
非接触センサーで車速を検知して表示する電気式メーターに対して、大半の絶版車や現行車でも小排気量車を中心に採用されているのがケーブルの回転で作動する機械式メーターです。この機械式メーター、メンテナンス項目としてケーブル自体の清掃や潤滑が有効なことは知られていますが、ホイールに取り付けられたメーターギヤのコンディションもまた重要です。
ウォームギヤで回転方向と回転速度の変換を行うスピードメーターギヤ

フロントホイールにスピードメーターギヤボックスが装着されたバイクの場合、ほとんどの機種が前輪を外すことでギヤボックスも取り外せる。ホイール側のクラッチとメーターギヤ側のリテーナーの凸凹を引っ掛けることで回転を伝達しているので、組み付け時も両者の位置を確認してセットする。フロントフォークのボトムケースにメーターギヤボックスのストッパーがある場合は、ホイールを組み付ける際に位置を合わせておく。

画像のスピードメーターギヤボックスはアッセンブリー設定で内部パーツの単品交換はできないが、リテーナーリングを取り外せばウォームホイールを取り外すことができる。ギヤボックス内に詰まった古いグリスを除去するにはウォームホイールがない方が作業しやすいので、できる範囲で分解してみる。

プライヤーで引き抜いたウォームホイールとメーターギヤボックスの間に、ボックス側のウォームとのクリアランスを調整するシムがセットされている。分解洗浄時にこのシムを紛失しやすいので要注意。
機械式スピードメーターにとって、走行速度を文字盤に表示するために欠かせないのがメーターケーブルとメータギヤです。メーターギヤはタイヤやドライブスプロケットなど走行時に回転する部品に取り付けられ、回転数と回転方向を変換してケーブルに伝えるパーツです。
フロントホイールに取り付けられたメーターギヤを例にすると、ギヤハウジングの中には2つのギヤが入っています。このギヤはウォームギヤと呼ばれるねじ状の歯車で、回転方向を90°変換しながら回転速度を減速しています。
一方のギヤはホイールと一緒に回転し、これと直交するもうひとつのギヤにメーターケーブルがつながることで、タイヤの回転がケーブルの回転に変換され、そのケーブルがスピードメーターにつながることで速度が表示されるという仕組みです。
50ccのスクーターであればホイール径は10インチでメーター表示は60km/h、1000ccのスーパースポーツではホイール径は17インチで最高速表示は300km/hというように、ホイール径やスピードメーターの速度表示範囲はバイクによって異なります。
しかしスピードメーターケーブルの回転数は、JIS規格により「ケーブル回転数が1400回転時にスピードメーターの表示が60km/hとなること」と定められています。10インチと17インチではタイヤの周長が異なるため60km/h走行時のホイールの回転数は異なりますが、メーターケーブルの回転数は同じ1400回転となっているのです。
ホイール径に関わらず60km/h走行時のメーターケーブル回転数を同じにするためには、ホイール径ごとにメーターギヤ内の減速比を変更することが必要です。減速比を変更する際、例えば平歯車なら2つの歯車の歯数の比を変更しますが、減速比を大きくするには歯数の比率を大きく変えなくてはならず、必然的にギヤボックスのサイズが大きくなります。
これに対してネジ状の歯車で構成されるウォームギヤは、ネジのピッチを変更することで減速比を変更できるため、平歯車より小さなギヤボックス容積で減速比を大きく変更できる特長があります。これはスピードメーターギヤだけでなく、機械要素のあらゆる場面でウォームギヤを使用する利点となります。
その一方で、2組のねじ状の歯車が接触して滑りながら回転するウォームギヤはフリクションが大きくなりがちで、潤滑不良や異物の噛み込みにも注意が必要です。そうした特徴に対応するため、ウォームギヤは摩擦抵抗を下げるために同じ硬度のギヤを組み合わせるのではなく、ホイール側には柔らかい素材のギヤを、ハウジング側には硬い素材のギヤを使用することもあるようです。
- ポイント1・機械式スピードメーターはメーターギヤボックス内のウォームギヤで回転方向の変換を回転数の減速を行っている
- ポイント2・ホイール径に関わらず60km/h走行時にメーターケーブルが1400回転するようメーターギヤの減速比が設定されている
ダストシールの劣化やゴミの噛み込みがギヤの摩耗や破損の原因になる

コテコテに付着した古いグリスは洗油とブラシで洗い落とす。ウォームホイールとウォームの素材を変える目的で樹脂製ウォームホイールを使用している機種もあり、その場合は摩耗がないかより入念に確認する。

メーターギヤボックス内のグリスは綿棒やウエスである程度掻き出してから洗油やパーツクリーナーで洗浄する。ギヤボックスに組み込まれたウォームは簡単に外れないので、スムーズに回転することを確認したら無理はしない。

洗浄が終わったギヤボックスとウォームホイールはグリスを塗布して組み立てる。オイルシールやダストシールがあっても水分が混入する可能性はあるので、耐水性に優れたリチウム系やウレア系などのグリスを使用する。
メーターギヤボックスの内部にはウォームギヤが組み込まれているという基本的な構造は機種を問わず共通していますが、メンテナンスの範囲、言い換えればどこまで分解できるかは機種によって異なります。
画像で紹介しているのは1990年代のヤマハ車で、この機種のメーターギヤはアッセンブリー状態でパーツ設定されていて、内部のギヤは単品で設定されていません。これに対して他メーカーの別機種では、ハウジングに対して内部のギヤが部品として設定されているものもあります。
メーターギヤがアッセンブリー状態でしか供給されていない機種の場合、ギヤ関係のメンテナンスができないかと言えば、必ずしもそういうわけでもありません。ウォームギヤの潤滑用グリスは走行距離が増えれば当然劣化するので、清掃とグリスアップを行うことでコンディションをキープできます。
グリスアップを行う場合、ギヤボックス内部に汚れたグリスが残った状態で新しいグリスを塗布しても、ウォームギヤに触れるグリスが古いままなのでベストとはいえません。画像のメーターは先の通りギヤ単品の部品設定はありませんが、リテーナーを取り外せば分解が可能です。
そこでウォームホイールを取り外してギヤボックス内部に残ったグリスをより効率的に洗浄して、新しいグリスを塗布しました。こうすることでギヤボックス内の状態はより良くなります。ただし内部部品を単品で入手できないアッセンブリータイプのメーターギヤボックスを分解する際は、部品の破損や紛失に注意が必要です。取り外したウォームホイールの裏側に薄いシムが組み込まれている場合、この扱いも重要です。
このシムはギヤボックスに残るウォームとウォームホイールの歯車の与圧やクリアランスを決めるための重要なパーツなので、グリスでウォームホイールやギヤボックスに張り付いた状態で洗油に浸けこんでいる間に落下、紛失すると、組み立て時にギヤのガタが増える原因になります。
またホイールからメーターギヤに回転を伝える部分にはクラッチ、リテーナーと呼ばれる部品が組み込まれており、メーターギヤボックスをホイールに組み込む部分はゴミや水分などの浸入を防ぐオイルシールやダストシールが圧入されています。
分解可能か非分解にかかわらず、このオイルシールやダストシールは部品設定があります。ホイール側からのゴミや、クラッチやリテーナーと接するリップが摩耗してシール能力が低下すれば、ウォームギヤ側が汚れて摩耗する原因となります。したがってオイルシールの劣化や破損が確認できた場合はオイルシール交換が必要です。
機械式スピードメーターのメンテナンス項目としては、メーターケーブルの清掃やグリスアップが取り上げられる機会が多いですが、ケーブルに回転力を伝えるメーターギヤボックスも重要です。ウォームギヤの潤滑が不可欠なのはもちろんですが、ホイールにギヤボックスを組み付ける際にホイール側のクラッチの爪とウォームホイールの噛み合わせも重要です。
両者の位置がズレたまま無理にセットすると、爪が破損したりウォームホイールが無理な力で押し込まれてギヤの摩耗につながることもあります。そのため組み付け時は爪の位置確認も必要です。
- ポイント1・メーターギヤボックスの内部パーツが単品で設定されているか否かは機種によって異なる
- ポイント2・メーターギヤボックスに組み込まれたオイルダストシールやオイルシールが破損している際は必ず交換する
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