空冷+キャブレターが標準だった1990年代のハーレダビッドソン。現在も根強い人気のエボリューションスポーツスターの好調さを維持するためにはキャブレターのメンテナンスが有効ですが、輸入車だけにハードルの高さを感じてしまいがち。しかし中には国産車ユーザーにも馴染みが深いケーヒン製CVキャブを装着した機種も存在するのです。

日本車でもハーレーでもキャブレターはスロー系が重要

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

フロートレベルの調整はメンテナンス、セッティングを問わず最も基本になる部分。フロートが低く油面が下がれば混合比は全体的に薄くなり、油面が上がると全体的に濃くなるので、サービスマニュアルが示す標準値に合わせる。1997年製スポーツスターの場合、フローピン側を上にしてキャブ全体を15~20°傾けて、フロートチャンバーの合わせ面からフロート下部までの高さが10.49~11.51mmの間にあれば正常。測定時の角度が指定されているのは、傾け角によってフロートバルブのプランジャーの押し込み量が変化するため。

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

フロートレベルが標準値から外れる時はマイナスドライバーでフロートの調整板を少しずつ曲げて測定確認する。調整板を斜めに曲げるとフロートが浮沈する時にプランジャーが斜めに当たって油面が安定しない原因になるので、板が傾かないように曲げることが重要。画像の状態では、調整板を手前に曲げると油面が上がり、奥に曲げると油面が下がる。

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

パイロットジェットで計量したガソリンとパイロットエアジェットの空気が混ざり合い、パイロットアウトレットからベンチュリー内に吸い出される手前で量を増減させるのがパイロットスクリューの役割。スロットルバルブが閉じている(実際にはアイドリングに必要な空気は通る状態)時の混合気を決めるため、先端の針部分に吹き返しのカーボンが付着して通路面積が狭くなれば空燃比は薄くなる。

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

パイロットスクリューだけでなくスタータープランジャー(ハーレーではエンリッチナーバルブ)やスロージェットの先端までカーボンで汚れている。キャブレターは混合気をエンジンに送るための部品だが、エンジン側からの吹き返しが各部に及んでいることが分かる。

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

チャック付きのビニール袋に入れたジェット類にキャブレタークリーナーをスプレーする。このエンジン調整剤はムースタイプのスプレーで、チャックを閉じて手の平で挟んで緩やかに加温することでクリーナー成分の反応が活発化する。

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

ワニスや腐食で穴が詰まっていたわけではないので、クリーナーだけで容易に汚れは落ちて真鍮系ならではの光沢が蘇った。ジェットやブリード穴(横穴)が詰まっている時もできるだけケミカルで溶解させ、どうしても開通しない場合も穴径に対して充分に細いジェット用ツールなどで優しく突くようにする。

ECUコントローラーを接続すれば、パソコンからセッティングやチューニングができるフューエルインジェクションに対して、新旧、洋の東西を問わずフロートチャンバーを取り外してジェットを交換して行うのがキャブレターのセッティングです。長い歴史を持つハーレーダビッドソンの中でも、1990年代のエボリューション時代に装着されていたのがケーヒン製CVキャブレターでした。

外国車というとそれだけで個性的なメカニズムを想像しがちですが、実はブレーキやサスペンションやキャブレターに関してはコストパフォーマンスの高い日本製パーツを採用している例は少なくありません。

国産車に比べてハーレーダビッドソンはモデルライフが長く、エボリューションのスポーツスターと聞いてさほど古さを感じないライダーもいるでしょうが、2007年にインジェクション化を果たしているためキャブレター仕様は2006年以前のモデルということになります。今回紹介するスポーツスター883は1997年製なので、実は25年もの歳月を経ていることになります。

こうなると、走行距離の多少に関わらずコンディションを維持するためのメンテナンスやオーバーホールを行っておきたいものですが、キャブ本体がケーヒン製であることと、ハーレーならではの充実したアフターマーケットパーツでオーバーホール用キットが容易に入手できることもあり、作業自体は国産車と同じような感覚で実践できる利点があります。

清掃やオーバーホールを行う手順はハーレーでも国産車でも変わりはありませんが、アメリカで製造された車両の常としてパイロットスクリューが封印されています。これは北米向け輸出仕様の日本車でも同様ですが、パイロットスクリューの戻し回転数はアイドリング時のCO/HCに影響するため、ユーザーが勝手に調整できないようにするための仕様です。

確かに新車時にはベストな戻し回転数に調整できますが、走行距離が増えて年式も経ることで状況は変化します。パイロットスクリューはスロットルバルブよりインテークマニホールド側にあり、先端のニードル部分に燃焼時の吹き返しのカーボンが付着することもあります。このカーボンが増えると針先が太くなり、パイロットアウトレットから吸い出される混合気の量に影響を与える可能性があります。

具体的にはパイロットアウトレットが狭くなって混合気量が減少し、空燃比が薄い方向に変化し、スロットルを戻した際にマフラーから「パンパン」とアフターファイヤーが発生することがあります。この症状を改善するにはパイロットスクリュー先端のカーボンを取り除くことが必要なので、封印を外してスクリューを取り外して洗浄します。

パイロットスクリューの戻し回転数をむやみに変更すると排気ガスの濃度に影響を与えるのは事実ですが、調整できないことでパイロット系の調子を崩してしまっては本末転倒です。ジェット類と合わせてキャブレターから取り外して、キャブレタークリーナーでカーボン汚れを洗浄するのが有効です。

POINT

  • ポイント1・1990年代のハーレーダビッドソンの中には、ケーヒン製CVキャブを標準装備する機種が存在した
  • ポイント2・アメリカ製または北米仕様車のキャブレターにはパイロットスクリューが封印されているものもあるのでメンテナンスや清掃の際には封印を外してパイロットスクリューを取り出す

加速ポンプダイヤフラムの経年劣化が急開時の息ツキの原因になることも

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

スロットルドラムを回す(スロットルバルブを開く)とエアクリーナーケースにつながる入り口側のポンプノズルからガソリンが吐出する。スロージェットやメインジェットで計量された分に加えてポンプから噴射されることで力強い加速を実現する。

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

加速ポンプのガソリンはフロートチャンバーから供給される。スロットルドラムと連動したプッシュロッドがダイヤフラムを押すと、ダイヤフラム下部のガソリンがポンプノズルに押し出され、スロットルが閉じるとスプリングによってダイヤフラムが押し戻され、その際の容積変化でガソリンが供給される。経年劣化でダイヤフラムが破れるとガソリンを押し出せなくなり加速ポンプが機能しなくなる。

ハーレーといえども恐るるに足らず。1990年代スポーツスター用ケーヒン製CVキャブの基本メンテ

負圧ピストンにも吹き返しによるカーボンがまんべんなく付着している。大排気量ツインは吸入負圧も大きいので、ピストン両サイドのガイド部分に摩耗傷が付いている。この傷が増えるとピストンが前後に動き、アイドリング時の気密性が低下して回転が不安定になることもある。上部のゴム製ダイヤフラムの硬化や亀裂も要チェック。

パイロットスクリューと共に、加速ポンプのチェックも重要です。排気量の大きなエンジンに対して1個のキャブから混合気を供給するハーレーには、スロットル開度に応じて機械的にガソリンを増量する加速ポンプが備わっています。

これはスロットルドラムと連動して作動するプッシュロッドでゴム製のダイヤフラムを押し下げ、フロートチャンバーに併設されたポンプ用チャンバーからベンチュリー内にガソリンを吐出します。

ここで重要なのがポンプ用チャンバーの容積を変化させるダイヤフラムのコンディションです。ゴム製の薄膜に柔軟性があるうちは問題はありませんが、常にガソリンと接触しながら長い年月を経ることで劣化して、硬化したり破れる場合もあります。するとスロットルを開けてもガソリンの吐出量が減少したり、場合によっては噴射しなくなることで加速性能悪化の原因になります。

ダイヤフラムというとバキュームピストンのダイヤフラムが思い浮かびますが、加速ポンプのダイヤフラムも要確認ポイントであることを知っておくことが重要です。もちろん、年数を経たバキュームピストンダイヤフラムの硬化や亀裂の確認も不可欠です。

パソコンで調整できるインジェクションに比べて、キャブレターにはさまざまなチェックポイントがあって面倒に思えるかも知れません。

しかしすべてがコンピュータ頼みで、燃料ポンプやフューエルインジェクターに不具合が生じた場合は交換するしかないインジェクションに比べて、ユーザーレベルで洗浄やパーツ交換によってコンディションが維持でき不調が回復できるキャブレターは、長く楽しむことができる点はひとつの魅力と言えるでしょう。

POINT

  • ポイント1・負圧ピストンや加速ポンプのゴム製ダイヤフラムの経年劣化がキャブレターのコンディションを悪化させる
  • ポイント2・スロットル急開時の加速が悪い時は加速ポンプの動作を確認する

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