
「減らないシリンダーを造りたい!」との思いから、様々な技術にチャレンジし続けているのがiBこと井上ボーリング。放熱効果が高いアルミスリーブに、特殊メッキを施した「ICBM」シリンダーは、多くの旧車ファンにとって気になる技術となっている。ここでは、ホンダ60sの代表的な旧車として知られるスーパースポーツモデル、ホンダCB72(ナナニイ)のシリンダーに施した、最新内燃機加工技術に注目しよう。
美しい仕上がりのオールアルミシリンダー
ダイヤモンドの砥石で仕上げられるシリンダー内壁。砥石の幅や長さ、拡張圧などノウハウが数多くあるようだ。表面硬度が硬過ぎると馴らし運転ができないので、ICBM(登録商標I/イノウエボーリング・C/シリンダー・B/ボア・M/メゾット)の場合は、プラトーホーニング仕上げがセットになる。スリーブ状態でメッキを施し、外径や全長をCB72シリンダーのサイズに削って仕上げられる。このCBナナニイはSTDボアのφ54mmでメッキ化を実現している。写真中の右側がΦ54mm指定で特殊メッキ処理を終えたところで、左がCB72サイズに外径と全長を削って外寸を仕上げた状態。シリンダーボア=内径のホーニング仕上げは、シリンダーブロックへ圧入した後に実施する。温めたシリンダーから鋳鉄スリーブを抜き取り、シリンダーにアルミスリーブを圧入。この作業はシリンダーを熱した後に油圧プレスを使って素早く作業進行。圧入後もシリンダーが冷えるまでは、プレス機にセットしたままで、スリーブが浮き上がらないように押さえ続けられる。
特殊メッキをダイヤモンド砥石で仕上げ
ボアツイズφ54mmのホンダ純正STD=スタンダードサイズピストンに合わせて加工進行。このピストンボアに合わせてクリアランスを正確に設定してホーニング仕上げが施される。スリーブ圧入後のシリンダー内径をホーニング。ダイヤモンド砥石で仕上げ寸法を出した後、プラトー専用の砥石で仕上げられる。右がメッキ後のホーニング用ダイヤモンド砥石で左がプラトー仕上げ用の砥石。
1/1000mm単位で「砥石」研磨仕上げ
ホーニング後の仕上げでシリンダー上面(ヘッドガスケット面)を研磨。ダイヤルゲージを用いて正確にシリンダーを設置。最低限の取り代で極めて高い面粗度に仕上げられる。加工部品のセットアップだけではなく、面研磨完成直前の研磨エッジの除去など、繊細に配慮されながら研磨作業が進む。研削ではなく本当の「研磨=高精度な砥石研磨」によるガスケット面の美しさに注目。iBの技術の粋を投入し、美しい仕上がりを見せるCB72シリンダー。プラトー仕上げは、平滑面ながらオイル溜りが深く、一見クロスハッチ(ホーニング目)が粗いように見えるが、ピストンが摺動する部分の粗さは一般ホーニングの1/10程度しかない。
「CBナナニイ」というバイクの存在
ホンダ初の世界戦略スーパースポーツモデル。神社仏閣デザインと呼ばれたC70/71/72/75/76に搭載されたエンジンをベースに、高速化チューニングが施されている。250ccモデルの車名が「72/ナナニイ」で、305ccの自動二輪モデルが「77/ナナナナ」と呼ばれた。純粋なレーシングホモロゲーションモデルのCRシリーズに対して、市販ロードスポーツの中でも「スーパースポーツ」モデルとしてロングセラーモデルを誇った。発売開始は1960年で、1967年まで仕様変更を繰り返しながら販売された。当時のライバルモデルは、ヤマハYDSシリーズ、スズキTシリーズ、カワサキAシリーズ。
取材協力:iB井上ボーリング Phone 049-261-5833 https://www.ibg.co.jp/
- ポイント1・現代の技術で旧車エンジンでも延命できる
- ポイント2・オールアルミシリンダーによって放熱効果が圧倒的
- ポイント3・表面硬度が極めて高い特殊メッキによって減らないシリンダーを実現
様々なボアサイズ=ピストン径に対応できるようになった井上ボーリングのICBM技術。ここに紹介するシリンダーは、1960年代を代表するホンダのスーパースポーツモデル、CB72用だ。CB72のスタンダードボアサイズはΦ54mm。旧車レースにエントリーしているユーザーさんから受注したそうだ。常時高回転ユースで、最高性能を引き出し続けて走るレースシーンでは、このような新技術は受け入れられやすい。
一方、ストリートシーンではどうだろう?おそらくレースシーン以上に効果的なのが、実はストリートユースかも知れない。エンジンにとって熱のコントロールは特に重要だが、既存の鋳鉄スリーブからアルミスリーブになることで、放熱性能が圧倒的に良くなる。それにより、渋滞路におけるオーバーヒート対策としてもアドバンテージを見込むことができる。オーバーヒートが原因で、様々なエンジン部品に悪影響を及ぼすケースが多くあるが、そんな懸念も最小限にできるのが、高い放熱効果や熱伝導性が良いオールアルミシリンダーとも言える。
しかもピストン摺動面には極めて硬度が高い特殊メッキ(ニッケル・シリコン・カーバイト系で耐摩耗性が極めて高い特殊メッキシリンダー)を施すことで、シリンダーが減らないのも大きな特徴である。実はこの技術、現代のエンジンでは当たり前の技術である。補修部品のメーカー純正シリンダー(純正部品)を製造納品してきた井上ボーリングだからこそ可能になったのが、このシリンダーの製造技術普及である。自動車メーカーの量産シリンダーメッキを担当するメーカーへメッキ依頼している。まさに信頼の技術を我々一般ユーザーへ提供してくれているのが井上ボーリングでもあるのだ。
カワサキZ1のように、受注数が圧倒的に多いモデルには、特殊メッキ&ホーニング済スリーブのキット販売例(EVERSLEEVER/エバースリーブ)もあるが、仮に、希少モデルであっても、ボア寸法が適合サイズ範囲であれば、様々なモデルでICBM化は可能である。ボアサイズ的には、Φ52~100mmが対応可能だが、Φ92~94までの寸法に限っては、現状では受注できないそうだ。施工モデルの実績は、例えば、最小ボアならΦ52mmのZ400FXシリーズ、Φ64mmならZ2やRZ350、Φ70mmの初期シリーズのヤマハセロー、Φ73mmのGPz900Rニンジャ、Φ78mmのGSX1100SカタナにDトラッカー、Φ85mmならBSAゴールドスター、Φ86mmならノートンマンクス、Φ100mmなら4輪のベンツでも加工実績があるようだ。また、スペシャルピストンでボアアップしたスズキGSX1300RハヤブサをICBM化した実績もある。
旧車に現代の技術を投入することを称して、井上ボーリングでは「モダナイズ」と呼んでいるが、そんなモダナイズ技術は、年々増えているそうだ。
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