ホイールやエンジンのベアリングを交換する際の必須工具であるパイロットベアリングプーラーは、内輪の内側にチャックをセットして引き抜きます。それに対して軸部に組み込まれたベアリングを取り外す際に必要なのが、外輪の外側を支えて引き抜くベアリングセパレーターです。ボールベアリングはもちろん、テーパーローラーベアリングのインナーレースやステムベアリングレースの取り外しにも重宝します。
ベアリングの外輪を外側から挟み込んで引き上げるセパレーター
圧入されたベアリングを取り外す工具と聞いて真っ先に思い浮かぶのはパイロットベアリングプーラーではないでしょうか。実際の工具の現場では「パイロット」が省略されることも多いベアリングプーラーは、穴状のベアリングハウジングに圧入されたベアリングの内輪にチャックを差し込んで先端部分を広げて圧着させ、センターボルトで引き抜きます。
ホイールベアリングやエンジンに圧入されたベアリングは、アクスルシャフトやミッションションシャフトを差し込んで回転させるため外輪がホイールハブやクランクケースに圧入されており、取り外す際はベアリングプーラーを使います。
これに対して、単気筒や2気筒エンジンのクランクシャフトやミッションシャフトなどには、内輪を軸に圧入するベアリングもあります。この場合、ベアリング取り外す際は外輪の外側に掛けて引き上げるタイプの工具が必要です。そのための工具がベアリングセパレーターです。
ベアリングセパレーターは二分割式のセパレーターでベアリングを外から挟み込み、ボルトで組んだ「やぐら」の中央部分のボルトでクランクシャフトやミッションシャフトの端部を押してセパレーターを引き上げることでベアリングを取り外します。
セパレーターの先端(内側)は先に向かうほど薄くなっており、ベアリング外輪の下側を挟み込むことでセンタが食い込みます。軸に圧入されたベアリングをマイナスドライバーやタガネで外そうとすると、その力は工具が当たる一カ所にしか加わりません。そのため抜け方向の力とは別にベアリングを傾斜させる力が働き、内輪が軸に食い込もうとします。
これに対して、セパレーターは外輪を複数のポイントで均等に挟み込むため、軸に対してベアリングが傾くことなく、パーツにダメージを与える心配が小さくなります。圧入代が小さいベアリングであれば、セパレーター両端のボルトナットを締め込むだけで軸から浮いてくることもあるほどです。それほどまでに真っ直ぐ引き上げることが重要だということです。
クランクシャフトならクランクウェブとベアリングが、ミッションならギヤとベアリングが密接している場合、先端が鋭く薄いタガネのようなセパレーターを徐々に食い込ませながら引き上げることもできます。
具体的にはベアリング裏側の隙間が少ない時はセパレーターを外輪に少しだけ引っかけてボルトと締め込んで少しだけ持ち上げ、隙間が開いたらセパレーター両端のボルトナットを締めて刃先を食い込ませるというやり方です。鋭く薄い刃先だけでベアリングを持ち上げようとすると負荷が大きいので、少しずつ広がる隙間に合わせてセパレーターを深く食い込ませるのです。
パイロットベアリングプーラーの場合、内輪に挿入するチャックが抜けないように最初にしっかり締め付けますが、セパレーターはベアリング引き上げ途中に徐々に締め付け量を増やすことで、工具の破損を防ぎつつ高い剛性で引き上げられるのが特長です。
- ポイント1・エンジンや車体に組み込まれたベアリングには外輪をハウジングに圧入するタイプと内輪を軸に圧入するタイプがある
- ポイント2・ベアリングセパレーターを使えば軸に圧入されたベアリングを傾けずまっすぐ引き上げることができる
セパレーターのボルトを延長すればステムシャフト下端のボールレース取り外しにも役立つ
軸にベアリングが圧入された構造であれば、ベアリングセパレーターはエンジン部品以外にも使えます。その代表例がステアリングステムベアリングです。
ステムシャフトに圧入されたインナーレースを搬入工具で抜く際は、レース外周とロアブラケットの隙間にタガネを少しずつ打ち込んで浮かせるのが一般的です。しかし早く抜こうと欲張って一箇所を多めに叩くと、レースが傾きステムシャフトに食い込んでしまいます。
ステムベアリングにはボールタイプとテーパーローラータイプがあり、ボールタイプの方がレースが薄い分、裏から叩き上げられる際に傾きやすい傾向があります。
この作業でセパレーターが使えれば、レース外周を複数のポイントで保持しながらステムシャフトに従ってまっすぐ引き上げられるため、食い込みや傷付きを防止できます。
クランクシャフトやミッションと比べてステムベアリングはシャフトが長く、いわゆる懐が深いためセパレーターとやぐらの距離が大きくなります。そうした作業を見越したセパレーターセットの中には、やぐらをつなぐためのロングボルトが入っている製品もあります。そうしたボルトがなくても、ホームセンターで売っている長尺タイプの全ネジを流用すれば、ステムシャフトのような長いシャフトにも対応できます。
画像では小排気量モデルのロアインナーレースを引き抜いていますが、セパレーターでレースを挟んだ後はボルトを回すだけなので、気を遣いながらタガネで叩くよりよほど容易にベアリングを交換することができました。
ただし、ロアブラケット上にあるハンドルストッパーやステアリングロックの形状によっては、セパレーターが干渉することがあるので注意が必要です。二分割のセパレーターの位置を調整しながら干渉を避けられれば、きれいにインナーレースを抜くことができます。
また、やぐらの上から軸をボルトで押せないような場合は、ベアリングを挟み込んだセパレーターを固定して油圧プレスで軸を押したり、セパレーターにブロックを挟んで油圧プレスで押すこともできます。
ベアリングが傾かないよう外周を挟んで引き上げるベアリングセパレーターは、見た目はごついですが繊細な作業ができる工具です。エンジンや車体のメンテナンスの際には、内輪を掴むパイロットベアリングプーラーとセットで用意しておけば、状況と工夫次第でさまざまな使い方ができます。
- ポイント1・ロアブラケットの形状によってはステムシャフトに圧入されたインナーレースもセパレーターで抜ける
- ポイント2・ベアリングセパレーターとパイロットベアリングプーラーを活用することでベアリング交換作業のミスやトラブルを減らせる
この記事にいいねする