
むやみに鳴らすのはNGですが、必要な時に鳴らないと困るのがクラクションです。ボタンを押せばいつでも鳴るのが当たり前、車検付きバイクなら検査時に作動チェックもありますが、押しても反応が悪かったり鳴らない時はメンテナンスが必要です。
作動不良時はクラクション本体とボタン接点の両面からチェック

クラクションボタンはハンドル左スイッチボックス内にあり、内部は長期間の使用によってホコリや油分で汚れていることが多い。ウインカースイッチの下に組み込まれているクラクションボタンを取り外す際は、小さなビスがどのように機能しているのかをよく観察して慎重に作業する。

プッシュキャンセル仕様のウインカースイッチがアッセンブリー状態で取り外せることが分かり、その下のクラクションボタンも比較的簡単に取り出すことができた。この機種はボタンと基板が一体だったが、ボタン、スプリング、基板がバラバラになるタイプは部品構成をしっかり観察してから取り掛かろう。
相手に注意を促したりあいさつ代わりに使うこともあるクラクションですが、道路交通法上は使用条件が細かく規定されています。具体的には「警笛鳴らせ」の標識がある場所や左右の見通しがきかない交差点や曲がり角などが該当し、他の車両に注意を促したり道を譲ってくれた対向車両に感謝を示すような使い方は、実は正しい使い方ではありません。もちろん、とっさの危険を回避するための使用は認められていますが、基本的はそうした事態に遭遇しないよう安全に走行することが前提となっています。
そんなクラクションですが、必要な場合に使えなければ意味がありません。250cc以上のバイクでは、継続車検の検査時にクラクションが鳴るかどうかも検査します。したがって、使わないから鳴らなくても良いというわけではありません。
ボタンを押してもクランクションが連続的に鳴らない、または鳴ったり鳴らなかったりする時のメンテナンスは、クラクション本体と操作ボタンのどちらが原因かを探りながら行います。ボタンを押しながらドライバーの柄などでクラクションを軽く叩くと鳴り響く場合、本体内部に接触不良やサビなどが発生している可能性があります。
一方、配線を外してクラクション本体にバッテリーから直接電流を流すと作動するのに、配線を戻してボタンを押すと鳴らない、あるいは鳴ったり鳴らなかったりする際は、ボタンの接点やハンドルスイッチ内の配線の不具合が原因の可能性があります。
多くの市販車のクラクションを回路図でたどると、バッテリーからヒューズボックス、メインスイッチを通過した電源はクラクションボタンにつながり、その先のクラクションを通過して車体アースに接続されています。電源→スイッチ→負荷→アースという流れはブレーキランプと同様です。この回路構成の場合、負荷=クラクション作動に必要な電流がすべてボタンの接点を通過するため、接点が接触するたびに小さな火花が生じる可能性があります。電源がつながったまま被覆を剥がした配線の芯線を接触させると、パチッ!と火花が出るのと同じです。
バイクメーカーが車両開発を行う際はもちろんそうした状況も織り込み済みだと思いますが、クラクションの消費電力や使用頻度を考慮した上でこうした回路を構成しているのでしょう。しかしさまざまな環境で10年、15年と経過する中で、クラクションボタンの接点に不具合が生じることがあるのも事実です。
- ポイント1・クラクションの鳴り具合が悪い時はクラクション本体と操作ボタンの両面からチェックを行う
- ポイント2・バッテリーとクラクションの間に置かれたスイッチ接点には、クラクション操作時の電流が流れるため焼損が起こることがある
接点焼損による接触不良が意外と多いクラクションボタン

同心円上の接点に配線が接続された白い基板とスプリング、接点のついた赤いボタンで個構成されるクラクションスイッチ。ボタンを押すと外周電極→スプリング→赤ボタン接点→白基板中心電極の順に電流が流れてクラクションが鳴る。赤ボタンの接点に注目すると、ヒンジに近い=最初に白基盤側電極に接する部分には金属光沢が見えるが、大半は焼けて黒いススに覆われている。

ポイント点火車のコンタクトブレーカー接点を磨く要領で、電極表面を#400程度のサンドペーパーで擦って酸化皮膜を取り除く。回路の一部になるスプリングと電極の接触部分も忘れずに清掃しておくこと。

接点の表面とスプリングの端面に接点グリスを薄く塗ってスイッチに復元する。、経年劣化による抵抗値の増加により10年、15年と経過した車両では特に不具合を感じていなくても驚くほどクラクションの音が大きくなるものもある。
ボタン側の原因でクラクションが鳴らない際に最も疑わしいのは、接点の焼損による接触不良です。接点の断続時に発生する小さな火花によって接点表面が酸化して、その酸化皮膜により導通面積が減少することで接触時のスパークがさらに大きくなって酸化が進行する。これが接点不良が発生する一例のおおまかな流れです。不動期間があったり保管状況によっては、スイッチボックス内で営巣したクモなどの昆虫類が接点に挟まって接触不良の原因になることもあります。
一時しのぎにパーツクリーナーや接点復活剤をスイッチボックス内にスプレーするという手段もありますが、接点の接触面積が増えるわけではないので本格的に対処するには接点を磨くという根本対策が有効です。ただしスイッチボックスは基本的にアッセンブリー販売品であり、内部を構成する小さなビスやスプリングを破損や紛失した際には部品単位での入手は困難です。また分解修理を前提としていない分、一度ロックした爪を外すのが難しいといった固有の問題もあります。
慎重に取り外したクラクションボタンの接点は黒く焼け焦げており、導通面積の減少によって作動不良を起こしていたのも納得の状態で、サンドペーパーで酸化皮膜を取り除き接点用のグリスを少量塗布したところ、再び大きな音で鳴り響くようになりました。
ボタン接点の焼損は純正クラクションでも発生する可能性がありますが、シングルホーンをダブルホーンに交換するカスタムやモディファイを行う際は、消費電力の増加によって接点損傷の進行が早まるリスクがあります。そのため、ダブルホーン装着時はスイッチ接点保護と電源の安定化のため専用のホーンリレー設置を指示している製品もあります。リレーを設置することでスイッチ接点に流れる電流はリレー作動用の微弱電流となり、クラクションを作動させる大電流は加わらなくなるため、接点保護にとって有効です。
クラクションは使用条件が限定されるため、他の電装品に比べて劣化は少ないですが、それでも時間の経過によってこのように接点焼損が発生することもあります。動作状況が安定しない時には、クラクション本体だけでなくスイッチ側の確認も行うと良いでしょう。
- ポイント1・ハンドルスイッチからクラクションボタンを取り外す際は小さな部品を紛失しないよう気をつける
- ポイント2・シングルホーンをダブルホーンに交換する際は電流量の増加に対応するため専用のホーンリレーを装着すると良い
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