
フロートチャンバー内のフロートの働きでガソリン油面を一定に保っているキャブレター。その油面は高さによって混合比の濃い薄いが変化するため、キャブセッティングにとって重要な要素です。オーバーフローは油面が原因となる不具合の代表格ですが、フローする先は外側だけとは限りません。キャブの形式によってはベンチュリー内に漏れる場合もあるので注意が必要です。
オーバーフローパイプがないケーヒンCVKはエアー通路から逆流することも

カワサキゼファーやゼファーχを初めとして1100ccクラスまでホリゾンタルキャブとして多くの機種に装着されたケーヒン製CVKキャブレター。フロートチャンバー形状がほぼ同一で、チャンバー内部にオーバーフローパイプがあるタイプとないタイプがあるようだ。このキャブにはドレンパイプはあるがオーバーフローパイプがない。

エアクリーナーボックスのドレン穴からガソリンがにじむため確認してみると、ベンチュリーのエアー通路からガソリンが溢れたいた。燃料コックは負圧式なのでエンジン停止時に漏れ続けることはないが、始動してフロートが下がり燃料タンクからガソリンが流れ込むと油面が上がって逆流するようだ。さらに油面が上がってメインノズルから溢れ出すと、燃焼室側に流れ込みエンジン破損につながることもあるので要注意。
エンジンが発生する負圧によってフロートチャンバー内のガソリンが吸い上げられ、ベンチュリーを通過する空気と混ざって混合気を作るのがキャブレターの働きです。そしてフロートチャンバー内のガソリン量=油面は、チャンバー内に浮いているフロートの高さによって一定に保たれています。
具体的には、チャンバー内のガソリンが消費されれば油面が低下してフロートも下がり、フロートバルブが開いて燃料タンクからガソリンが流れ込み、油面が上昇するとフロートも上がりフロートバルブが閉じるとタンクからのガソリン流入が止まります。こうして油面が一定に保たれることで、キャブが作り出す混合比の濃さは安定しています。
もし、何らかの原因で油面が規定値より大幅に低下した状態が続くと、ジェットやニードルの番手を変更しなくても混合比は薄くなります。その理由はベンチュリー底部からガソリン油面までの距離が離れるためです。昔ながらの掘り抜き井戸からポンプで水を汲み上げる際に、深い井戸より浅い井戸の方が容易に水を汲み上げられるのは、深い井戸の中の水にはそれだけ大気圧が加わるからです。キャブレターも同様で、油面が低い=ベンチュリーからの距離が離れるほどガソリンが吸い出されづらくなり、負圧の大きさが同じなら混合比が薄くなるのです。
逆に、油面がベンチュリーに近ければ=油面が高ければ小さな負圧で吸い出されるため混合比は濃くなる傾向にあります。キャブレターのメンテナンスやセッティングで、まず最初にフロート油面を決めるのはそのためです。サービスマニュアルにミリ単位でフロート高さが指定されているのも、バイクメーカーがその油面で基本セッティングを決定しているからです。
油面が高くなると混合比が濃くなるだけでなく別の問題も生じます。それがオーバーフローです。フロートやフロートバルブのトラブルによって燃料タンクからフロートチャンバーに流れ込むガソリンが止まらなくなると、油面は上がり続けます。その際、フロートチャンバー内に設置されたパイプの高さ以上になったガソリンをキャブの外に排出するとオーバーフローとなります。ライダーはキャブの外にこぼれるガソリンに驚くでしょうが、ひとつのサインとしてオーバーフロー状態が把握できます。
しかし中にはオーバーフローパイプを持たないキャブもあります。一例として挙げるカワサキゼファーやゼファーχに装着されたケーヒン製CVKキャブにはオーバーフローパイプがありません。フロートチャンバー底部にパイプがありますが、これはドレンスクリューによってガソリンを排出するドレンパイプであり、オーバーフロー用ではありません。
では油面が高くなりすぎた際のガソリンの行き先は?というと、スローエアー通路とメインエアー通路を通してベンチュリー内に流れ出し、流出量によってはエアークリーナーボックスに流れます。そしてエアー通路内までガソリンが達していると、混合気は相当に濃くなり、スパークプラグのカブリを引き起こす場合もあるので注意が必要です。
- ポイント1・キャブレターにとってフロートチャンバー内の油面高さはセッティングにとっての第一歩となる
- ポイント2・油面が高すぎる際に発生するオーバーフロー。外部に漏れるキャブもあるがベンチュリー内部に溢れるタイプもある
フロート油面と同時にチャンバー内のガソリンを直接測定する実油面も確認したい

フロートチャンバーのドレンパイプにつないだレベルゲージにチャンバー内のガソリンを流すと、標準値(キャブボディとフロートチャンバーの合わせ面から上1.5mm)を遙かに超える11mm近くの位置に実油面がある。これではエアー通路がガソリンに沈んで溢れるのも無理はない。最も疑わしいのはフロート本体の調整板の設定ミスだが、フロートバルブ先端の摩耗による締め切り圧不足も考えられる。

本来、フロートの調整板がフロートバルブのニードルロッドに接した位置でフロート高さを決めるべきキャブレターで、調整板がロッドを押し込んだ状態で調整を行うと実油面は高い方にズレてしまうので、サービスマニュアルで測定条件を確認して作業することが重要。ニードルロッド内部のスプリングのヘタリによって調整板とロッドの接触位置が把握しづらい場合や、フロート自体の浮力低下によってチャンバー内油面が上昇してもフロートバルブを閉じきれないこともあるので、何度調整しても油面が決まらないときはフロートやバルブ自体のコンディションを確認することも有効だ。

フロート根元の調整板は僅かな曲げ量変化が油面に大きく影響するので、ピックツールなどで優しく調整してゲージで測定する。調整板が樹脂製の一体成型フロートを使用するキャブもあり、この場合はフロート高さの測定はできるが調整できない。

オーバーフローが止まらない原因の筆頭に挙げられるのがフロートバルブ不良。先端のニードル部分の摩耗(うっすら白っぽい部分)によってバルブが閉じているのにガソリンがフロートチャンバーに流れ込み続けることがある。相手方のバルブシートの接触面が荒れても密閉性不良となりうる。たかがその程度で、と思うかも知れないが、燃料タンク内に10リットルも20リットルも入ったガソリンに加わる大気圧は大きいので、しっかり閉じなければタンクより低い位置にあるフロートチャンバー内にどんどん流れ込んでしまう。

走行中の車体姿勢変化によってキャブが前後左右に傾くことで油面も変化するが、サービスマニュアルに表記された標準値はエンジン装着時に測定した数値を使用しているため、実油面を測定する際はキャブレター本体をエンジン装着時に近い角度に保っておくことが重要だ。
フロートチャンバー内の油面が既定値より上昇してしまう場合、整備やオーバーホール時の油面調整ミス、フロートバルブの摩耗、フロートバルブシートの摩耗、フロートバルブシートが組み付けタイプの場合のOリング摩耗などなど、いくつかの原因が考えられます。そうしたトラブルを防ぐには、メンテナンス時に各パーツの摩耗、消耗具合を確認してフロートレベルゲージを用いてフロート高さを調整することが有効です。オーバーフローを避けるために、あえて油面を低めに設定する例もあるようですが、先の通り混合比が薄くなるためメーカー設定の基準値内に収めるべきです。
フロートレベルゲージを用いた調整と合わせて行いたいのが実油面の確認です。レベルゲージを用いた調整ではキャブ本体の傾け角度、フロートとフロートバルブが接触する部分のコンディションや、フロートバルブ後端のニードルロッド(プランジャー)内スプリングの経年変化によって測定値が変化しがちです。また、絶版車の中には経年劣化によってフロート本体の浮力が低下したり、真鍮製フロートの場合は小穴が開いてガソリンが浸入しているものもあります。するとゲージ測定上は正しく調整できていても、いざフロートチャンバー内のガソリンに浸けると浮力不足によってフロートバルブが閉じきれず、オーバフローが発生してしまうこともあります。
ドレンパイプつないだレベルゲージにフロートチャンバー内のガソリンを流して行う実油面測定は、ゲージを使った調整やフロートやフロートバルブの状態如何に関わらず、現状のフロートチャンバー内油面が分かる測定方法です。この測定方法を使えるのは、フロートチャンバーに任意に排出できるドレンパイプが設置されたキャブレターのみで、オーバーフローパイプ付きキャブでは測定できません。また、実油面測定が有効なのはサービスマニュアルに実油面値が記載されている場合に限られます。
ゼファーとゼファーχに装着されたケーヒン製CVKの場合、キャブレターボディとフロートチャンバーの合わせ面から下0.5~上1.5mmが標準値となっています。この測定を行う場合はキャブをエンジンに装着した状態、または単体で行う場合はおよその取り付け角度を保った状態で行います。
フロートレベルゲージでしっかり調整したつもりでも実油面が標準値から外れているようなら再度調整が必要です。特に外部からオーバーフローが分かりづらいキャブレターの場合は、実油面を確認しておくことが重要であり有効です。
- ポイント1・フロート油面を決める方法には、フロート高さを測定する方法とフロートチャンバー内のガソリンで油面を測定する方法がある
- ポイント2・フロートチャンバー内のガソリンをレベルゲージで測定する実油面により、フロートやフロートバルブのコンディションに左右されず実態を把握できる
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