あらかじめプログラムされた量のガソリンを、スロットル開度に応じて噴射するフューエルインジェクション車にとって、スロットルポジションセンサーは不可欠です。一方、吸い込まれる空気の負圧と流量で自動的に吸い上げられるガソリン量が決まるキャブレター車でも、一部にはスロットルポジションセンサーを装備する機種もあります。ここではキャブレターモデルにおけるスロットルポジションセンサーの役割と調整方法を紹介します。

キャブレター車のスロットルポジションセンサーはスロットル開度と負荷に応じて点火時期を最適化させる

無用に触れないのが大原則。点火時期を最適化するキャブレター車のスロットルポジションセンサー

2バルブのゼファー時代のCVKキャブレターにはなかったスロットルポジションセンサーが、ゼファーXになって装着された。ゼファー時代の点火時期はエンジン回転数だけで決められていたが、スロットル開度でエンジン負荷を検知することで基本となるベースカーブから点火時期を早めたり遅らせたりできるようになったのが大きな進化。

無用に触れないのが大原則。点火時期を最適化するキャブレター車のスロットルポジションセンサー

車体側のメインハーネスとキャブのTPSハーネスは3極カプラーで結線されている。この間に専用ハーネスを接続することで、スロットル開度ごとのTPS電圧を測定できるようになる。ここに加わる電圧はイグナイターから流れてくる電圧だ。

エンジンが吸い込む空気量に応じてスロージェットからジェットニードル、メインジェットまで自律的にガソリン流路が切り替わりながら混合気を作り続けるキャブレターは、シンプルでありながら実は非常に高度な機能を持っています。

アナログなキャブに対してデジタルなフューエルインジェクションはスマートで頭の良いメカニズムのように思われがちですが、スロットル開度とエンジン回転数に応じたガソリン噴射量はすべて人の手でプログラムしなければ機能しません。インジェクション車におけるスロットルポジションセンサー(TPS)は、全閉から全開に至るまでスロットルボディのバタフライ開度を検知するために不可欠な装置です。

インジェクションはキャブレターのようにベンチュリーを流れる空気に合わせてガソリンを供給する仕組みではないので、その点では理想のセッティングから多少外れていても走行できるキャブレターの方が懐が広いとも言えます。

しかしキャブレター車の中にも、スポーツ系モデルや排ガス対策を目的とした一部にTPSを備えた機種もありました。ここでスロットル開度を検知するのはエンジン回転数、さらに具体的には点火時期をコントロールするのが目的です。

一般的な点火時期とは、始動やアイドリング領域では上死点近くで点火させ、エンジン回転の上昇に伴って上死点前より早い位置で点火させるよう変化します。エンジン回転数が遅い始動領域で点火時期が早すぎると始動性が悪く、エンジン回転数が高くなっても点火時期が遅いままでは混合気の燃焼で得られる圧力を有効に使えないからです。

エンジン回転数と点火時期という2つの要素で決まる「点火カーブ」に対して、TPSで検知したスロットル開度を加えた3要素で決まるのが「点火マップ」です。坂道をシフトダウンせず登ろうとすると車速が低下するのでスロットルを大きく開けます。すると負荷が大きくなるため早期着火であるノッキングが発生します。

これを緩和するには点火時期を遅らせるのが有効ですが、2次元の点火カーブではそれはできません。しかし同じエンジン回転数を維持するためにスロットルをさらに開いた時に、それをTPSが検知して負荷が増えたと判断させることで、回転数を維持したままベースカーブより点火時期を遅らせることができるようになるのです。

逆に、エンジン回転数が高くても負荷が小さい=スロットル開度が小さい状態で走行が維持できる時には、ベースカーブより点火時期を早めることで燃焼効率を向上させることもできます。

画像を掲載しているカワサキゼファーXのTPS付きキャブレターの場合、アイドリング時の点火時期は上死点前17.5°ですが、そこからスロットルを少し開けるとさらに上死点に近づくよう点火時期を遅らせてトルクを出す設定となっています。その一方でスロットル開度1/4付近ではスロットル全開時よりも点火時期を大きく進めることでパワーフィーリングを向上させています。

この車両については点火系にASウオタニ製SPⅡフルパワーキットを装着しており、純正イグナイターは使用していません。しかしSPⅡコントロールユニットはTPS装着車にも対応するプログラムが内蔵されているので、TPSを使ったマップで点火を制御できます。

POINT

  • ポイント1・フューエルインジェクションにとってスロットル開度を検知するスロットルポジションセンサーは必須だが、キャブレター車の中にもTPSを備えた機種が存在する
  • ポイント2・キャブレター車のTPSはスロットル開度でエンジンに掛かる負荷を検知して同一回転数の中で最適な点火時期を設定できる

スロットルポジションセンサーにとって全閉時と全開時の校正作業は超重要

無用に触れないのが大原則。点火時期を最適化するキャブレター車のスロットルポジションセンサー

スロットルシャフト右端部に取り付けられたTPS。カワサキではこのシステムをK-TRICと呼んでいた。このキャブは取り付けピッチが合えばTPS無しの機種にも取り付け可能だが、イグナイターに制御機能がなければTPSは機能しない。ゼファーXのデジタルイグナイターにはその機能があるのは当然だが、ASウオタニ製SPⅡコントロールユニットにもTPSに対応できる点火マップが内蔵されている。

無用に触れないのが大原則。点火時期を最適化するキャブレター車のスロットルポジションセンサー

TPSは安易に触れられないよう、いじり止め付きトルクスビルで固定されている。フランジ部分は長穴加工されており、スロットルシャフトを中心に僅かに回転することでポジション調整ができる。

無用に触れないのが大原則。点火時期を最適化するキャブレター車のスロットルポジションセンサー

エンジンを始動してアイドリング状態でTPSの出力電圧を測定した際の標準値は0.9~1.1V。実測値は1.114Vなのでほんの僅かに高く表示しているが、全開側と合わせるとこの値がベスト。

無用に触れないのが大原則。点火時期を最適化するキャブレター車のスロットルポジションセンサー

エンジンを停止して測定する全開電圧の標準値は4.06~4.26V。実測値も4.06VなのでこれもOK。この調整を行っておくことで、負荷に応じて点火時期を変化させる三次元マップの効果が最大限に発揮される。

エンジン回転数が同じでも負荷によって変化するスロットル開度に応じて点火時期を最適化できるTPS付きキャブレターは、スロットルバタフライを開閉するスロットルシャフト端部に取り付けられたTPSで発生する電圧をイグナイター(ASウオタニ製SPⅡフルパワーキットなのでSPⅡコントロールユニット)に送っています。

このため、スロットルが全閉なのに開いている電圧が出たり、全開なのに全開電圧にならなければ点火マップは正しく機能できません。したがってスロットル開度を正しく検知することが最も重要です。

メーカーから出荷された新車時には、メーカーで校正されているため問題ありません。また取扱説明書やサービスマニュアルではTPSの位置をずらしたり取り外すことは禁止されています。画像のケーヒンCVKキャブの場合も、一般的なハンドツールで調整できないよう、TPSユニットはいじり止め付きトルクスビスで固定されています。

しかしながら、長期放置キャブのフルオーバーホールなどで4連キャブをバラバラに分解してキャブレタークリーナーに漬け込むような場合には、電気部品であるTPSは取り外さなくてはなりません。このような場合には再調整が必要です。

ゼファーX用キャブの場合、車体側のメインハーネスとキャブ側のTPSハーネスのカプラー部分に専用ハーネスを割り込ませた上で、サーキットテスターで端子電圧を測定します。

スロットル全閉時の測定はエンジンを始動してアイドリング状態で行い、この時の標準電圧は0.9~1.1Vとなっています。アイドリング状態といってもスロットルストップスクリューでエンジン回転数を上下することができるので、標準的な1200rpm近辺でアイドリングさせた状態で測定します。

全開時の測定はエンジンを停止してイグニッションをオンにしてTPSに電圧を加えた際に4.06~4.26Vの範囲にあれば正常です。全閉、全開どちらの電圧も細かく指定されているので、サーキットテスターは針式ではなくデジタル式が必要です。

いじり止め付きトルクスビスで固定されたTPSのネジ穴は長穴で一定範囲で角度を調整できるので、どちらか一方でも標準電圧から外れていたら角度を変えて再度測定を行います。スロットルシャフトの回転角度とTPSの検知電圧はメーカーで決められているので、TPSに異常がない限り全閉時の電圧が標準値内に入れば全開も自ずと標準値内に入るはずです。何度調整しても電圧が標準値にならなければTPS自体が故障している可能性が高いです。

アナログなキャブレター時代の末期に装着されたTPSは、デジタル化された高機能なイグナイターの点火マップを機能させるためにとても重要なパーツです。キャブレターにセンサーを追加した程度では大した変化はないだろうと軽視することなく、その機能を最大限に活用できるようメンテナンスを行いましょう。

POINT

  • ポイント1・純正キャブレターのTPSはむやみにセンサー位置を変更してはならない
  • ポイント2・TPSを取り外したり交換する際はスロットル開度に応じた出力電圧が標準値内になるよう取り付け位置を調整する

この記事にいいねする


コメントを残す

カワサキ ゼファーXの価格情報

カワサキ ゼファーX

カワサキ ゼファーX

新車 0

価格種別

中古車 24

本体

価格帯 ―万円

万円

諸費用

価格帯 ―万円

万円

本体価格

諸費用

本体

153.55万円

価格帯 98.67~248万円

諸費用

9.8万円

価格帯 6.04~8.22万円


乗り出し価格

価格帯 ―万円

万円

新車を探す

乗り出し価格


乗り出し価格

163.36万円

価格帯 104.71~256.22万円

中古車を探す

!価格は全国平均値(税込)です。

新車・中古車を探す