
ドライブチェーンメンテナンスの基本が小まめな洗浄と注油があることは、多くのライダーが知っているはず。しかしチェーンルブを注油する際に、カバーに覆われたドライブスプロケットまで留意している人がどれほどいるでしょうか?チェーンやスプロケットは適切な潤滑油があれば大丈夫と思われがちですが、飛び散ったオイルをそのままにしておくとトラブルの原因になることもあるので注意が必要です。
見えない場所に溜まった汚れが砂利を巻き込んでオイルシールのリップを傷つける

単なるカバーとしてだけでなく、エンジンデザインの一部となっていることも多いドライブスプロケットカバー。メンテナンスの際に、ドライブチェーンやドリブンスプロケットの汚れをチェーンクリーナーとウエスで拭き取るのは当たり前だが、ドライブスプロケットカバーの内側まで清掃するライダーは少ないはず。

画像のカワサキW650の場合、ドライブスプロケットカバーの内側にクラッチレリーズや非接触式スピードセンサーがセットされている。チェーンルブの汚れは回転するチェーンの外側に飛散する、走行距離が増えて長い時間を経過すればクラッチレリーズやスピードセンサーにも付着する。

汚れが軽度なうちはパーツクリーナーのガス圧で清掃できるが、こってり堆積した汚れはウエスやブラシで拭い取る方が効果的だ。特にこのW650のように、スプロケットの上にクラッチレリーズやスピードセンサーのブラケットが装着されている機種は、スプロケット以前にそれらの部品を外さないと徹底洗浄ができない。スプロケットナットの回り止めは幅広のタガネで起こすと良い。

外したついでに刃の減り具合も確認しておく。純正で騒音防止のゴムダンパーが付いているスプロケットもあるが、年式が古くなると走行距離が少なくても経年劣化によって割れて落下していることもある。
ノンシールでもシール付きでも、チェーンメーカーの公式ホームページにも記載がある通り定期的な清掃と給油でドライブチェーンの寿命が延びるのはご存じの通りです。シールチェーンはピンとブッシュの間にグリスが封入されているので注油は不要という意見もありますが、もしそれが本当ならチェーンメーカーが注油の必要性をアピールする必要はないはずです。
シールチェーンはチェーンの伸びの主要因であるピンとブッシュの接触部分にグリスが封入されていますが、スプロケットの歯と接するローラーや、ローラーとブッシュの接触部分には潤滑油はありません。したがってローラーとブッシュ、ローラーとスプロケット、さらにはOリングとプレートの接触部分の潤滑のため、チェーンルブの注油が必要です。
スプレータイプのチェーンルブを吹き付ける時は、チェーンクリーナーで事前に清掃することが重要です。チェーンルブが潤滑に役立つのはもちろんですが、粘度の高い油分によってゴミや砂利がまとわりつく原因にもなります。
汚れたチェーンルブの上から新しいルブをスプレーすると、塗布した直後はチェーンの動きが滑らかになりますが、汚れがコーティングされてしまいます。その汚れがスプロケットとローラーの接触面に付着すれば、ヤスリの様に作用して摩耗の原因にもなりかねません。それでは本末転倒なので、注油の前にクリーナーで汚れを清掃しておくことが重要なのです。
こうした一連のチェーンメンテナンスの中で、見過ごされがちなのがドライブスプロケットです。スポーツバイクだと露出していることが多いリヤタイヤ側のドリブンスプロケットに対して、ほとんどのバイクのドライブスプロケットはエンジンのクランクケースにボルト止めされたスプロケットカバーで覆い隠されています。
チェーンルブを定期的にスプレーすることで、その一部はチェーンやドリブンスプロケットを汚し、ホイールやリムに飛散します。それは潤滑に伴うやむを得ない汚れで、当然ドライブスプロケットにも付着しています。
スプロケットカバーはエンジンデザインの一部になっている上に、ドライブチェーンへの巻き込み防止の点からも重要ですが、一方で臭いものに蓋をする効果でドライブスプロケットの汚れから目をそらす格好の材料となっているのも事実です。
そのため、ドライブスプロケット交換時などにスプロケットカバーを外すと、コテコテに堆積したチェーンルブに驚くことも少なくありません。林道などを走行するトレールモデルでは、チェーンに巻き込まれた草が絡みついていることもあります。走行中にずっと何かが擦れる音がするのでスプロケットカバーを外してみると小枝が引っかかっていたという信じられないような事例が発生していたこともあります。
- ポイント1・ドライブチェーンに吹き付けるチェーンルブはドライブスプロケットカバー内で飛散して堆積する
- ポイント2・ドライブスプロケットカバー内のチェーンルブを清掃しないとホコリや砂利が研磨材のように作用してしまうこともある
たまにはドライブスプロケットカバーを外して粘土状に固まったチェーンルブを取り除いて清掃しよう

粘土のようにベットリとした油汚れを落とすには、パーツクリーナーより潤滑スプレーや灯油の方が効果がある。油分を浸透させるのがポイント。

潤滑スプレーや灯油が浸透した油汚れを歯ブラシや洗浄ブラシで掻き落とす。オイルシールのリップに汚れを押し込まないように注意し、パーツクリーナーで洗い流す際もオイルシール周辺にゴミや汚れが残らないよう慎重に作業する。

ドライブシャフトのカラーを容易に引き抜けるなら、オイルシールのリップとの接触部分の状態を確認しておく。接触部分に従って線状の溝がある場合、オイルシールの気密性が低下してオイル漏れの原因になることがある。またすでにエンジンオイルが漏れていてカラーに線状痕がある場合、オイルシール交換だけでは漏れや滲みが止まらない可能性もある。
スプロケットやクランクケースがベトベトに汚れていると気分が良くないのはもちろんですが、砂混じりのチェーンルブがドライブシャフトやチェンジシャフトのオイルシールを傷つけてエンジンオイル漏れを発生させることがあるので注意が必要です。
汚れたチェーンルブがホコリや砂利を取り込んでヤスリの様になることは先に述べた通りですが、ドライブシャフト(あるいはシャフトに通してあるカラー)やチェンジシャフトに研磨材のように汚れたチェーンルブがオイルシールに付着すると、ゴム製のオイルシールシールリップばかりでなく、シールが触れている金属製のカラーやシャフトを削ってしまうこともあります。
走行距離がかさんだバイクのカラーを取り外した際に、シールリップの接触部が線状に摩耗していることがありますが、その原因として接触部分に汚れた潤滑油やグリスが付着していることが考えられます。これはドライブスプロケット周辺だけでなく、リヤホイールのダストシールでも起こりますが、これもドライブチェーンに吹き付けたチェーンルブが飛散するスプロケットキャリア側で発生することが多いようです。
ドライブスプロケットやチェンジシャフトのオイルシール破損が厄介なのは、リップ折損がエンジンオイル(2スト車ならミッションオイル)漏れの原因となることです。チェーンルブの汚れに滲んだエンジンオイルが混ざることで、ドライブスプロケットカバー内側の汚れはよりいっそう酷くなり、粘土ともグリスとも言えないようなコテコテの堆積物に覆われてしまいます。
汚れが軽度なうちは清掃で済みますが、メンテナンスを怠ってオイル漏れが発生すれば修理が必要です。オイルシール交換だけで済めば不幸中の幸いですが、カラーやシャフトに深い傷が入ればシール交換以上の手間と修理コストが掛かってしまいます。
あるいはオイルシール交換であっても、外周に抜け止めリブが付いたシールを使っている機種の場合はクランクケースを分解しないとオイルシールが外れないこともあり、そうなると「たかがチェーンルブを拭き取らなかったばかりに……」と取り返しのつかない事態にもなりかねません。
そうしたトラブルを避けるには、一にも二にもドライブスプロケット周辺に汚れを溜めないことが肝心です。チェーンクリーナーで清掃するたびにドライブスプロケットカバーを外すのは手間が掛かって現実的ではありませんが、走行距離をチェーンルブ塗布の頻度によって汚れが堆積しないうちにクリーニングすることで、清掃時の手間を軽減できるとともにオイルシールの損傷予防にとっても有効です。
- ポイント1・ドライブシャフトやチェンジシャフトのオイルシールに砂利が取り込まれたチェーンルブが付着するとリップ損傷の原因になることがある
- ポイント2・ドライブスプロケットカバー内のチェーンルブ汚れも定期的に清掃することが重要
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