バイクの動力源であるエンジンを人間の心臓にたとえるなら、エンジン内部を循環するエンジンオイルは血液です。

エンジン内部でこすれ合い、ぶつかり合う金属パーツを保護し、放熱性にも重要な役割を果たしているエンジンオイルは定期的な交換が欠かせません。

人気車種のヤマハSR400を例に、3回にわたってオイル交換の手順を紹介しましょう。



エンジンオイルを抜く際は、あらかじめオイルを受ける入れ物を用意してから作業を開始します。

エンジンオイルの溜め方は「ウェットサンプ」と「ドライサンプ」の2種類



エンジンオイルには潤滑や冷却、圧縮圧力の保持など重要な役割があります。

鉱物油や化学合成油といった組成、粘り気を示す粘度などオイルを分類するにはいくつかの基準がありますが、どんな高性能オイルも走行距離が増して使用期間を重ねるうちに性能が低下します。

劣化したエンジンオイルは油膜の強度が落ちることで、内部パーツの保護性能が低下してエンジンの摩耗が進む原因となるため、定期的な交換が必要です。

 

ところで、エンジン内部でのオイルの溜め方には「ウェットサンプ」「ドライサンプ」の2種類があることをご存じでしょうか? 

ウェットサンプはクランクケース内にすべてのオイルが入っているタイプで、これに対してドライサンプは、エンジンとは別の場所にオイルタンクを装備しています。

両者にはそれぞれ利点がありますが、現在のエンジンの多くはウェットサンプを採用しています。

 

1978年に発売されて以来、基本設計を変えることなく今も高い人気を誇るロングセラーであるヤマハSR400は、現在では少数派のドライサンプを採用しています。

この方式に欠かせないエンジン別体のオイルタンクとして、フレームのダウンチューブを利用しているのが特長です。

そしてドレンボルトはクランクケース下部とオイルタンク下部にあるため、オイル交換の際は2カ所のドレンボルトを外して抜くことになります。

 

POINT

・エンジンオイルには潤滑や冷却、圧縮圧力の保持など重要な役割がある

・どんなオイルでも使用を重ねるうちに性能が低下する

・エンジン内部でのオイルの溜め方には「ウェットサンプ」「ドライサンプ」の2種類

 

オイルを抜く際はエンジンを暖機してからドレンボルト外す



SR400のオイルドレンボルトはクランクケース下部、メインスタンドのピボットの真ん中あたりにあります。

工具を使う時にスタンドと干渉するので、メインスタンドを立てた状態で緩めると良い。

 

エンジンオイルの流動性を上げてスムーズに排出させるため、オイルを抜く際はエンジン温度が低い冷間時ではなく、走行後しばらく待った後の油温が高い状態で行います。

とはいえ、エンジン停止直後は油温が100度近くに達することもありますし、高温のエンジンパーツで火傷を負うリスクも高いので、適度な冷却時間が必要です。

 

ヤマハSR400のエンジン本体のオイルドレンボルトは、クランクケース下部に後ろ向きに付いています。

メインスタンドの左右軸受け部の間に挟まれた場所なので、地面に寝転んで完全に仰向けにならないと確認しづらいかもしれません。

地面に寝転ぶのはイヤという人もいると思いますが、手探りや中途半端な姿勢でドレンボルトを回そうとすると工具が外れて怪我をしたり、ボルトの角をなめるリスクがあるので、しっかり目視できる状態で作業することが大切です。

また、ここで使用する工具はスパナやモンキーレンチではなく、メガネレンチやソケット工具を選びましょう。

スパナやモンキーはボルトに対して斜めの状態でも工具が掛かりますが、締め付けトルクが大きなボルトではなめて外れやすい弱点もあります。

その点、メガネやソケットはボルトと6点で接するため回す力をしっかり伝えられるのです。

 



▲スパナやモンキーレンチでエンジン下部の17ミリのドレンボルトを緩めようとすると、工具が滑ってなめるリスクがあるので、メガネレンチやソケットレンチで作業しよう。

 

POINT

・スムーズにオイルを抜くために走行後しばらく待った後の油温が高い状態でオイルを抜く

・ドレンボルトを外す際は手探りではなく目視できる状態で作業する

・工具はスパナやモンキーレンチではなく、ナメ防止のためにメガネレンチやソケット工具を使用する

 

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ドレンボルトのガスケットは必ず交換する



クラッシュタイプのガスケットは、ボルトを締めつけることで潰れて密閉度を確保します。

そのため、一度締めつけると左のように平らになるので、毎回交換が必須です。

 



クラッシュタイプのガスケットは、薄い金属製の材料を複雑に成型しています。

ボルトとエンジン本体に挟まれることで、オイル漏れを起こさないように潰れていきます。

 

ドレンボルトを外すと、その首元にガスケットがあるはずです。

もしクランクケース側に張り付いて古いオイルと一緒に廃油入れに落下していたら、必ず回収しましょう。

ドレンボルトのガスケットは一般的なワッシャーと違って、オイル漏れを防止するためにボルトとクランクケースの僅かな隙間を塞ぐ重要なパーツです。

もし廃油入れに落下したことに気づかず、ガスケット無しでドレンボルトを復元すると、ボルトとケースの合わせ面の隙間からエンジンオイルがしみ出してくるかもしれません。

 

また、ドレンボルトを締めると、ガスケットは自らが潰れて変形することで僅かな隙間を塞ぎます。

そのため、一度潰れたガスケットを再使用することはあまりお勧めできません

特にSRも使用するクラッシュタイプのガスケットは、ボルトの締め付けトルクによってぺしゃんこに潰れて密着するので、毎回交換が原則なのです。

 

POINT

ドレンボルトのガスケットは必ず交換

・ドレンガスケットは潰れることでオイル漏れを防止する重要なパーツ

・ガスケットを使用しないとオイルが漏れる可能性がある

 

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オイルタンクのオイルは、汚れ防止のエプロンを着けてから抜く



SR400はフレームのダウンチューブをオイルタンクとして利用しており、下部のドレンボルトを外すとオイルが前方に勢いよく排出されます。

フロントフェンダーの下に段ボールを立てかけておくことで、タイヤやフェンダーを汚さずに済みます。



オイルタンク内のオイルが少なくなると勢いがなくなり、フレームに沿って垂れるように流れます。

そこでガムテープを貼っておけば、フレームやエンジンが汚れません

 

クランクケースのオイルを抜いたら、次はダウンチューブ下部のドレンボルトからオイルタンク内のオイルを排出します。

このボルトは車体前方に向いているので回しやすいのですが、何も考えずに外すとオイルはフロントタイヤに向かって飛び出して後始末がとても面倒です。

そこでボルトを外す前に、飛び出したオイルを受け流すための板をフロントフェンダーの下に置きましょう。

その板を廃油入れに入れておけば、オイルタンクから流れ出たオイルは前輪に当たったり、周囲を汚すことなく回収できます。

また、タンクから排出されるオイルの量が減ってくるとフレームを伝って流れますので、排出口の下にガムテープを貼っておくことでフレームやエンジンを汚すことなくオイルを抜くことができます。

オイルタンクのドレンボルトにもガスケットが付きますが、こちらはクラッシュタイプではなく銅のプレートタイプです。

銅のガスケットはクラッシュタイプほどではないにせよ、鉄のオイルタンクと鉄のドレンボルトに比べて柔らかい素材なので、僅かな隙間を埋めるために潰れています。

ガスケットの表面に明らかな段差が付いていたら交換ですが、ドレンボルトを外さないとそれを確認できないので、オイル交換時はあらかじめ準備しておいた方が無難です。

 



オイルタンクのドレンボルトのガスケットは銅製の一枚ものです。

クラッシュタイプのように形状が変わるほど潰れませんが、鉄製のワッシャーより軟らかいため変形して密閉を確保します。したがって、このガスケットもやはり交換が必要です。

 

POINT

オイルは勢いよく出ることがあるので注意

・あらかじめオイルのかかるところをカバーしておくと車両が汚れない

・ドライサンプの車両の場合オイルタンクのドレンボルトガスケットも必ず交換する

 

事前にドレンボルトの位置と数を確認してオイルを抜く前にガスケットを準備しておこう

オイル交換はバイクメンテナンスの基礎的な項目のひとつです。

しかし思いつきで始めてしまうと、準備不足で慌てることも多いものです。

ドレンボルトの位置や、オイルの垂れ方などをあらかじめ知っておくことで無駄な洗浄をしなくて済む、スマートな作業ができるようになります。

 

多くのライダーに愛されているSRは、ひと癖あるドライサンプモデルです。

自らオイル交換を行おうというオーナーの皆さんは、事前の予習と準備でスマートに作業しましょう。

 

POINT

・オイル交換も事前の予習と準備が重要

・ドレンボルトの位置やオイルの垂れ方を知っておくと車両が汚れずスマートに作業できる

交換時はガスケットも必ず交換

 

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