燃料タンクとキャブレターの間にあってガソリンの流れを切り替えている燃料コック。キャブレター仕様のバイクで当たり前のように操作しているパーツですが、構造は分からないというライダーもいるのでは? ここでは負圧式コックを分解して不具合が発生する原因を解説します。

ONとRESが切り替わるのは燃料タンク内のパイプの高さが異なるから

仕組みを知れば不具合の原因も分かる。負圧式燃料コックの構造とメンテナンスの要点を解説

カワサキゼファー用燃料コック。コック本体上部のパイプは長い左側がON、短い右側がRES用。どちらも吸い込み部分にタンク内のゴミをキャッチする樹脂製のメッシュスクリーンがある。RES側のパイプはタンク底部のガソリンまで吸えるよう短いため、タンク底に汚れやサビがあると詰まりやすい。本体右側のホームベース型の黒い部品が薄膜のダイヤフラム。ビス4本でコック本体から取り外せるが、ダイヤフラムとしての部品設定はない。

仕組みを知れば不具合の原因も分かる。負圧式燃料コックの構造とメンテナンスの要点を解説

長期放置でタンク内が錆び、顔のようなデザインのゴムパッキングも硬化してレバー外周からガソリンが滲んでしまった。タンク内部が空っぽでパッキングが乾燥すると収縮してしまい、次にガソリンを流した際に漏れる原因になる。逆にガソリンに浸かりすぎてゴム部品が膨潤した場合、中性洗剤で洗浄して天日で乾かすことで元のサイズに戻る場合がある。

原付からビッグバイクまで、キャブレター仕様のスポーツモデルに必ず装備されている燃料コックは、作動の仕組みによって「重力式」と「負圧式」の二種類に分けられます。重力式は単純な切替コックで、レバーをOFFからONまたはRESに動かせばいつでもガソリンが流れます。つまりエンジンが止まっていてもレバーがONならタンクからキャブレターに向かってガソリンが流れようとします。

キャブのフロートが正しく機能していれば、フロートチャンバー内の油面が一定の高さになったところでフロートバルブが閉じてガソリンの流れが遮断されます。しかし何かの理由でフロートバルブが閉じない、あるいは隙間が空いてしまうと、ガソリンが流れ続けてオーバーフローを起こすため大変危険です。そのため、重力式コックのバイクは停車時や保管時にコックをOFFにしなくてはなりません。

これに対して負圧式コックのガソリンの流れは、レバーの切り替えに加えてエンジンの状態によって変わります。負圧式の負圧とはエンジンの吸気ポートに発生する吸入負圧のことで、レバー位置ががONでもRESでもエンジン始動によって吸入ポートに負圧が生じてコック内の通路が開くことで、タンクからキャブレターにガソリンが流れます。

裏を返せば、コックがONでもRESでもエンジンが止まっていれば通路が開かないのでガソリンはキャブレターに流れ込まず、停車中のオーバーフローの心配もないということです。

ではONの位置で走行中にガス欠症状でエンストした時、レバーをRESに回すと再びエンジンが始動するのはなぜでしょうか? その理由はタンク内に挿入されている2本のパイプを見れば分かります。2本のパイプはコック内のONとOFFの通路につながりますが、長さを変えることでタンク内のガソリンを吸い込む位置を変えています。

タンク内の残量が多い間はONにつながる長いパイプから吸い込ませて、長いパイプの先端がタンク内のガソリンから突き出したら短いパイプにつながるRESに切り替えることで、タンク底面に近い位置までガソリンを流し続けることができるようになっているのです。

そして2本のパイプの長さの差によって、RES位置で走行できる距離が増減します。ONとRESのパイプ長に大きな差があれば、ONで走行できる時間が短い分RESで走行できる時間=距離は長くなります。逆に同じタンクでパイプ長の差が小さければ、ONで走行できる距離は伸びますがRESで走行できる時間は短くなります。

パイプ長の差はその機種の燃費等からバイクメーカーが決定していますが、経年劣化やトラブルなどでコックに圧入されたパイプが割れたり抜けたりすることもあります。例えばON側のパイプが根元から抜けてしまうと、レバーがONのままタンク底までガソリンを吸い続けてしまい、RESに切り替えた時にはタンク内が空だった……ということもあります。

また燃料タンク内の汚れやサビによって底面に近いRES側パイプのストレーナーが詰まることでガソリン流量が減少したり、エンストを引き起こす場合もあります。

燃料タンク内に挿入されるパイプだけでなく、切り替えレバーのパッキングに不具合によってコック外部にガソリンが漏れ出すタイプの不具合もあります。レバーはONとRESの2本のパイプに流れるガソリンのどちらか一方を選択してキャブレター側に流すにあたり、ゴム製のパッキングで流路の気密性を確保しています。

しかしレバーを繰り返し操作することでパッキングが摩耗したり、長期間の保管や放置によって劣化、ヒビ割れなどが生じるとガソリンが漏れてしまいます。この場合はレバー根元のパッキング交換が必要です。

レバーを押さえるプレートがビス留め式で、レバーの奥のパッキングが交換部品として設定されている機種なら補修が可能ですが、中にはレバー部分が非分解でパッキングが単品で設定されておらず、燃料コックアッセンブリーでしか交換できない機種もあります。

POINT

  • ポイント1・内部構造の違いによって燃料コックは重力式と負圧式の2種類に分類できる
  • ポイント2・レバー部分からガソリンが滲んだり漏れた際に燃料コックば分解できるか否かによって修理コストに大きな差がつく

負圧コックのダイヤフラムが損傷するとガソリンが流れなくなる

仕組みを知れば不具合の原因も分かる。負圧式燃料コックの構造とメンテナンスの要点を解説

コック裏側のダイヤフラムカバーを外すと、通路を閉じるバルブを押しつけるスプリングが出てくる。この負圧室にスプリングの張力に打ち勝つだけの負圧が加わるとダイヤフラムの裏側のバルブが開き、燃料タンクからキャブレターに向かってガソリンが流れる。部品として販売されているバルブの先端に付くOリングを交換するためダイヤフラムカバーを外す際は、カバーに張り付いたダイヤフラムを破損しないよう丁寧に引きはがす。

仕組みを知れば不具合の原因も分かる。負圧式燃料コックの構造とメンテナンスの要点を解説

サビだらけの燃料タンクに付いていた燃料コック内部には汚れやサビが詰まっていることが多いので、キャブレタークリーナーに漬け込んで洗浄する。パイプのストレーナー表面の汚れも歯ブラシなどで清掃する。パイプが真鍮製の絶版車や旧車用コックの中には、上部のストレーナーが脱落しているものもある。その際は目の細かい真鍮ネットをハンダで袋状に成型してパイプにはんだつけしておくと良い。

仕組みを知れば不具合の原因も分かる。負圧式燃料コックの構造とメンテナンスの要点を解説

燃料コックオーバーホールの際はレバー裏のゴムパッキングだけでなく、レバー外周部分のOリングも新品に交換する。コック本体をパーツクリーナーで脱脂するとOリングの滑りが悪くなるので、組み付け時にシリコングリスを薄く塗ると良い。

レバー根元のパッキングとともに、負圧式コックの要となるのがダイヤフラムです。先に述べた通り、負圧式コックはレバーでONやRESのポジションを決めても、エンジンが発生する負圧によってコック内部のゴムの薄膜=ダイヤフラムによって通路が開かないとガソリンが流れません。

そのため何かの理由でダイヤフラムに穴が空いたり破れたり、ダイヤフラムによって開閉するバルブのOリングが固着したりすると、燃料コックに負圧が掛かってもキャブレターにガソリンが供給されなくなってしまいます。

ガソリンタンク内の残量は充分なのに、フロートチャンバー内が空っぽになってエンストしてしまうような場合、コックの2本のパイプの詰まりとともにダイヤフラムの状態も確認しなくてはなりません。

ここで紹介しているカワサキゼファー用燃料コックの場合、レバー根元の円形のパッキングは部品として販売されている一方で、ダイヤフラムは部品設定がなくコックごと購入しなくてはなりません。ただしダイヤフラムの中心でガソリン通路を開閉するバルブの小さなOリングは単品で供給されています。

ONとRESに加えて、負圧式コックの中にはPRIというポジションがあるコックも存在します。PRIMARYの頭文字を取ったPRIの役割は重力式コックのONに相当し、負圧が加わっていなくてもガソリンが流れるのが特長です。

従って、ONやRESでガス欠症状になるのに対してPRIでは普通にエンジンが掛かるようなら、負圧で作動すべきダイヤフラム部分に不具合があると考えられます。一方、燃料タンクにガソリンが入っているのにPRI、ON、OFFのいずれのポジションでもキャブレターにガソリンが流れないのであれば、コックの2本のパイプが詰まっていると考えられます。

さまざまな理由で長期間バイクに乗らないうちにパッキングのゴムが硬化したり、コック内部のガソリンが変質して詰まることで、レバー部分からガソリンが滲んだりキャブレターにガソリンが流れなくなるのが燃料コックトラブルの典型的なパターンです。調子が悪くなった時は、負圧式コックの特長を理解した上で適切なメンテナンスを行いましょう。

POINT

  • ポイント1・負圧式コックは吸気系に発生する負圧でダイヤフラムを作動させて流路を開く
  • ポイント2・レバーにPRIポジションがある負圧式燃料コックはエンジンが始動していなくても燃料タンクからキャブレターにガソリンが流れる

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