
たまにはエンジンをかけておこうと暖機だけして止めるとマフラー内に水蒸気が残ってサビの原因になるように、中途半端な作業がかえってトラブルの原因になることがあります。キャブレター内部の汚れを除去するクリーナーケミカルも同様で、洗浄成分が残留することで思わぬ副作用が生じる場合もあるので注意が必要です。
固着したスロットルバルブは熱を加えながら丁寧に取り扱う

スターターモーターは勢いよく回るが始動する気配がなく、スロットルも固着して動かないというピストンバルブ式キャブレターをチェックする。ねじ込み式のトップカバーを緩めてもピストンは外れない。

ピストンバルブ式キャブはスロットルケーブルがスロットルバルブに直接取り付けられているため、固着しているピストンを無理やり動かそうとしがちだが、ピストンとボディの隙間のガソリンがワニス化していると接着剤のように固着するので無理は禁物。一方負圧式キャブはバタフライバルブが固着する例は少なく、スロットルが固着して動かない時はスロットルケーブル内部のサビが原因となることが多いようだ。

ヒートガンで熱を加えることでワニスが軟化してスロットルバルブが動く場合もある。キャブ全体をまんべんなく加熱するには水溶性のパーツクリーナーを混ぜたお湯で煮込むのも有効。負圧式キャブのピストン固着の場合、ヒートガンで加熱するとピストンダイヤフラムがダメージを受けることがあるので要注意。

車両からキャブレターを取り外してヒートガンで均等に加熱して、それでもスロットルケーブルを引いてピストンはビクともしないので、ベンチュリーからドライバーを挿入して僅かに手助けしてようやくヌルッと動き、取り外すことができた。固着の原因はガソリンではなく、変質したキャブレタークリーナーだった。
キャブレター内部のガソリンをしばらく放置すると、フロートチャンバー内から揮発する際にワニスを生じたり腐食が発生することがあります。燃料コックが重力式でONのポジションのまま放置すると、フロート内のガソリンが減少するたびに燃料タンクから新しいガソリンが流れ込むため、フロートチャンバーないが乾燥することなく汚れ続けて悲惨な場内になることも珍しくありません。
ジェットやフロートバルブがまともに機能しなくなったキャブレターは、フロートチャンバー内のガソリンを入れ替えるだけでは回復しないためオーバーホールが必要で、このときに気をつけたいのは「すべての作業で無理をしない」ことです。
原付から中型クラスの単気筒車でポピュラーなピストンバルブ式キャブは、スロットルバルブをケーブルで直接開閉します。そのためスロットルが固着すると無理にひねってバルブを動かそうとしがちですが、ピストンバルブとキャブレターボディの僅かな隙間に付着したガソリンがワニス状に変質すると接着剤のようになって簡単には剥がれません。
これをスロットルを回して無理やり剥がそうとすれば、スロットルケーブル端部のタイコを破損したりスロットルバルブ自体にダメージを与えることもあります。またエンジンからキャブレターを取り外してベンチュリー内にドライバーを挿入してピストンバルブを押し上げる動作も、ピストンやキャブ本体を傷つける原因になるので厳禁です。メンテナンスするつもりで大切な愛車を壊してしまっては元も子もありません。
ちなみに負圧式キャブレターの場合、スロットルケーブルがつながるバタフライバルブはピストンバルブほどガソリンに直接触れていないので固着することは少ないようです。その代わりとしてバキュームピストンが固着するため、スロットルは開閉してもベンチュリーが開かずエンジンが始動しても回転が上昇しないといった症状が発生します。
このような場合に有効なのが加温です。固着したピストンバルブに潤滑スプレーを吹き付けながらヒートガンで熱を加えることで、固まったワニスを軟化させながら潤滑剤と入れ替えることで固着の解消が期待できます。また、水溶性のパーツクリーナーを溶かしたお湯の中にキャブレターを浸け込むことで、加温と洗浄を同時に行うことも有効です。
ただし負圧式キャブにヒートガンを用いる際、温度によってピストン上部のダイヤフラムゴムを傷めるリスクがあるので注意が必要しなくてはなりません。同様に始動用のスタータープランジャーの先端にゴムを用いているキャブレターも過熱によって変質や脱落の原因となる可能性があります。お湯を用意するよりヒートガンの方が手軽に加温できるのは確かですが、くれぐれも過熱には注意しましょう。
- ポイント1・長期放置などでキャブレター内部のガソリンが変質するとワニスや腐食でジェットが詰まったりスロットルバルブが固着する原因になる
- ポイント2・スロットルバルブや負圧ピストンが固着した時は力任せに抜こうとせずヒートガンで炙ったりお湯に漬け込むなど熱を加えて取り外す
スプレータイプのクリーナーを使用する際はキャブを全バラ、もしくは洗浄後に走行する

ピストンバルブが抜けたニードルジェット周辺にはホットボンドのような白い固形物が付着しており、これが張り付きの原因となっていた。異物の色や状況から判断してガソリンではなく、汚れを取り除こうとスプレーしたキャブクリーナーがそのまま残ってしまったようだ。

良かれと思ってクリーナーケミカルを使っても、後処理が悪いとかえって面倒な結果につながることもある。スロージェットにまとわりついたケミカルかヒートガンによる加熱で若干ウェット気味になっているが、こんな状態ではガソリンは通らない。

ジェットニードルホルダーもこのありさま。ジェット類の汚れを再度取り除くと同時に、キャブレターボディのスローエアー、メインエアー通路に詰まりがないかも確認しておくことが必要。
スロットルバルブが固着しておらず、なおかつ一応エンジンが始動する状態でキャブレター内部の汚れを取りたい時に便利なのがスプレータイプのキャブレタークリーナーです。ジェットに付着したカーボンやワニス、軽い腐食であればスプレーと同時に除去できるのが魅力で、エンジンを掛けた状態でエアークリーナーボックスとキャブつなぐインテークパイプから噴射できる製品もあります。
ただし中には塗布後にクリーナー自体の洗浄が必要な製品もあります。スプレータイプのケミカルはガソリンで洗い流せますが、キャブ内部やジェット類のカーボンやワニスが落ちた時点で安心して放置すると、キャブ内部に残ったケミカルが悪さをしてしまうことがあり、かえって問題が大きくなる場合もあります。
ここで紹介するキャブはそうした一例で、ピストンバルブの固着もさることながらスロージェットやニードルジェットに変質したガソリンとは別の異物が付着して始動できない状態でした。オーナーはキャブレターを取り外してフロートチャンバー内を洗浄し、ジェットやエアー通路にもキャブクリーナーをスプレーしたまでは良かったものの、組み立て後にエンジン始動確認をすることなく保管してしまったと言います。
そのため付着したケミカルは洗い流されることなく留まり続けて、時間の経過と共にジェットを詰まらせる異物に変質してしまったようです。キャブクリーナーのすべてがこのようになるとは限りませんが、洗浄能力のあるケミカルを使用した後は何らかのすすぎ工程が必要だと認識しておくのが妥当だと思います。衣類を洗濯する際に、洗剤で洗った後にすすぎをしなければずっと洗剤が残り続けることを想像すれば、パーツクリーナーやガソリンでキャブクリーナーの洗浄成分を流すのも当然といえるでしょう。
ジェットやニードルを分解せずキャブクリーナーを使用して、パーツクリーナーで洗うのが面倒な場合、すすぎ方法として手っ取り早いのは実際に走行することです。フロートチャンバーに溜まったガソリンがスロージェットやメインジェットから吸い上げられることでキャブレター内部に付着したクリーナーが洗い流されれば、残留成分が悪さをすることはありません。
ガレージ内でアイドリングするだけでは、パイロットアウトレットやスローポートしかガソリンが流れないので、実際に走行してスロットルを大きく開きメインジェットからもガソリンを供給することが重要です。ビッグバイクの場合、スロットル開度が大きくなると速度が出すぎて危険なので、やはり分解してパーツクリーナーやガソリンですすぎ洗いするほうが無難です。
キャブ内部に汚れを溜めない程度の頻度で乗るのがベストですが、運悪くカーボンやワニスでコンディションが崩れて洗浄を行う際は、クリーナー成分が残らないようすすぎを行うことが重要であることを覚えておきましょう。
- ポイント1・汚れたキャブレター部品を洗浄するためのクリーナーが変質して新たな詰まりの原因になることがある
- ポイント2・キャブクリーナーを使用した後はパーツクリーナーやガソリンでジェットや通路に残ったクリーナーをすすぎ洗いする
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