
燃料タンク内のガソリン残量が分かる燃料計は、ライダーが給油時期を把握するための有効な装備です。燃料計はタンク内のガソリンを量るレベルセンサーと、その情報を表示するレベルゲージの2つの部品で構成されており、レベルセンサーのフロートとアームが鍵を握っています。ここでは長期放置車両のレベルセンサーを題材に、作動原理と清掃の手順を紹介します。
フロートの高さによって抵抗値が変化するレベルセンサー

前後左右に姿勢変化するバイクの燃料タンクの中で、ガソリンレベル変動の影響が小さい場所に取り付けられているフューエルレベルセンサー。この車両(カワサキゼファー)はキャブレター車なので燃料コックとレベルセンサーは別の場所にあるが、フューエルインジェクション車の場合は燃料ポンプとレベルセンサーがひとつのユニットであることが多い。この車両は数年にわたる長期放置によってタンク内は完全に腐食している。

泥の中から掘り出したかのような酷い状態がタンク内のサビを反映している。こんなタンクにいきなりサビ取りケミカルを投入するのはケミカルの無駄遣いでしかない。まずは中性洗剤と水道水でタンク内に浮遊しているサビや汚れを充分に洗い流してからケミカルを使用する。レベルセンサーも単体で清掃する。

このセンサーは抵抗部分の鈑金カバーが簡単に取り外せたので、外してみればこの通り。「サビが酷いけど動くかな?」とフロートアームを作動させるたびに、抵抗と摺動子の傷を無用に増やすことになることが分かるだろう。サビにまみれたガソリンは、漬け込みタイプのキャブレター洗浄液の中でブラシで優しく擦って取り除いた後にパーツクリーナーですすぐ。タンクに取り付けてサビ取りケミカルに浸けておけばある程度清掃できるが、分解してブラシを使った方が作業効率は何倍も良い。
燃料タンク内のガソリン量を表示する燃料計には機械式と電気式の2種類があります。機械式は測定部と表示部が機械的につながっているタイプで、シート下のタンクに燃料計がが付いている昔のスーパーカブが代表例となります。
これに対して電気式は、燃料タンク内のガソリンを量るレベルセンサーと、その情報を表示するレベルゲージの2つの部品で構成されており、両者の情報は電気的に共有されています。タンク内に組み込まれたレベルセンサーはセンダーユニットとも呼ばれており、フロートとフロートアーム、可変抵抗で構成されています。
可変抵抗とは身近な例を挙げれば音楽機器のボリュームのようなもので、抵抗体の上を可動する摺動子の止まった位置によって抵抗値が変わる電気部品です。ボリュームを絞ると音が小さくなり、逆に回すと音が大きくなるのはボリューム内の抵抗値の変化による作用です。
レベルセンサーの場合、タンク内のガソリン量に応じて抵抗値を変化させるためにフロートを使用しています。キャブレター内のフロートと同様に、ガソリン量が多い時にはフロートが浮き上がり、減少すると徐々に下がっていきます。キャブレターはフロート位置によってフロートアーム根元のフロートバルブが開閉してガソリンを断続し、レベルセンサーの場合はフロートアーム根元の可変抵抗の摺動子の位置が変わって抵抗値が変化し、その抵抗値によってレベルゲージに流れる電流が決まり指針が作動しています。
ガソリンタンク内に電気が流れる部品を設置して、もしショートでも起こったら……と思うかも知れませんが心配は無用です。可変抵抗自体は火花が飛ぶ部品ではありませんし、ガソリンに浸った状態では空気に触れていないので燃えることはできません。
ここで紹介するレベルセンサーは、サビだらけの燃料タンクから取り外した部品です。まるで泥の中に埋もれていたかのような劣悪な有り様で、もちろんこのままでは使用できません。タンク本体と同時のサビ取りが必要で、その際は抵抗と摺動子をなるべく動かさないように分解して、両者の隙間に入り込んだサビや汚れを取り除きます。
タンクから外したレベルセンサーがサビまみれだった場合、とりあえずフロートアームを上下に動かして作動状態を確かめたくなるのが心情でしょうが、それによって摺動部分に余計な傷を付けると、せっかく清掃してもまともに作動しなくなるリスクがあります。そこでまずはカバー類を取り外して抵抗と摺動子を丁寧に清掃し、その後に動作確認を行うようにしましょう。
コイル状に巻かれた抵抗の上に対して摺動子がどこにあるかによって抵抗値が変化するレベルセンサーにおいて、センサーの機能を判断する上で抵抗値測定は重要です。サービスマニュアル上で抵抗値が公表されているか否かは機種によってまちまちですが、フロートが下がる=ガソリン残量が少なくなると抵抗値が増加し、ガソリン満タンでフロートが浮き上がると抵抗値が減少するのが一般的な傾向です。カワサキGPZ1100のデータでは、タンク内が空の時に90~100Ω、満タン時に4~10Ωが標準値とあったので、これも参考例になります。
残量がリニアに分かる燃料計に対して、フューエルインジェクション車の中にはタンク内ガソリンが一定量以下になると残量警告灯が点灯する機種もあります。この場合、タンク内にはレベルセンサーではなく温度変化で抵抗値が変化するサーミスタという素子をセンサーとして利用しているのが一般的です。
タンク内にガソリンが充分にある状態ではサーミスタもガソリン内に浸っており、サーミスタ自体の熱がガソリンに吸収されていますが、残量が減ってタンク内にサーミスタが露出すると温度が上昇して抵抗値が変化し、メーター内のインジケーターランプが点灯します。
針や液晶ゲージが徐々に下がっていくレベルゲージに対して、残量警告灯は突然点灯するので驚きますが、燃料タンク内でのセンサー位置は不変なので警告灯が点灯した時点のガソリン残量も常に同量なので、航続距離もおのずと決まってきます。警告灯点灯時のガソリン残量はバイクの取扱説明書に記載されており、慌てずガソリンスタンドに向かえば突然エンストするようなことはありません。
- ポイント1・燃料タンク内のレベルセンサーは抵抗体と摺動子の位置関係によって変化する可変抵抗を利用して機能する
- ポイント2・燃料タンクのサビ取りを行う際はレベルセンサーを取り外して慎重に汚れやサビを取り除く
ガソリン残量とレベルゲージの指針がズレている時はフロートアーム調整で修正する

燃料タンク内のガソリンが少ない=レベルセンサーのフロートが低いと抵抗値が大きくなる。この抵抗値とレベルゲージ内の抵抗値によって、指針はE方向に振れる。表示はあくまでゼファーの例で、センサーのスペックによって抵抗値は異なる。

フロートが高くなる=ガソリンが多くなると抵抗値が小さくなる。重要なのは絶対値ではなく空と満タン時のフロートの高さによって抵抗値が大きく変化すること。この差が大きいことでレベルゲージに掛かる電圧の変化が大きくなり、表示値が正しく現れる。基板上に巻かれた抵抗は一部が断線すると回路が成立しなくなるため、レベルセンサーの機能が失われる。

燃料タンクとセンサーに挟まれたガスケットは変形グセが付いているので、同じ位置に取り付けても気密性が低下していることが多く、耐ガソリン性の液体ガスケットを併用してもジワジワにじむこともあるため、レベルセンサーも燃料コックも、年数の経った部品を着脱する際は新品ガスケットを使用する。

燃料タンク内にレベルセンサーを組み込む際にタンク内壁にフロートが干渉する際は、フロートアームの変形を避けるため無理に押し込まず、知恵の輪のようにセンサーの向きを変えながらセットする。
レベルセンサーはフロートアームの高さによって抵抗値が変化しますが、燃料キャップ近くまで満タンに給油したのにレベルゲージの針が満タンまで行かない、逆にレベルゲージ状では残量があるのにガス欠してしまったというように、タンク内の残量とゲージ表示が一致せず不具合を生じることがあります。
このような時はフロートと摺動子をつなぐフロートアームを確認します。燃料タンクの形状やレベルセンサーの取り付け位置などの関係から、フロートアームの形状は機種ごとに異なります。タンクからレベルセンサーを取り外す際に、フロートアームの形状によっては知恵の輪のように取り出さなくてはならないこともあります。
その際にセンサー取り付け穴にアームを引っ掛けて曲げてしまうと、実際の残量とフロートの高さにズレが生じてレベルゲージに反映してしまう場合があるのです。
レベルセンサーを取り外さずにタンクのサビ取りを行う際に、タンク底のサビを剥がそうとブラシなどを突っ込むのも、フロートアームを曲げる原因になるので注意が必要です。サビ取りケミカルに加えて物理的手段でタンク内を擦る場合は、レベルセンサーを取り外して何か別の物で蓋をしてから作業するのが良いでしょう。
ブラシを使わずサビ取り剤だけで作業する際も、使用後に水道ホースをタンク奥まで突っ込んですすぎを行う時にアームを押し曲げたり引っ掛けたりしないよう注意しましょう。ただし先に触れたように、錆びたタンクに取り付けられたレベルセンサーは大半が内部までサビが回っているので、サビ取りケミカルだけでなく単体での清掃が不可欠です。
レベルセンサーの構造はとてもシンプルで、フロートと摺動子の位置関係が変わらなければレベルゲージの表示がズレることはありません。レベルゲージ単体で清掃するなど、何かの作業後に異変が生じたらフロートアームの状態を確認してみましょう。
- ポイント1・ガソリン残量とレベルゲージの指針にズレが生じる際はレベルセンサーのフロートアームの変形が原因である場合が多い
- ポイント2・レベルセンサーが付いた燃料タンク内にブラシや水道ホースを挿入する際はフロートアームに干渉しないよう注意する
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