空冷+キャブレターが標準だった1990年代のハーレダビッドソン。現在も根強い人気のエボリューションスポーツスターの好調さを維持するためにはキャブレターのメンテナンスが有効ですが、輸入車だけにハードルの高さを感じてしまいがち。しかし中には国産車ユーザーにも馴染みが深いケーヒン製CVキャブを装着した機種も存在するのです。
日本車でもハーレーでもキャブレターはスロー系が重要
ECUコントローラーを接続すれば、パソコンからセッティングやチューニングができるフューエルインジェクションに対して、新旧、洋の東西を問わずフロートチャンバーを取り外してジェットを交換して行うのがキャブレターのセッティングです。長い歴史を持つハーレーダビッドソンの中でも、1990年代のエボリューション時代に装着されていたのがケーヒン製CVキャブレターでした。
外国車というとそれだけで個性的なメカニズムを想像しがちですが、実はブレーキやサスペンションやキャブレターに関してはコストパフォーマンスの高い日本製パーツを採用している例は少なくありません。
国産車に比べてハーレーダビッドソンはモデルライフが長く、エボリューションのスポーツスターと聞いてさほど古さを感じないライダーもいるでしょうが、2007年にインジェクション化を果たしているためキャブレター仕様は2006年以前のモデルということになります。今回紹介するスポーツスター883は1997年製なので、実は25年もの歳月を経ていることになります。
こうなると、走行距離の多少に関わらずコンディションを維持するためのメンテナンスやオーバーホールを行っておきたいものですが、キャブ本体がケーヒン製であることと、ハーレーならではの充実したアフターマーケットパーツでオーバーホール用キットが容易に入手できることもあり、作業自体は国産車と同じような感覚で実践できる利点があります。
清掃やオーバーホールを行う手順はハーレーでも国産車でも変わりはありませんが、アメリカで製造された車両の常としてパイロットスクリューが封印されています。これは北米向け輸出仕様の日本車でも同様ですが、パイロットスクリューの戻し回転数はアイドリング時のCO/HCに影響するため、ユーザーが勝手に調整できないようにするための仕様です。
確かに新車時にはベストな戻し回転数に調整できますが、走行距離が増えて年式も経ることで状況は変化します。パイロットスクリューはスロットルバルブよりインテークマニホールド側にあり、先端のニードル部分に燃焼時の吹き返しのカーボンが付着することもあります。このカーボンが増えると針先が太くなり、パイロットアウトレットから吸い出される混合気の量に影響を与える可能性があります。
具体的にはパイロットアウトレットが狭くなって混合気量が減少し、空燃比が薄い方向に変化し、スロットルを戻した際にマフラーから「パンパン」とアフターファイヤーが発生することがあります。この症状を改善するにはパイロットスクリュー先端のカーボンを取り除くことが必要なので、封印を外してスクリューを取り外して洗浄します。
パイロットスクリューの戻し回転数をむやみに変更すると排気ガスの濃度に影響を与えるのは事実ですが、調整できないことでパイロット系の調子を崩してしまっては本末転倒です。ジェット類と合わせてキャブレターから取り外して、キャブレタークリーナーでカーボン汚れを洗浄するのが有効です。
- ポイント1・1990年代のハーレーダビッドソンの中には、ケーヒン製CVキャブを標準装備する機種が存在した
- ポイント2・アメリカ製または北米仕様車のキャブレターにはパイロットスクリューが封印されているものもあるのでメンテナンスや清掃の際には封印を外してパイロットスクリューを取り出す
加速ポンプダイヤフラムの経年劣化が急開時の息ツキの原因になることも
パイロットスクリューと共に、加速ポンプのチェックも重要です。排気量の大きなエンジンに対して1個のキャブから混合気を供給するハーレーには、スロットル開度に応じて機械的にガソリンを増量する加速ポンプが備わっています。
これはスロットルドラムと連動して作動するプッシュロッドでゴム製のダイヤフラムを押し下げ、フロートチャンバーに併設されたポンプ用チャンバーからベンチュリー内にガソリンを吐出します。
ここで重要なのがポンプ用チャンバーの容積を変化させるダイヤフラムのコンディションです。ゴム製の薄膜に柔軟性があるうちは問題はありませんが、常にガソリンと接触しながら長い年月を経ることで劣化して、硬化したり破れる場合もあります。するとスロットルを開けてもガソリンの吐出量が減少したり、場合によっては噴射しなくなることで加速性能悪化の原因になります。
ダイヤフラムというとバキュームピストンのダイヤフラムが思い浮かびますが、加速ポンプのダイヤフラムも要確認ポイントであることを知っておくことが重要です。もちろん、年数を経たバキュームピストンダイヤフラムの硬化や亀裂の確認も不可欠です。
パソコンで調整できるインジェクションに比べて、キャブレターにはさまざまなチェックポイントがあって面倒に思えるかも知れません。
しかしすべてがコンピュータ頼みで、燃料ポンプやフューエルインジェクターに不具合が生じた場合は交換するしかないインジェクションに比べて、ユーザーレベルで洗浄やパーツ交換によってコンディションが維持でき不調が回復できるキャブレターは、長く楽しむことができる点はひとつの魅力と言えるでしょう。
- ポイント1・負圧ピストンや加速ポンプのゴム製ダイヤフラムの経年劣化がキャブレターのコンディションを悪化させる
- ポイント2・スロットル急開時の加速が悪い時は加速ポンプの動作を確認する
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