
足周りのコンディションによってバイク全体の印象は大きく変化します。経年劣化でくすんだ塗装を再ペイントすれば、それだけでグッと引き締まって見えるもの。ホイールのリフレッシュやメンテナンスでベアリング交換を行うことも多いですが、圧入前にホイールハブの加工部分をよく確認することが重要です。
タイヤを空転させると押し歩きでは分からないベアリングの劣化を実感できる

ホイールやブレーキなどの足周り部品の状態によってバイク全体の印象が大きく変化する。1908年代のキャストホイール車の中には塗装と切削仕上げを併用している機種も多かった。カワサキGPZ400Fもそんな1台だが、1990年代に輸出専用車として販売されたモデルは全面塗装仕様となっていた。

普段はブレーキローターに隠れて見えないホイールハブは20年以上の汚れが堆積している。汚れるたびに小まめに洗車できれば良いが、手入れを先送りにすることでしつこく落ちづらい汚れに変化してしまう。ホイールベアリング交換に合わせて国内仕様のような塗装+切削仕上げに変更する。

リムとスポーク側面をポリッシュ仕上げとすることで同じホイールとは思えないほど質感が向上した。足周りが輝くことでバイク全体のグレードもアップする。
絶版車のイメージを左右する重要なポイントのひとつが足周りのコンディションです。靴に気を遣う人はオシャレなように、ホイールやブレーキがきれいなバイクは美しく見え、また足周りに配慮するオーナーのバイクはブレーキの引きずりやホイールベアリングのメンテ不足もなく、押し歩いただけで好調さがうかがえる場合が多いものです。
ペイント仕上げのホイールの場合、走行中の雨水や砂利が当たりブレーキダストが付着するなどの経年変化による塗膜劣化は避けられません。定期的に洗車していても、いつの間にか塗装がくすんで見栄えが悪くなっていた……というのは仕方のない話です。
見た目の問題だけでなく、足周りにとってはホイールベアリングの状態も重要です。重い車重を受け止めながら回転を続けるベアリングにとって、グリスだけが潤滑の頼りです。グリスを封入してくれるシールベアリングはともかく、オープンタイプのベアリングは水分やホコリや砂利の混入という構造的な問題があります。それを防ぐためにホイールカラーの付け根にダストシールが組み込まれていますが、これもまた経年変化によるリップの硬化やカラー自体の摩耗が生じるリスクがあります。
ベアリングの劣化に気づかずにいると、リテーナーが割れてボールが一カ所に偏って脱落したり、内輪と外輪がロックした状態でアクスルシャフトが削れたり、内輪とアクスルシャフトがロックして外輪がホイールハブを削りながら回転したりと、さまざまなトラブルにつながります。ベアリング自体はとうの昔から悲鳴を上げているのに、バイクとライダーの慣性重量が加わることで無理やり回転させられて破壊するというのが、メンテナンス不足のホイールベアリングの末路です。
こうしたトラブルを未然に防ぐには、タイヤを浮かせてホイールを空転させ、さらにはタイヤを取り外してベアリング内輪を指で回してフリクションや違和感の有無を確認するのが有効です。ステアリングステムベアリングと同様に、ベアリングに掛かる慣性重量を軽減することで状況把握が容易になります。
押し歩きで違和感がなくても、ベアリングの内輪を回してゴリゴリ感があれば交換時期と判断して良いでしょう。この時、ホイール自体を再塗装やポリッシュで仕上げることでくたびれた外観をリフレッシュすれば一石二鳥となるでしょう。
- ポイント1・車重などの負荷が加わって回転するホイールベアリングの潤滑不良やダメージは進行するまで認識しづらい
- ポイント2・ホイールベアリングのコンディションを確認するにはタイヤを浮かせてホイールを空転させるか、タイヤを外してベアリング内輪を指で回すと分かりやすい
ディスタンスカラーがちょうど良く収まるようにベアリングを圧入する

この機種の場合はホイール右側が基準となり、ベアリングは底に突き当たるまで圧入する。穴に圧入する場合は外輪を叩き、軸に圧入する際は内輪を叩くのが鉄則だ。フリクションロス軽減の観点で言えばシール無しベアリングの方が有利かも知れないが、耐候性を考えて純正指定のシールベアリングを装着する。

基準側と反対の圧入部は奥の形状が異なる。内径はベアリング外径に合わせて加工されているが、圧入深さを決めるツバはない。奥の未加工部分まで圧入すると、ディスタンスカラーは内輪を押しすぎてしまう。

ディスタンスカラーをハブに挿入する前に両端部の状態を確認する。端部が押しつぶされたように変形している場合は、ベアリングの圧入量が深すぎた可能性がある。

ベアリングはディスタンスカラーが傾いていない状態で圧入する。内輪とディスタンスカラーは強く当たりすぎず隙間ができない位置に調整する。深く圧入しすぎるとディスタンスカラーが基準側のベアリングを押し出してしまうので、内輪とカラーが接近したら特に慎重に作業する。

ブレーキローターボルトにネジロック剤が塗布してある場合、雌ネジ側に残った分をタップで取り除いておく。再ペイントを行った場合、塗装剥離用のサンドブラストメディアを清掃する目的もある。

ローターを取り付ける前にボルトをねじ込み、最後まで入ることを確認しておく。たったこれだけのことでスムーズな組み立て作業が可能になる。
ホイールベアリングを新調する際は組み付け順序に注意が必要です。国産車の大半が採用するボールベアリングの場合、多くがベアリングを圧入するホイールハブの加工が左右非対称になっています。具体的には片側の圧入部には明確な底があり、反対側はそうではないというパターンです。
この場合、ベアリングがホイールハブに当たって止まる側を先に奥まで圧入します。次に反対面からディスタンスカラーを挿入して、ベアリングの内輪が接触するまで圧入します。後から圧入するベアリングはディスタンスカラーの接触によって圧入量を決めるため、打ち込みすぎれば先に圧入したベアリングの内輪を押してしまい、外輪と内輪の中心がズレてフリクションロスになるのと同時に、摩耗によってベアリングの寿命を縮める原因にもなります。
一方で後から打ち込むベアリングの圧入量が足らずに内輪とディスタンスカラーに隙間が残った状態でホイールを車体に取り付けると、アクスルシャフトの締め付けによって内輪が内側に寄って、やはり外輪と内輪のセンターがズレて余計な力が加わってしまいます。ベアリングを受けるストッパーのある側を基準として先に打ち込み、反対側は内輪とディスタンスカラーの接触具合を確かめながら圧入量を調整します。
フロントフォークとスイングアームのアクスルシャフトを締め付けた時に、左右からホイールカラーやスピードメーターギヤがベアリング内輪を押し、内輪がディスタンスカラーを挟み込んだ時に回転中心が外輪の中心と一致する位置に圧入されているのが理想です。
深く圧入しすぎてディスタンスカラーが左右の内輪に対して突っ張った状態になると指で回すにも重すぎ、圧入量が不足しているとディスタンスカラーがベアリング間で遊んでしまうので、打ち込み時は慎重な作業が必要です。この調整もまたステムベアリングのナット締め付けと同様に、微妙な力加減と経験値が求められる部分です。
明らかなゴリゴリ感があるような場合は別として、ホイールのお色直しに合わせて予防整備的に行うベアリング交換では、作業前後で明確な違いを感じられないこともあるかもしれません。潤滑状態が良ければ数万kmの走行でもまったく問題なく使用できる例もあります。
しかしその一方で、先に挙げた事例のように壊滅的なダメージを負うこともあります。ベアリングの劣化は車両ごとにまちまちなので、タイヤを浮かせてホイールを回転させて、スムーズに回転するかどうかを定期的に確認することをお勧めします。
- ポイント1・ホイールベアリングの圧入部分は機種によってハブの左右で形状が異なり圧入順序も決まっている場合がある
- ポイント2・ハブの内部に収まるディスタンスカラーは、内輪がピッタリ接触するよう左右のベアリングを圧入する。
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