
原付からビッグバイクまですべてのバイクが装備するホーンは、バッテリーの電力によって作動します。自分の存在を相手に知らせたり注意を促す際に大きな音で鳴り響く仕組みを知ることで、作動しなくなった時の対処方法が分かってきます。ここでは多くのバイクに装着されている平型ホーンの作動原理とトラブル事例を紹介します。
接点の断続によって振動板が連続的に震えることで作動するホーン

現在の主流であるかしめタイプより以前には、リベット止め(右)やビス止め(左)のホーンもあった。ホーンは分解整備を行う部品ではなく、内部パーツが破損した場合も補修部品は供給されていないが、絶版車や旧車にはノスタルジックなデザインの旧式ホーンの方が相応しいこともあり、修理してでも使いたいというユーザーも少なくない。

ホーンの鳴りが悪い場合、電源直結状態で確認してみる。ホーンの回路はバッテリー→ホーンボタン→ホーン→車体アースで構成されている場合が多く、アース不良が原因で作動不良を起こすこともあるからだ。単体で調子良く鳴る場合、ホーンボタン接点のコンディション確認も重要。

ホーンボディにビス留めされた部品は共鳴板のカバーで、これ自体はホーンの機能を左右するものではない。左側のボディで半割にしたドーナツのように盛り上がっている部分が共鳴板で、その下の平らな円盤がダイヤフラム。
日常生活であらためて意識する機会は少ないかも知れませんが、私たちの身の回りにあるさまざまな「音」とは、その物体から発せられる空気の振動のことを指しています。ギターやバイオリンなどの弦楽器は、弦が震える際の振動をボディに共鳴させて音を発生します。
バイクや自動車に装備されるホーンも同様で、一定の周期で震えるダイヤフラム(振動板)の音が本体前面の共鳴板で増幅されて大きな音として伝わります。ここで重要なのは、振動板が連続的に振動し続けるということです。そのためホーンには、スイッチを入れている間に電流が自動的に断続するメカニズム、具体的には電磁石が内蔵されています。
ホーンが鳴る時に振動するダイヤフラムには、ボディ側に伸びるシャフトとホーン配線からつながる接点があります。またホーンボディ底部にはコイルが内蔵されています。ホーンボタンを押すと、ダイヤフラムの接点からコイルに電流が流れて電磁石となり、ダイヤフラム中心のシャフトがコイル側に引き寄せられてボディ底部に衝突します。この際の衝突音が共鳴板で増幅されて大きな音となりますが、シャフトが一度衝突しただけでは連続音にはなりません。
ホーンが連続音として聞こえるのは、コイルに電流が流れてダイヤフラムが引き寄せられると、ダイヤフラム部分の接点が離れるためです。電磁石の力でシャフトがボディ底部に衝突する際には接点が離れて電磁石の能力が失われるため、ダイヤフラムは元の位置に戻ります。すると接点が再び閉じてコイルが電磁石となってダイヤフラムを引き寄せ、シャフトがボディ底部に衝突して音が発生します。
これを短い周期で繰り返すことでダイヤフラムは連続的に振動する状態となり、共鳴板で増幅された音が連続的に鳴り響きます。ホーンの周波数は300~400Hz近辺の場合が多く、これはダイヤフラム中心のシャフトとボディが1秒間に300~400回衝突している状態となります。例えば400Hzのホーンの場合、接点は0.0025秒に一度断続していますが、私たちの耳でそのオンオフは聞き分けられないので連続音として認識しているわけです。
シングルホーンが単音なのに対してダブルホーンが複音として聞こえるのは、ピアノの鍵盤をひとつだけ押さえるのと複数で押さえるのでは音の響きが異なるのと同じ原理で、ダブルホーンの低音と高音で異なる周波数を発生するためです。
- ポイント1・ホーンは電磁石によって引き寄せられた部品が衝突した際に発生する音を共鳴させることで作動する
- ポイント2・電磁石への通電を1秒間に数百回断続させることで連続的な音として聞こえるようになる
振動板の中心にあるシャフトがスムーズに動くことが重要

ダイヤフラム裏側の中心に付いている円柱がシャフトで、ボディ底部のコイルが通電して電磁石になると引き込まれて奥に衝突した際の音が大きく響く。シャフトが引き込まれると接点が開いてコイルへの電流が遮断され、ボディ側に凹んだダイヤフラムが元の位置に戻るとシャフトも引き抜かれる。すると再び接点が閉じてコイルに電流が流れてシャフトが引き込まれて衝突する……。周波数400Hzのホーンはこの動きを1秒間に400回行うことで振動板が震え続けて連続音となる。

接点の片側はシャフト根元にあるフランジに接しており、ホーンボタンを押して通電しシャフトが引き込まれると接点が離れる。作動しない間は接点が閉じており、作動しても高速で開閉するため、サビが発生する可能性は低いが、表面が荒れたり焼損する可能性はある。分解できるタイプなら、接点間にサンドペーパーを挟んで行う清掃は有効だ。

シャフトが錆びてコイルに干渉すると動きが悪くなり設定通りの振動をしなくなる場合がある。分解時にシャフトに引っかかりを感じた場合はワイヤーブラシやサンドペーパーで汚れやサビを取り除いておく。

ボディ裏に音量調整用ネジがある場合、最も大きな音で鳴るように調整する。濁ったような音がする場合も、調整次第で澄んだ音で響くようになる。
電磁石への電流の断続を短い周期で行うことで、シャフトとボディを連続的に衝突させて作動するホーンが鳴らなくなる場合、接点の焼き付き、シャフトの固着、コイルの破損、ダイヤフラムの破損など、いくつかの原因が考えられます。
現行モデル用の平型ホーンはほぼすべてボディがかしめられているため、先のような不具合があっても分解して中身を確かめることはできず、基本的には交換するしかありません。そもそもホーンに流れる電気に問題がある場合、つまりホーンボタンを押してもホーンに電流が流れていない場合は、車体側のメンテナンスが必要です。別の機会に投稿したホーンボタン接点の接触不良による不具合は、絶版車の場合は確認が必要な項目となります。
分解が難しいかしめタイプのホーンに対して、1960~70年代の絶版車に装着されたホーンの中には、ビスで組み立てられた分解可能なものもあります。ここで紹介しているのは共鳴板カバーにSの文字が刻印された1960年代のスズキ車用ホーンです。外周部の5個のビスを外すとカバーが外れて、共鳴板と一体となったダイヤフラムを取り外すとボディ内部が露わになります。
先に解説したホーンの原理を元に作動不良を考えると、コイルの破損を別にすれば疑わしいのは接点とシャフトです。接点が焼損して接触不良状態になっていれば、ホーンに電流が流れてもコイルに電流が流れずダイヤフラムが引き寄せられません。ホーン内部の接点はポイント点火車のコンタクトブレーカー接点ほど過酷な状況ではありませんが、ハンドルスイッチのホーンボタン接点が焼損することもあることを考慮すれば電流が断続するホーン内部の接点に何らかの変化があってもおかしくはありません。
雨天走行時に雨水が当たりやすい場所にあるホーンにとって、内部のサビが作動不良に原因となることもあります。現行のかしめタイプの耐水性は優秀ですが、絶版車や旧車用ホーンの中には経年劣化による水分浸入が発生する物もあります。このホーンもまさにそのパターンで、ボディ内部のビスやダイヤフラム中心のシャフトが錆びていました。シャフトがサビてコイルのケースに固着すると、コイルに通電してもダイヤフラムが動かずホーンは鳴らないので、サンドペーパーなどでサビを取り除きます。
ホーン内部の接点やシャフトのメンテナンスができるのはボディが分解できる旧式のホーンだけで、かしめタイプのホーンが鳴らなくなったら本体を交換するしかありません。しかし構造と作動原理を理解しておくことで、何かの異常が発生した際に原因を推測して的確な対応ができるようになるはずです。
- ポイント1・現行のホーンはかしめ組み立てタイプなのに対して絶版車や旧車用には分解が可能なものもある
- ポイント2・ホーンの作動不良には接点やダイヤフラムシャフトの腐食、コイルの破損などいくつかの原因が考えられる
この記事にいいねする
自分も旧車バイクのホーンを修理していました。
バッ直で接続し、調整用ネジをいくら回してもホーンの音が弱い。仕方がないので、そのホーンは故障しているものとみなし、カシメを分解して中を調べると錆だらけでした。これでは接点も動かないはずだわ、と感じました。
巷のネット上では、ホーン不鳴ならとにかく調整ネジ回せ、ホーン叩いてみろ、ホーンスイッチの異常疑え、で結論終わっているものが多いです。ホーンは電磁石である、雨かかるから錆びて接触不良する、というところまで踏み込んでコメントしているあなた方のサイトは信頼できます。(毛細管現象でホーン接続端子から雨が吸いあがり、電線自体の抵抗値が高くなる、という現象すら、私は何度も経験しています)
これからもWebike Plusのサイトは拝見させていただきます。