躍進するきっかけにもなった2ストロークエンジンモデル。軽量コンパクトでしかもシンプル構造なのが2ストロークエンジンの大きな特徴だ。街中では2スト空冷モデルおろか、2スト水冷モデルまでも見掛けなくなった昨今だが、特に、2ストロークの空冷エンジンは、メカニズムが特にシンプルで、直せる、直せないに関わり無く「不調箇所を特定しやすい」のも「バイクいじり好き」には、たいへん楽しめる部分として認識されている。

世界最小排気量、最大量産2ストツインモデル

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不動車のまま保管され、本誌スタッフのもとへ嫁いできたヤマハリトルツインのHS90。前後フェンダーにはHX90用が装着されていたが、各パーツに目立ったサビ腐りは無く、比較的良いコンディションに見えた。しかし、不動車であることに変わりはない。市販の量産型ロードバイクとしては、ヤマハ90ccリトルツインシリーズは「最小排気量2ストツイン」として世界的にもっとも成功を収めたシリーズモデルだった。1965年のAT90に始まり、HS-1→HS90→HX90とラインナップされた。同クランクケースをベースにした最大排気量は、輸出専用モデルのRD200に及んだ。リトルツインの国内モデルは90ccだったが、輸出仕様は欧米も東南アジアも100ccエンジンのYL-1が主力で、北米市場では「ツインジェット」のペットネームを持っていた。唯一無二の独特な排気音で加速するヤマハリトルツインシリーズには数多くの根強いファンが存在する。

はじめの一歩は「燃料系と点火系」メンテ

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不動原因の多くはキャブレターの汚れや内部通路の詰まりによるものと点火系のポイント接点の汚れによるものが多い。オイルポンプの調整が悪く、燃えきれなかった2ストエンジンオイルがマフラー内に滞留し、バッフルディフューザーを詰まらせてしまうトラブルもある。2ストエンジン車の再始動時には、ガソリンタンク給油するときにも点滴タンクでガス供給するときにも、ガソリン20~30対オイル1程度の混合ガソリンを作って利用するのが鉄則だ。

点火系は「何点火!?」かを知ることが重要

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メーター積算計の走行距離は、車両全体のコンディションから判断し、信じるか信じないかはマシンオーナー次第。エンジン始動時に点火系システムを確認し「何点火!?」なのかを知っておく必要がある。キックを踏み込めばスパークプラグに着火するフラマグポイントやフラマグCDIなら良いが「バッテリー点火車」の場合は、バッテリーの搭載が必要不可欠なことを忘れてはいけない。

基本データの有無も重要になる

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ヤマハリトルツイン用のサービスマニュアルがなかなか入手できないので、海外のWEBサイトで見つけた英語版のサービスマニュアル(SM)。該当モデル用SMを購入しテクニカルデータを確認した。この時代(60~70年代初頭)のSMは、どのメーカーも国内版以上に海外版の方が、充実した記載およびデータ内容となっていた。本格的なレストア時には、パーツの在庫有無に関わらず、構成パーツを知る意味でもパーツリスト(PL)の存在がありがたい。

POINT

  • ポイント1・いきなりエンジン始動しではなく、主要箇所の点検から開始 
  • ポイント2・燃料タンクは点滴タンク利用が必須!!
  • ポイント3・2stエンジンならエンジンオイルで混合ガソリン仕様にする

大型二輪免許が解禁になり30年。20世紀末から大型バイクブームが到来した。そうなると扱いやすく、何よりも軽い小型バイク、特に、日本の道路事情では「原2」と呼ばれる原付二種モデルが注目されるようになる。ここ数年のバイクメーカーの動向を見ても、60~70年代の再来とも呼べるような「原2注目度」となっているのはご存じの通りだ。

土日の高速道路利用では、大渋滞の挙句、到着するまでに2~3時間もかかってしまう観光地へも、原2で下道を走り、ショートカットしつつ目的地を目指したら、何と1時間半で到着!?といったケースもある。編集スタッフも、過去には何度もそんな経験をしたことがあった。道路事情、交通状況が良くなった現代だからこそ、原付二種モデルは再確認できることが本当に多い。

ここでは1970年にヤマハから発売されたHS90の不動旧車を走らせたいと考え、エンジン始動に取り組んだ様子をリポートしよう。前年1969年に登場したHS‐1の後期型にあたるシリーズモデルがHS90。1965年に登場したAT90系リトルツインエンジンを改良した5ポートシリンダーを搭載。小気味良いとうい言葉がとても似合う痛快な走りで、当時は数多くのヤングエイジに愛されたモデルとしても知られている。

この現車エンジン、実は「キックが降りない」コンディションだった。しかし、外装パーツを含めたトータルコンディション的には、決して劣悪ではない。屋内に何年も保管されてきたからようだ。エンジンさえ何とか復調できれば、再びヤマハリトルツインエンジン特有のサウンドと走りを楽しめるはず…… と考えたのだ。

トラブルの原因はいったい何なのか? まずは「キックが降りない原因究明」から始めることにするが(詳細リポートは事項へつづく)、まずは点火系に関して知っておかなくてはいけないことがある。それは点火システムが「何」なのかだ。一般的に原付カテゴリーの小排気量モデルの場合は、フラマグ点火システム=フライホイールマグネトー点火システムを採用している例が多い。キックを踏み込み、クランク回転と同時にフライホイールが回転することで電気が発生。それを電源にスパークプラグに着火させるシステムがフラマグ点火方式だ。スパークプラグを外してプラグキャップに差し込み、エンジンにアースさせながらキックを踏み込むことで、プラグ電極に火花が飛ぶ様子はみたことがあると思うが、火花が出るからと言って「点火系は大丈夫」だと言い切れないこともある。

バッテリー点火システムの場合は、読んで字の如く「バッテリー」を電源にしている。そのため、バッテリーが無いとエンジン始動へは至らないのだ。このHS90がまさにそれで、バッテリー点火を採用している。しかし、バッテリーが無い=搭載していない状態でも、キックを踏み込むと、発電された電気が点火系に回り、微弱ながらスパークプラグに火花を飛ばすことができる。これが「勘違い」のもとで、コンディションが良い車両でも、バッテリーが無い、もしくはバッテリーが弱まっていることでエンジンコンディションが著しく低下してしまうのだ。

しばらく不動だったバイクのエンジン始動作業に入る際には、まずは点火系が何なのかを確認してから作業に取り掛かろう。それはこのHS90に限ったことではない。

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