
250cccの軽二輪車クラスを含めて自動二輪車のブレーキシステムと言えば、90年代以降、その性能は格段に進化安定し、ノーマル部品でも不安の余地など一切無い。
しかし、ブレーキ革命黎明期である70年代から80年代のブレーキシステムと言えば、もはや旧車然たるもので、性能維持のためには定期点検整備が必要不可欠だ。
台所用中性洗剤で単純なパーツ洗浄を行うだけでも、その性能維持には大きな効果がある。
ここでは、ブレーキキャリパーのメンテ時に、注意すべきポイントを解説しよう。
目次
長年放置車両=「サビ」ピストンが当たり前
10年以上に渡って軒下(室内ではないが雨が当たらない環境)で放置していた車両から取り外したブレーキキャリパーピストン。
ご覧の通りサビサビで、このままでは再利用できない。
分解したときには左の状況だったピストンを「再生ハードクロームメッキ」によって仕上げた右側。
再生を請け負う専門業者による仕上げは素晴らしい。
旧車で部品を入手できないときには、このような再生で仕上げるしかない、仮に、メーカー純正部品や信頼できる復刻部品を入手できるモデルなら、複製部品を購入した方がコスト的に安価だ。
カワサキZ1/Z2やホンダCB750Kシリーズのような人気モデルの旧車なら、パーツコンストラクターから複製部品=リプロダクションパーツが販売されている例が多い。
しかし、そうではないモデルの場合は、重要保安部品であるブレーキピストンですら、入手困難で立ち往生してしまうことがある。
メーカー純正でも複製でも、部品入手できるのならタイムリーなメンテナンスを容易に行えるが、適合モデルが無いブレーキピストンの場合は、分解摘出した不良ピストンを再生利用することになる。
ブレーキピストンに限らず、フロントフォークのインナーチューブやリアサスのダンパーロッドの再生も現在では盛んに行われている。
ただし、再生ハードクロームメッキの依頼から完成納品には日数が必要なため、不動バイクの整備時には、まずはこのような「入手困難な部品」から手を付けたいものだ。
・防錆アルマイト処理されたアルミ製ピストンなら、磨き仕上げで再利用できる可能性も
・ハードクロームメッキ処理の鉄ピストンの多くは、ピンホールサビが発生していることが多い
・たった一個のピンホールが、オイル漏れの原因になる
ピストンシール溝を「ほじほじ」する専用ツール!!
ブレーキピストンに不具合が無くても、ブレーキタッチの要であるピストンシールのコンディションが悪いと、最高性能を発揮できなくなってしまうのがディスクブレーキだ。
キャリパーシリンダー内壁の「汚れ落とし」もキーポイント
ハンドドリルで利用可能な「小型ホーニング砥石」があると、キャリパーシリンダー内壁のクリーンナップも手早く快適。
手磨きよりも無理なく高効率に作業を進められる。
ブレーキピストンがあまりにサビ過ぎていて、抜けないこともある。
そんなときにはベテランメカニックに相談するか、バイク屋さんに整備をお願いしよう。
無理にピストンを抜き取ろうとしたことで、取り返しのつかないダメージを周辺部品に与えてしまうことがあるからだ。
このあたりは必ず心得ておこう。
仮に、新品ピストンを組み込んでも、キャリパー側シール溝のコンディションが悪いと、ピストンの作動性が著しく悪くなってしまう。
DOT3やDOT4のグリコール系ブレーキフルードには「強い吸湿性」があるため、ブレーキピストンシールやダストシール溝から湿気を吸い、その湿気とフルードが反応して不純堆積物となってしまう。
ブレーキメンテナンス時にキャリパーを分解することは多いが、ベテランメカニックの多くは、この溝のコンディションを必ずチェックしている。
キャリパー本体のシリンダーに関しても、堆積物によってキズ付けられてしまっていることもある。
そんなキズのエッジに出るバリは磨き落としたいが、耐水ペーパーで手磨きすると、厳密には真円度が狂ってしまう。
そんなときには市販特殊工具の専用ハンドホーナーで軽く磨くのがもっとも良い。
防錆浸透スプレーをタップリ吹き付け、ホーニングツールをハンドドリルに取り付けて、砥石をシリンダーに挿入して、グルグル回して軽く磨けばよいのだ。
・溝クリーニングツールが手元に無い場合は、ピックアップツールの先端を使ってほじほじするのも良い
・シール溝内にキズを付けてしまわないように、注意深く作業を進めよう
キャリパーにピストン単品を挿入。作動性を確認!!
キャリパー単体にピストンを挿入して、そのピストンがスムーズに作動するか? 確認してみよう。
前後方向、回転方向ともにスムーズかつクルクル回るか? それが重要だ。
シール溝のクリーンナップを終え、さらにハンドホーナーでシリンダー内壁を磨いたら、キャリパー本体を脱脂洗浄しよう。
次に、同じく脱脂済みのピストンをシリンダーへ挿入し、スムーズに作動するか?
実は、この作業が重要なのだ。ブレーキタッチの善し悪しを事前に確認連想する意味でも、この作業が実に有効だ。
洗浄したキャリパー本体にピストンシールをいきなり組み込み、ピストンをグイッと挿入するのではなく、まずは「パーツ単品同士、部品同士での作動性」を確認するように心掛けよう。
・ピストンシールが介在するとピストンの作動性がわからなくなるため、単品部品同士で事前確認しよう
・本組では、ピストンシールやピストン外周にラバーグリスを薄く塗布し、潤滑性を高めよう
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