エンジンオイルと同じように、フロントフォークオイルも走行距離がが増えることで性能が低下します。正立式のフローティングバルブタイプであればオイル交換やオーバーホールもさほど難しくありませんが、作業をスムーズに進めるためのコツが存在します。想像以上の効果を得られることもあるので、ちょっとだけ意識を変えて作業してみましょう。

トップキャップの締め方やOリングのコンディションがサスペンション特性に影響する

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

正立式フロントフォークのトップキャップのOリングには、インナーチューブ内部の空気室の圧力を閉じ込めておく役目がある。オイル交換後にキャップをねじ込む際はインナーチューブが伸びきった状態で締めるのがセオリー(実際にはフォークスプリングの反力で伸びきる場合がほとんど)。中途半端にストロークした状態でキャップを締めると、伸びきろうとする際に空気室が負圧になってしまう。トップキャップにエアーバルブが付いている場合、停車時に前輪を浮かせてバルブを開くことでインナーチューブ内圧を大気圧に合わせられる。

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

フロントフォークを車体から取り外してからトップキャップを緩めようとしても、インナーチューブを固定できず共回りしてしまう。そこで車体に付いた状態で緩めるのが定石だが、この時トップブリッジのクランプボルトが締まっているとキャップが緩まない。アンダーブラケットは締めたままトップブリッジのクランプを緩めることで、インナーチューブの回り止めが効いた状態でキャップを緩めることができる。

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

フロントフォークを車体に組み付ける際は左右のインナーチューブの突き出し量を合わせることが重要。この時、トップブリッジばかりに気を取られることなく、ボトムケースのアクスルシャフトホルダー部分でも確認しよう。インナーチューブを仮止めしてアクスルシャフトを通した時、スムーズに通れば左右のフォーク位置が合っていると判断できる。

路面からの衝撃をスプリングで受け止め、ストロークに伴い狭い通路内をオイルが往復する際の抵抗によって減衰力を発生させるのがサスペンションの基本的な作動原理です。フロントフォークの場合は衝撃を受け止めるのは金属製のコイルスプリングだけでなく、フォーク内にある空気室もまたストローク量に応じて反力を発生させるバネとして機能しています。

コイルスプリングの反発力(ばね定数)はストローク量に比例して高まります。スプリング中には2種類のばね常数を持つものもありますが、その2種類はそれぞれ一次関数的に反発力が高まります。

一方、空気室の容積で決まる空気ばねは、ストローク量に対して二次関数的に反発力が高まります。具体的にはフロントフォークのストローク量が小さい領域では反発力が小さく、深く沈み込むにつれて反発力が高まります。

フロントフォークオイルを交換する際に油面の高さが重要なのは、油面の高さによって空気室の容量が増減するためです。規定値よりも油面が低いと空気室の容量が大きくなるため、ストローク時の反発力が小さくなり、逆に油面を高くすると空気室が狭くなるため反発力が大きくなります。油面の高さをサスペンションセッティングに利用する場合は増減させることもありますが、極端に変化させるとコイルスプリングのバネ定数との釣り合いが取れなくなってしまうこともあるので注意が必要です。

サスペンションにとって空気ばねが重要であるということは、フロントフォークのトップキャップの重要性にも連動します。正立式でも倒立式でもトップキャップのネジ部にはOリングが入っており、ここで空気室の気密性を保っています。そのためオイル交換時に硬化したOリングを再使用すると、キャップとインナーチューブとの当たり方に変化が生じて空気室の圧力を維持できなくなることがあります。

1980年代のある時期にはインナーチューブ内に空気を加圧する機種もありましたが、現在ではインナーチューブを最大限まで伸ばした状態で加圧せずキャップを閉めるのが一般的です。その状態で車体に組み付けると、1G分のストロークで空気ばねの加圧が始まります。

Oリングの機能が衰えても5分や10分でフォーク内の空気が外部に漏れることはないでしょう。しかし時間の経過とともに空気ばねは1G状態で大気圧と釣り合うようになり、走行中にフォークが1G位置より伸長すると逆に減圧されてしまいます。簡単に言えば「伸びきらないフロントフォーク」になってしまうのです。

コイルスプリングは機能しているので突然シャコタン状態になるわけではありませんが、トランポでバイクを運ぶ際にフロントフォークをタイダウンベルトで縮めることで、フォーク内の空気が抜けてサスペンション特性に違和感が生じるようなこともあります。

同様の症状はリヤサスペンションでも起こり得ます。サブタンク付きのリアショックのガス圧は1000kPa以上になることがあります。サブタンクのキャップには当然Oリングが併用されていますが、大気圧の10倍にもなる圧力は常に逃げようとし続けるため、気づかぬうちに圧力低下を起こしてサスペンション特性を悪化させていきます。

フロントフォークの「目に見えない空気漏れ」を防ぐには、トップキャップのOリングの状態に関心を持つことが重要です。キャップからオイルが漏れないから大丈夫というのではなく、空気が漏れないよう定期的に交換するように心がけると良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・正立式フロントフォークのフォークオイル油面高さは空気室の容量を決める要素となる
  • ポイント2・フォークトップキャップのOリングの硬化や損傷によるシール性低下はフォーク内圧に影響を与えるため注意が必要

オイルシール交換時はスナップリングのサビ具合でダストシールの状態も分かる

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

ボトムケース上端のダストシールのシール性低下によって水分が入り込み、オイルシールを押さえるスナップリングが錆びている。このサビを放置するとインナーチューブにもらいサビが転じることもあり、またスナップリング部分の水分によってインナーチューブが錆びることもある。フォークオイル漏れによってオイルシールを交換する場合でも、スナップリングにサビを見つけたら同時にダストシールも交換しておきたい。

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

ピストンスライドタイプの正立式フロントフォークを分解する際に準備しておきたい唯一の専用工具が、フォークシリンダーの回転を押さえる四角錐のホルダー。このホルダーをシリンダー上部に食い込ませることで、ボトムケース下端のボルトを緩める際の回り止めとなる。このホルダーがない場合、フォークスプリングの反力でインナーチューブをフォークシリンダーに押し当てて回り止めとすることも可能。

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

フォークシリンダーを固定するボトムケース下端のボルトには銅製のワッシャーがセットされている。ボルトを外した際にワッシャーが付いてこなければ、必ずボトムケース側を確認してワッシャーを回収する。このワッシャーは締め付け時に潰れてシールするので、フォーク組み立て時には新品に交換する。

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

インナーチューブを引き抜くことで、ボトムケースに組み込まれたアウターメタルとワッシャー、オイルシールが外れる。スナップリングのサビがオイルシール上面にも転写されており、発見がさらに遅れるとインナーチューブまで錆びてしまうこともある。インナーチューブの硬質クロームメッキ表面には目に見えないレベルのクラックや孔があり、水分に触れた状態が長く続くことでクロームメッキ層の下でサビが進行してしまう。

当たり前のように行う作業に潜むコツ。フロントフォークオーバーホールで知っておきたいテクニック

カートリッジタイプや倒立式フォークに比べて構造がシンプルな、正立式ピストンスライドタイプのフロントフォーク。フォークオイル交換だけなら分解も不要だが、清掃後に新品オイルを注入する際の油面(または容量)はサービスマニュアル通りの数値に合わせる。左右のフォークで油量が異なる機種もある。

オイル交換と同様に、フロントフォークメンテナンスの定番メニューと言って良いのがフォークオイルシールの交換です。倒立式フォークの場合は専用工具が必要になることもありますが、正立式のフローティングバルブタイプは一般的なハンドツールだけで作業できることも珍しくありません。

オイルシールを取り外すには、ボトムケース上端のダストシールとスナップリングを取り外し、インナーチューブ先端のスライドメタルをスライディングハンマーのように活用して、ボトムケースのアウターメタルとオイルシールを引き抜きます。

ここで注目すべきはスナップリングのコンディションです。このリングはオイルシールの圧入量を判断する目安となり、万が一のオイルシール抜けを防止する重要な役目もあります。

このスナップリングのサビはダストシールの性能低下のサインであり、インナーチューブのサビの原因になります。屋外保管で雨ざらし状態なのが危険なのは言うまでもありませんが、屋内保管であっても雨天時の走行もへっちゃらという使い方をしていると、入り込んだ水分が蒸発せずサビが発生することがあります。

そのため、スナップリングにサビが発生した際はスナップリング自体を交換するのはもちろん、インナーチューブに付着した雨水や汚れを除去できなくなったダストシールも同時に交換します。

オイルシール交換というと、オイルシールばかりに注目してダストシールは古い部品を流用しがちですが、ダストシールの性能低下によって異物や雨水が通過してしまい、せっかく交換したオイルシールのライフが短くなってしまうのはもったいない話です。リップの硬化や傷付きによってオイルシール交換を行う場合は、ダストシールも合わせて交換しておいた方が良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・正立フォークのボトムケースに取り付けられたダストシールはインナーチューブに付着した雨水やホコリを取り除くための重要部品
  • ポイント2・オイルシールを押さえるスナップリングが錆びている時はダストシールのシール性低下が疑われるため交換する

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