ディスクブレーキキャリパーのシール溝に溜まる汚れは想像以上に頑固で、場合によってはピストンシールやダストシールに悪影響を与えます。その際に活用したいのがシール溝のクリーニングに特化した工具です。ピックツールやアイスの棒などいくつかの代用品がありますが、鋭い角とスクレーパーのような掻き落とし能力は専用工具にはかないません。

ブレーキフルードと水分によるカチカチの結晶がシール溝に堆積すると……

ピックツールやブラシでは取り切れない汚れが落ちるキャリパーシール溝クリーナー

10年ほど前はかなり特殊な工具だったブレーキキャリパーシール溝クリーナーだが、現在では多くの工具メーカーからリーズナブルなアイテムが数多く発売されている。この製品は工具ショップストレートから発売されているキャリパーホジ郎。自動車用は先端がT字型なのが一般的だが、バイク用に特化したこの製品は小径ピストンに対応できるL字型。

ピックツールやブラシでは取り切れない汚れが落ちるキャリパーシール溝クリーナー

先端部分は角断面でシャープな仕上がり。ピストンシール溝に当てて擦ることで隅部分に付着した堆積物もきれいに除去できる。

ブレーキキャリパーのメンテナンスで最もポピュラーな作業といえば、キャリパーピストンの揉み出しでしょう。キャリパーボディからせり出したピストン外周に付着したブレーキダストをブレーキクリーナーや中性洗剤で清掃し、シリコングリスや金属とゴムの接触部分を潤滑するMR20をスプレーすることでピストンの動きがスムーズになり、パッドの引きずりも解消できます。

一方、何の手入れもせずノーメンテ状態で乗り続ければさまざまな不具合が発生しますが、中でも典型的なものがシール溝に発生する堆積物です。空気中の湿気や水分とブレーキフルードが反応して生じる白っぽい結晶は、主にキャリパーシール溝とゴムシールの間に付着します。

軽度なうちは、揉み出しの際に水の入ったバケツにキャリパーを丸ごと浸けながら、中性洗剤で洗浄することで氷砂糖が溶けるように溶解しますが、ノーメンテ状態で堆積物が増加すると次第に簡単には落ちなくなってきます。

ダストシールは雨天走行時にタイヤが跳ね上げた水分に触れる機会が多く、シール溝の奥で結晶が成長してシールを押し出してしまうこともあります。これはノーメンテならではのキャリパーピストン表面の潤滑不良との合わせ技でもありますが、パッドが摩耗してピストンのせり出しが増えた状態でシール溝の底で堆積物が成長することで事実上溝が浅くなり、シールがめくれてしまうのです。

堆積物が成長する前に清掃しないのが悪いというのが正論ですが、シール溝に汚れが詰まった状態のキャリパーからピストンを抜いて新品シールをセットしても、その性能を100%発揮することはできません。それどころかシール溝に堆積物が残った状態ではシールに加わる圧力が均等にならず、ピストンの動きが悪くなる場合もあります。

シール溝を清掃する場合、ダストシールとピストンシールを取り外す=キャリパーピストンを取り外すことからキャリパーオーバーホールとなり、揉み出しのように誰でもできる作業というわけにはいきません。しかしキャリパー溝をしっかり清掃することで、新たに組み付けるシールは正しく仕事をしてくれます。

POINT

  • ポイント1・ディスクブレーキの性能を常に安定させるにはブレーキキャリパーピストンの揉み出しを行うことが有効
  • ポイント2・定期的なメンテナンスを怠るとキャリパーシール溝に堆積物が生じてシール性能を低下させる

シール溝壁面と底面の汚れをスクレーパーのように掻き落とせるのが魅力

ピックツールやブラシでは取り切れない汚れが落ちるキャリパーシール溝クリーナー

ピックツールではピンポイントになりすぎ、精密ドライバーでは隅の汚れを掻き出せないが、T字型ヘッドの専用ツールならダストシール溝に溜まった堆積物を効果的に除去できる。

ピックツールやブラシでは取り切れない汚れが落ちるキャリパーシール溝クリーナー

ツール先端の幅とシール溝の幅が近ければ、1ストロークで清掃が完了する。

シール溝に溜まった汚れは硬く、ガッチリ固着しているのが常です。これを落とすにはピックツールや精密ドライバー、ペンシルリューターに取り付けて回す真鍮製のホイールブラシなどを使うのがかつての定番でした。

しかし現在ではシール溝用の専用工具があります。溝の内部に接する部分はレーザーカッターでシャープに切り出されて硬度が高く、溝の壁と底に付着した汚れをベタ当たり状態で掻き落とすことができるのが大きな特長です。

溝の角部分にピンポイントで届くが面で清掃できないピックツールや、ある程度の面は削れるが角部に届かないドライバーの歯がゆさをすべて解決してくれるのが強みで、どのブランドの製品も90°に曲げられた先端部分で溝の手前の壁面の汚れを擦り落とすことができます。

カッターナイフやスクレーパーのような「刃」ではなく、「角」と「面」で擦ることで溝内を傷つける心配が少なく、頑固な堆積物も力を入れて掻き落とせるので徹底クリーニングにもってこいです。

つてはプロメカニック向けで価格が高く、自動車用メインでピストン径が大きめだったのがバイクユーザーにとっての弱点でしたが、現在では原付クラスの小径ピストンキャリパー対応の製品もあるので、シール溝にカチコチの汚れが堆積しているのを見つけてしまったら、交換用のシールとともに専用工具も準備してオーバーホール作業に取り掛かりましょう。

POINT

  • ポイント1・キャリパーピストンシールやダストシールを交換する際はあらかじめシール溝の汚れを取り除く
  • ポイント2・シール溝清掃用の専用工具を活用することで代用品に比べて短時間で効率の良い清掃が実践できる

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