
旧車のエンジンコンディションをおおまかに確認する上で、ひとつの指標となるのが「キックが降りるか?降りないか?」というのがある。キックアームがスムーズに降りてクランクが回転するのは嬉しいものだ。しかし、だからといって「即エンジン始動」に取り掛かるのは良くない。不動車期間が長かったエンジンは、2ストロークエンジンでも、4ストロークエンジンでも、エンジン内部の各部が「油膜切れ」になっていることが実は多いので、いきなりエンジン始動してしまったことで、エンジン内部の各摺動部にダメージを与えてしまうこともあることを知っておこう。ここでは「各摺動部の潤滑」に注目し、エンジン始動に取り掛かろう。
スパークプラグ穴からブシューッ!!
放置期間が長かった車両や吸排気系パーツが取り外されたままの車両。スパークプラグが外されたままの車両などは、エンジン内部に異物が混入しているケースがあるため、始動前には入念なチェックが必要だ。スパークプラグの焼け具合からもある程度は中身を想像することができる。二次空気を吸い気味など、異常燃焼しているプラグは灰色系になり、電極周辺にブツブツの付着物があることも。真っ黒くカブリ気味なのは、圧縮圧力低下の疑いがある。スパークプラグを取り外したらノズルをつけてスプレーオイルをシリンダー筒内にたっぷり吹き付けよう。油分が枯れているとクランキングだけでピストンスカートやシリンダーにキズが入ってしまう可能性もあるのだ。
排気ポートから見えるピストン
エキパイもしくは一体マフラーを取り外して排気側ピストンのコンディションを確認してみよう。また、エキパイを外したついでに内部を覗いてみるもの良い。エキパイフランジを外すときは、関連ネジ山にダメージを与えないように要注意。エキパイを取り外したら排気ポート内を懐中電灯で照らして厳密に目視確認してみよう。ピストンスカートに深い縦キズがある際は、過去のダキツキ歴を疑うことができる。ピストントップエッジが溶けているときは異常燃焼経歴の証拠でもある。プラグ穴だけではなく、排気ポートからピストンスカートやシリンダー筒内壁に向けてオイルスプレーを吹き付けよう。ここでは使い勝手が良いスーパーゾイルスプレーを使用。特に、2ストエンジンメンテナンス時には、最適ケミカルでもある。
点火系部品のコンディションも確認しよう
各部からオイルスプレーを吹き付けて潤滑段取り完了。何事も無くスムーズに回るエンジンでも、久々に動かす場合は、グリスアップならぬ「オイルアップ」が必須である。スパークプラグをアースさせて、キックを踏み込み火花チェックを実施。RG250Eはスズキ名称でPEI点火(一般的CDI点火と同じシステム)を採用している。火花が飛ばないときには要注意。ポイント車ならポイント接点の汚れ落しと脱脂を実施して、再確認してみよう。アウター式マグネットローターの外周に埋め込まれた磁石が、パルスジェネレーターの磁界に変動を与えた瞬間に火花が飛ぶ仕組みだ。コイルの配線に劣化が無いか、注意深く確認しておこう。
ドライブシャフトシールのコンディション
不動車を再生するときには、点検段階でドライブチェーンのコンディションやドライブスプロケットの減り具合を確認しておこう。この際には、ドライブスプロケットを取り外すと良い。ドライブスプロケットを取り外せば、スプロケ&チェーンのコンディション確認以外に、ドライブシャフトシールの点検も同時に行なうことができる。ギヤオイルの滲みがオイルシールリップにあるときは、迷わずにオイルシールを交換しよう、今回はオイル滲みも無かった。
高性能オイルスプレーを使おう
スーパーゾイルシリーズには、スーパーゾイルを添加したオイルを詰め込んだスプレーとチェーンルーブの2タイプがある。チェーンルーブは、シールチェーンでもノンシールチェーンでも利用することができる。ドライブチェーン以外にグリスを塗布したい箇所、例えば、サイドスタンドやメインスタンドのピボットへは、遠隔的に吹き付けられるスプレーグリスとしての役割を望むことができる。
- ポイント1・2ストロークエンジンの場合は特に容易に点検可能なのでエンジン始動前に排気ポート内部を覗き込んでみよう
- ポイント2・高性能オイルスプレーを利用することで患部に向けて直接スプレーすることができる
- ポイント3・ ドライブスプロケット周辺の汚れを洗浄する際には、ドライブスプロケットを外してドライブシャフトシールのコンディションを確認しよう
久々にエンジン始動する不動車の場合は「キックが降りるか?」確認したいことがあるが、そんなときに最低限実施しなくてはいけないのが「スパークプラグの取り外し」である。プラグを取り外せば、圧縮圧力が無くなり、クランキングの様子がよりリニアに伝わり感じることができる。ときには一次圧縮室内にガソリンや分離給油のエンジンオイルが落下し、溜まっていることがある。そんなときにキックを繰り返し踏み込み続けると、プラグ穴から勢い良く間欠泉のようにエンジンオイルが混ざったガソリンが噴出する。
実は、この一次圧縮室での「液溜まり」は極めて要注意項目である。プラグを外してキックすれば、仮にガソリンやオイルが落下していても、間欠泉の如くブシュッ!!とプラグ穴から噴出する。ところが、スパークプラグを取り付けたままでキックを踏み込み続けると、オイルやガソリンが燃焼室に回って圧縮され、「圧力」が逃げ場を失い、大トラブルが発生させてしまうことがあるのだ。仮に軽症なら、ヘッドガスケットの吹き抜けが発生する。重症になると、ピストンは破壊。より致命的なダメージでは「コンロッド曲がり」が発生してしまう。そんな実例が多いからこそ、特に、2ストロークエンジンの場合は、不用意なキックの踏み込みは避けたいものなのだ。
ここではスパークプラグを外してからの点検手順をリポートしよう。まずはプラグ穴からスプレーオイルを吹き付ける。この際は、ピストンを下死点にして筒内全周に向けてグルっと吹き付けるようにしよう。次に、エキパイを外して排気ポートからピストンの様子を目視確認してみよう。ピストンスカートに深い縦キズが無いか!?ピストントップが溶けていないか?外部からピストンを点検できるという意味で、この「覗き見」は実に有効な点検方法である。
さらに排気ポートを介してピストンスカートやシリンダー内壁へスプレーを吹き付けよう。このような段取りを進めることで、ダメージを与えることなくクランキングできるのだ。仮に、キャブ本体を取り外して、ピストンを上死点にすれば、吸入ポートから一次圧縮室内=クランクベアリングやコンロッドへもフレッシュなオイルを吹き付けることができる。このような段取りを行うことで、エンジン内部摺動部の保護や初期馴染みを良くすることができる。機会がある時には、是非、実践してほしい。
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