
気温が下がってくるとバッテリー関連のトラブルが頻発するようになります。
最もよくあるのはエンジンの始動性が悪化して始動できなくなるトラブル。
気温の下がる朝、通勤通学用途のバイクでコレを食らうと遅刻してしまうので深刻です。
冬に始動できなくなるトラブルはキャブレター時代の定番トラブルでしたが、インジェクションが主流になって発生確率は減っているように思います。
しかし、無くなったわけではありません。
しかも最近のバイクはキックペダルが無いのでセルモーターで始動できなかったらもうお手上げ。
いにしえの必殺技「押し掛け」もインジェクション車ではできません。
そこで、今回は簡単に実行できる始動性悪化防止策の話です。
目次
キャブレター時代は大変でした・・・
私も含め、今でもキャブレター車に乗っている方は大勢居ますが、正直なところ「キャブレター」と「冬」は非常に相性が悪いです。
低温なのでガソリンが気化しにくいうえ、ガソリンをインジェクションほど細かい粒子にできないキャブレターではどうしても引火しにくい混合気になってしまうからです。
強制的に最適な状態に霧化したガソリンを噴射するインジェクションではほぼ問題になりませんが、エンジンが空気を吸いこむ時の流れで液体のガソリンを霧化するキャブレターにとって低温は大問題というわけです。
さらに、気温が低下するとバッテリーの起電力も下がってしまい、セルモーターの回り方が弱々しくなってしまう問題もあります。
テスターでバッテリー電圧を計測すると13.0Vに近い電圧表示でも、セルモーターを回すような高負荷を掛けるとガクッと電圧が落ちてしまうのです。
CCA(コールド・クランキング・パワー)という低温時のバッテリー能力を診断する専門用語(単位)があるくらいで、バッテリーと低温の問題は切っても切れない問題です。
大排気量車は特に影響が大きく、単気筒や2気筒ではセルモーターが回りもしない……なんて事も冬のトラブルのお約束でした。

超高性能なレーシングキャブレターはガソリンの霧化特性に優れていますが、あくまでも吸い込む空気の負圧で吸い出しているだけなので、セルモーターの回り方が弱くて十分な空気を吸い込めなければ直ちに始動困難に陥ります。
市販車で採用されている「普通のキャブレター」ならなおさらです。

気温が低くなるとバッテリーの能力が下がります。単体で電圧を測って正常値でも、負荷を掛ける(セルモーターを回すなどで大電流を流す)と電圧が急降下しやすくなります。
始動性悪化の原因は様々、自分で解決するのは簡単ではない
低温時にガソリンが気化しにくいのはどうしようもありません。
だからといってキャブレターに小細工をして霧化性能を向上させるのは全然『簡単にできる対処法』ではありません。
「これだからキャブレター車は……」と言うなかれ。
インジェクション車でも低温とバッテリーに関する問題からは逃れられません。
最新の高性能インジェクターがどれだけ華麗にガソリンを噴射しようとしても、セルモーターを回すパワーがバッテリーに無かったらエンジンは始動できません。
ガソリン(混合気)に引火する点火プラグもバッテリー電圧低下の影響をモロに受けます。
低温で電圧の下がったバッテリーでは点火プラグに飛ばせる火花も弱々しいものとなり、ますますエンジン始動性の悪化に拍車が掛かっていきます。

4ストロークエンジンで一般的なバッテリー点火の場合、バッテリー電圧が下がるとスパークプラグで火花を飛ばすための電圧が大きく低下します。結果、強力な点火が得られないので始動性が更に悪化してしまいます。
自分でできる事もあるけれど・・・
キャブレターを交換して吸気する混合気の状態を向上させたり、強力なスパークを得るための点火系強化パーツを装着する事も可能ですが、自分で作業するには高度な整備知識を要求されることばかり。
「できない」とは言いませんが、どれもこれも『簡単』とは程遠いです。
しかもかなりのお金も必要。
インジェクション車でも点火強化は可能ですが、インジェクション車で冬の始動性が問題になるのは点火よりもセルモーターの勢いが悪い方が問題でしょう。
バッテリーそのものの能力が低下するのが原因なので、例えば点火系にアーシングを追加したところで始動性の改善にはほとんど効果は見込めないはずです。
そもそもインジェクション車ならまだ年式も新しいので経年劣化によるアース不良や配線劣化が起こっている可能性は低く、旧車のように劇的な効果は感じにくいでしょう。

始動性悪化の最大要因はセルモーターの回り方が弱々しくなる事。点火系にアーシングを追加してもあまり効果的とは言えません。
始動性悪化させないための予防が大切!ですが・・・
キャブレターならではの苦労を除くと、インジェクション車を含む大多数の車両における始動性の悪化は『低温によるバッテリー能力の低下』が原因である事がわかります。
そうとわかれば話は早い!
バッテリーの状態をベストコンディションにしておけば良いのです。
最近は繋ぎっ放しにしておけば常に最適な状態を維持してくれる「トリクル充電機能を持つ充電器」が多いので、これを接続しておくのはとても有効です。
しかしこの素晴らしい充電器にも弱点があります。
それは屋外に充電器を放置しておくわけには行かない事。
充電器は防水仕様ではないので風雨を防がねばなりませんし、屋外で使える電源(コンセント)の用意も必要です。
一軒家で屋内保管できる立派なガレージがあれば問題無いのですが、そんな恵まれた環境を用意するのは物凄い資金が必要です。
ようするに一軒家を用意しなければならないので、キャブレター交換や点火強化キット装着なんか比較にならない超高難易度。
「それが出来れば苦労しないよ!」という本末転倒な話になってしまいます。

2台の充電器(トリクル充電機能付き)を装備している屋内ガレージ。この環境があれば苦労は少ないのですが、なかなかそういうワケには行きません。
自分で簡単にできるオススメ予防策!
というわけで、バッテリーのトリクル充電以外で、しかも簡単に出来る事は何か無いかと考えると、1つだけありました。
それが『バッテリー端子を磨いておく』です!
詳しい解説は省きますが、バッテリー端子は腐食しやすい宿命があります。
特に鉛バッテリーでは端子部分が比較的容易に腐食(白い粉を吹く)してしまいます。
端子が腐食して粉が出ているような状態になると、粉の部分は電気を通さないので大電流が流せなくなってしまいます。
セルモーターのように瞬間的に大きな電力を必要とする場合にエネルギーの源であるバッテリー端子の導通性が悪いのは大問題。
さらに、導通性の悪化した端子に大電流を流そうとすると、端子の導通しなくなった部分で極小さなスパークが起こる事があります。
スパークが起こるとその部分が焼けて汚れたり(スラッジが発生する)溶けたりします。
スパークは非常に小さなものなのでいきなり端子全体が丸焦げになったり溶け落ちたりはしませんが、僅かとはいえ焦げたり溶けた部分は更に導通性が悪化するので、どんどん導通性が悪くなる悪循環に突入していきます。
残念な事に鉛バッテリー以外でも端子はサビやすい場所なので、接点にサビが発生すると通電性が悪化して同じ事が起こります。
バッテリー端子を磨くのは、この導通性悪化を阻止するのが狙いです。

接触面が荒れた中古バッテリー端子とバッチリ平面が出ている新品バッテリー端子の比較図。ここに車体配線の端子を取付けますが、どちらが接触面積が大きくて導通抵抗が少ないのかは火を見るより明らか。
すぐに実行しておきましょう!
バッテリーの端子と、端子につながっているコードの端子、この接点を磨くようにします。
磨くのは接触面積をできるだけ広く取りたいからです。
バッテリー端子とコードの端子は可能な限り広い面積でベッタリ密着(面接触)しているのが理想ですので。
もし端子に白い粉があったり、サビていたり、焦げたような痕跡があればそれも磨き落としてしまいましょう。
磨くのは柔らかめの金属ブラシがベストですが、無ければ家庭用のボンスター(スチールウール、金属たわし)などでも構いません。
放置車両の車体ボルトなどと違って真っ赤にサビていて外せない……なんて事は無いはずなので、ササッと簡単に磨けるはずです。
両端子に綺麗な金属面がたら、サビが発生しにくくなるように接点グリスを塗って保護しておければ完璧。
端子を外して接触面を磨くだけなのでめちゃくちゃ簡単ですよね!
たったそれだけで効果あるの?と思うかもしれませんが、ヘッドライトがハロゲンバルブの車両ではライトが明るくなったりして導通性改善の効果が目に見える事もあります。
考えてみればエンジンを始動するほどのエネルギーを小指の先ほどの面積から取り出しているのがバッテリー端子なので、その接触状態が始動性に影響するのはある意味当然なのでしょう。
特に、接触不良気味でスパークが発生していたような端子では、接触すべき部分が溶けて小さな凹みが大量に出来ている事があります。
こうなると本来であれば面で接触すべき部分がベッタリ接触できないので(線接触や点接触と呼ばれる状態)、見た目以上に導通性が悪化していたりするもの。
極端な場合では凹みが進行し過ぎて微妙な隙間ができてしまい、端子を固定しているボルトが緩んでしまう事すらあります。
端子のボルトが緩むとそれだけで接触面積が減りますし、毛細管現象で水分を呼び込むのでサビやすくもなります。
一旦サビるとサビで浮いた隙間でスパークするので更に隙間が増えたりスラッジができやすくなったり……という感じで加速度的に導通性が悪化してしまいます。
そうなる前に端子を磨いておきましょう!

バッテリーに接続する配線側の末端はだいたいこんな形状です。これもバッテリー本体の端子とできるだけベッタリ当たるようにします。汚れはワイヤーブラシや金属タワシで落として磨き上げましょう。

接点グリスを端子取付けボルトに塗っている例(これはちょっと点けすぎ)。ボルトのネジに塗るのが一般的ですが、端子と当たる「面」に塗っておくと接触面の腐食防止効果が期待できます。
本格的に始動性が悪化している場合は要整備
端子を磨いたのに何も変化しない事もあります。
でもそれは『バッテリー端子と配線の接続には問題が無い』が確定した事を意味しています。
端子以外の場所に始動性悪化の原因があるという事ですが、ここから先は一気に整備の難易度が上がっていきます。
だから端子を磨いても始動性が改善しない場合はバイク屋さんに相談する事をおすすめします。
ココかな?アソコかな?と調べて修理する事は可能ですが、整備が趣味という方以外には単なる苦行でしかないです。
『普通の人』はバイク屋さんで修理してもらいましょう!

この画像を見て「うわ~楽しそう!」と思えない人(=大部分の人)はバイク屋さんにGO!!
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