
世の中の新車がすべてフューエルインジェクションになっても、キャブレターを愛するライダーも数多く存在します。2気筒以上のエンジンにとって重要なのが同調調整には、吸入負圧測定と吸入空気量測定の二種類があり、後者の必須アイテムとなるのがシンクロテスターです。単純な構造ながら半世紀以上に渡って現役で活躍し続けるこの計器は、キャブメンテに欠かせないアイテムです。
インテークマニホールドのニップル有無でバキュームゲージとシンクロテスターを使い分ける

スロットルバルブの同調を調整する際に、キャブレターからインテークバルブまでの間で発生する吸入負圧を測定するバキュームゲージ。吸気系に負圧を取り出すニップルが付いていれば、エアークリーナーボックスがあってもスペシャルキャブレターであってもこのゲージが使える。ゲージの針は吸気系の負圧が大きいほど反時計回りに大きく回転する。

この機種の場合、インテークマニホールドのニップルにバキュームゲージのホースを差し込んで吸入負圧を測定ながらスロットル全閉時のバルブ開度を調整する。調整するキャブのピストン開度が他のキャブより大きくなると吸入空気量が増加し、それに伴って吸入負圧が低下するためゲージの針の振れは小さくなる。中央部分にスロットルケーブルが付く4連負圧キャブレターの場合、1番と2番キャブ、3番と4番キャブの同調をそれぞれ合わせて、最後に2番と3番キャブを合わせることで4つの同調が揃う。FCRキャブの場合、スロットルケーブルが取り付けられたスロットルドラムにつながるキャブが基準となり、その負圧に他のキャブの負圧を合わせて4気筒を同調させる。

でんでん虫と呼ばれることもあるシンクロテスター。シンクロと言いながら吸入空気量の測定はキャブレター1カ所ずつで行う。キャブの入り口にアダプターを押しつけると吸入抵抗が発生するが、それぞれのキャブにおいて同じ量の抵抗を掛ければ表示される数値を相対比較できるため、吸入量を合わせれば同調調整ができるというわけだ。

上の画像と同じFCRキャブレターだが、こちらの機種は純正キャブのボディにニップルがあるためインテークマニホールドから負圧が取り出せない。このような場合はバキュームゲージが使えないのでシンクロテスターの出番となる。ただし標準アダプターではテスター本体がフレームに干渉してしまうので、90°曲がったエルボータイプのアダプターが必要となる。これはホームセンターなどで売っている塩ビパイプでも流用可能。ただしキャブとアダプターの間から二次空気を吸わないよう密着させることが重要。
スロットルグリップを手前にひねるとスロットルケーブルがスロットルバルブを開き、エンジンが吸い込んだ空気にガソリンが混ざって混合気となり、燃焼室で爆発的に燃えることでエンジンが作動します。キャブレターでもフューエルインジェクションでも、2気筒以上のエンジンにとって一連の動作の中で重要な要素となるのが「スロットルの同調」です。
スロットルケーブルがスロットルバルブを開く際、1番キャブより2番キャブの方が遅れて動き出したら、あるいは1~4番のスロットルバルブの開き始めるタイミングがバラバラだったら、エンジンはスムーズに回りません。
走り初めはともかく、スロットル開度が一定以上になればバラツキの影響度は総体的に低下するので同調はさほど気にしないというライダーもいますが、どんな場面でも走行する際はスロットルは全閉から徐々に開き始めます。そのため同調が合っていないとエンジンの回転がバラつき、走りがギクシャクする大きな原因になります。
スムーズな吹き上がりに重要な同調調整とは、スロットル全閉時の吸入空気量を揃える作業であるということができます。ピストンバルブ式も負圧式も、スロットルグリップ部分で全閉であっても、アイドリング回転に必要な空気が通るためスロットルバルブはわずかに開いています。スロットルバルブが完全にベンチュリーを塞いだらエンジンは窒息状態になって止まってしまうからです。
インテークマニホールドやシリンダーヘッドに吸入ポートに発生する負圧を測定できるニップルが付いている機種の場合、バキュームゲージのホースを接続して吸入圧力が測定できるので、各キャブレターのスロットルバルブ開度を増減させて吸入負圧値を揃えることで同調を合わせることができます。
一方、ニップルがない機種はバキュームゲージを取り付けられないため、吸入負圧ではなく吸入空気量によって同調調整を行い、この作業でシンクロテスターを活用します。シンクロテスターをキャブレターの入り口側に押しつけてエンジンを始動すると、テスターを通して空気が吸い込まれて内部のフラップが作動し、通過する空気量を数値として表示します。
ファンネル仕様の場合、テスターを取り付けるか否かで吸気抵抗が変化します。しかし各キャブに順番にテスターをセットすることで生じる抵抗は同じなので、表示される数値を揃えることでテスターを外した際に吸い込まれる空気量が揃って同調が取れたことになるのです。
一般的に4ストローク車のキャブはバキュームゲージで同調を取り、シンクロテスターを使うのは2スト車というイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。キャブ本体にニップルが付いた純正キャブをアフターマーケットのスペシャルキャブに交換したような場合、4ストローク車でもシンクロテスターによる同調調整を行うことがあります。
そもそもこのシンクロテスターは、ソレックスやウェーバーといった自動車用のスペシャルキャブレターの同調調整用として、半世紀以上前から4ストロークエンジンの調整アイテムとして多くのチューナーに愛用されてきた定番アイテムなのです。
- ポイント1・マルチキャブレターのスロットルバルブ開度を揃える同調調整を行う際にはバキュームゲージかシンクロテスターのどちらかを使用する
- ポイント2・吸気系に負圧を取り出せるニップルがないエンジン(またはキャブレター)の場合はシンクロテスターで吸入空気量を測定して同調を調整する
エアクリーナーボックスを外したり自作アダプターが必要になることもある

シンクロテスター純正のゴム製アダプターは汎用性の高いテーパー形状。そもそも自動車のキャブレター調整用に生まれた工具なので、バイクの小排気量車用キャブに対しては口径が過大となることもある。

ファンネルが付かない純正キャブの場合、前面ギリギリにエアーポートが開口していることも多く、シンクロテスターのアダプターの当て方に悩むこともある。そこでエアクリーナーボックスのクランプ径に合わせた穴を空けたゴム板を用意してキャブレターに取り付けて、この板にテスターのアダプターを押しつけることにする。それならエアーポートも塞がず二次空気を吸い込む心配もない。

テスターを当ててエンジンを始動すると、ゲージ部分の針が吸入空気量を示す。この機種は2気筒エンジンなので、アイドリング時の左右の吸入量を合わせながらアイドリング回転数も適正に調整しなくてはならない。2種類の調整をいずれもスロットルストップスクリューで行うので、エンジン回転と吸入量の微妙な調整が不可欠。この調整が終わったらスロットルケーブル自体の遊び調整を行う。つまり順番はスロットルストップスクリュー→ケーブルの遊び調整となる。
インテークマニホールドやシリンダーヘッドやキャブレターボディにニップルがあれば、負圧ホースを差し込むだけで測定が可能なバキュームゲージに対して、シンクロテスターで同調調整を行う場合、機種によって事前の準備が面倒な場合があります。
先の通りシンクロテスターはキャブレターの入り口に押しつけて測定を行うため、エアクリーナーボックスは取り外さなくてはなりません。またキャブレター後方のクリアランスが少ない機種はテスターがセットできないこともあります。さらにキャブの口径とテスターのアダプター口径が合わない可能性もあります。
このような場合、市販品や自作品でアダプターを用意してキャブとテスターを接続する工夫が必要です。アダプター追加によって吸入抵抗が増加する場合、アダプターが必要なキャブボディと不要なボディの吸気条件を揃えるため、すべてのボディの吸入空気量をアダプター付きで測定するのがポイントです。同調調整で重要なことは絶対的な吸気量ではなく、それぞれのボディの吸気量を総体的に合わせることであることを理解しておきましょう。
使用する道具がバキュームゲージでもシンクロテスターでも、スロットルバルブ開度を揃える同調調整という作業自体には変わりはありません。しかしキャブレターの種類によって手順が若干異なります。
シンクロテスターで同調調整を行う場合、隣り合うボディのスロットルバルブがリンクで連結されているキャブレターであれば、リンク間にセットされた調整スクリューまたはスロットルバルブ自体の調整機構を調整して吸入空気量を揃えれば、アイドリング回転数はスロットルリンク部分のアジャスター一カ所で調整できます。
しかしスロットルケーブルでスロットルバルブを直接操作するキャブレターの場合、それぞれのキャブのスロットルストップスクリューによって同調を合わせるため、アイドリング回転数と同調調整を同時並行的に行わなくてはなりません。
例えばここで紹介する2気筒エンジン用キャブの場合、左右の吸入空気量を揃えるためにスロットルストップスクリューを調整するとアイドリング回転数も変化してしまい、一方のスクリューで回転を下げると吸入空気量も減ってしまいます。1960~70年代のバイクのサービスマニュアルを見ると、キャブレターの同調調整の際にはマフラー出口に手をかざして排気ガスの圧力差を感じ取ってスロットルストップスクリューを回すというような記述もありますが、それは吸入空気量が同量なら燃焼で発生する圧力も同じという理屈に基づいています。
リンクで連結されたキャブは先に同調を合わせた後でアイドリング回転数を調整できるのに対して、それぞれのスロットルバルブをスロットルケーブルで直接開閉するキャブの場合は、同調を合わせる際にアイドリング回転数も変化してしまうことを念頭に作業を行います。そして同調とアイドリング回転数の調整が完了した後に、スロットル操作時に左右のバルブが同じように開き始めるようにスロットルケーブルの遊びを調節します。
ケーブル引きのキャブレターとシンクロテスターを組み合わせた同調調整は、リンク連動キャブとバキュームゲージの組み合わせよりも手順がやや面倒なところもありますが、同調を合わせたエンジンはアイドリングが滑らかな上に発進時の回転上昇にバラつきがなくスムーズな走行が可能になるので、メンテナンス時に実践してみると良いでしょう。
- ポイント1・シンクロテスターはキャブレターの前面に取り付けるため測定時はエアークリーナーボックスの脱着が必要
- ポイント2・スロットルケーブルでスロットルバルブを直接開閉するピストンバルブキャブレターは同調調整とアイドリング回転調整を同時に行う
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