交差点を曲がったりコーナリングの際にハンドルが左右にスムーズに切れるのは、ステアリングステムにベアリングがあるおかげです。ベアリングは車体各部に使われていますが、中でもステムベアリングはデリケートで、グリス不足や打痕などの不具合が発生するとさまざまな悪影響が生じます。原付バイクや小排気量スクーターでは軽視されやすい傾向にありますが、適切なメンテナンスが必要なのはスポーツバイクや大型車と同様です。

原付やビジネスバイクのステムベアリングは車重が軽い分ダメージを受けやすい

CT125ハンターカブのように、アンダーボーンフレームのビジネスバイクでもテレスコピックサスペンションを装備する機種は少なくない。ハンターカブのインナーチューブはアンダーブラケットとトップブリッジで固定されているが、自転車のフォークのようにインナーチューブがアンダーブラケットだけでクランプされているモデルもある。スクーターもこの構造が多い。

ステム周辺の部品構成はスポーツバイクと同様だが、外装パーツやハンドル周りにカバー要素の多いスクーターやビジネスバイクはここまで到達するのにひと苦労することが多い。ハンドルやホイールやフォークなどの重量物を取り外すことで、ステムレースの打痕などのダメージを感じ取りやすくなる。アンダーブラケットを右端から左端まで切って、途中でコツンと引っかかりを感じた場合はベアリングレースが傷付いていると思って間違いない。

フックレンチはヘッドナット調整の必須アイテム。分解時はスリットとマイナスドライバーやポンチで叩いて緩めることもできるが、ドライバーとハンマーではデリケートな締め付け調整は難しいからだ。デイトナのスライド式リングスパナは多様なナット径に対応できるモンキーレンチ状のヘッドを持ち、ハンドル部分の四角穴にトルクレンチを差し込むとトルク指定タイプのヘッドナットの締め付けにも使える。

ボールベアリングでリテーナーを使っていないタイプでは、アンダーブラケットを抜き取ると同時に下側のベアリングボールが落下するため、紛失防止のためブラケット下部をバットなどで支えながら作業すると良い。またボールを回収する際はブラケットのレースだけでなくヘッドパイプ側のレースに張りついて残ったボールも取り外してから古いグリスを拭き取る。

フレームのヘッドパイプとステアリングステムの接触部分に組み込まれるステムベアリングは、ハンドルを左右に切る際のフリクションを低減しながら前輪が路面から受けるショックや衝撃を受け止める役目を担っています。ハンドルを切る際はともかく、路面からのショックは空気入りのタイヤやサスペンションが受け止めるものだと思われるかも知れません。

確かにそうですが、フロントフォークを固定するブラケットはステアリングステムを通じてフレームに取りつけられており、両者の接点にはステムベアリングが存在するためフロントフォークに加わる力はステムベアリングを通ってフレームに伝わるという流れになっています。

ステムベアリングはボールタイプとテーパーローラータイプがありますが、どちらも強い衝撃によってレース面に傷や打痕がつくと、ハンドルを左右に切る際に特定の位置で引っかかったり、左右のコーナリングでハンドリングの感覚異なるなどの影響が生じます。ステムベアリングレースに打痕が付くほどの衝撃というと、大転倒や繰り返しウイリーを行った代償を想像しがちですが、もっと軽度な事象が原因となることもあります。

例えば立ちゴケやハンドルを強くフルロックでも、繰り返し行うことでレースを傷つける場合もあります。この動作で注意が必要なのが原付、原付2種クラスのスクーターやビジネスバイクです。

駐輪場などで駐車する際にセンタースタンドで引き起こした流れで、フロントタイヤが浮いた状態でストッパーにガツン!と当たるまで左に切ってハンドルロックを施錠する光景を見ることがありますが、何気なく行うこの動作はステムベアリングにダメージをあたえる原因となります。

ハンドルを大きく切ってロアブラケットの突起がフレーム側のストッパーに当たると、それ以上切れないフルロック状態になります。前輪やフォークの慣性重量が残ったままロアブラケットがストッパーに勢いよく当たると、その力はベアリングとレースにも加わり、減衰する過程でボールやテーパーローラーがレース面に食い込んでしまうのです。

また車重が軽い原付スクーターならではの扱いで、駐車場などでハンドルを引き上げて前輪を浮かせてポンポンと跳ねるように向き換えを行う動作も、日常的に行うことで蓄積的な勤続疲労となります。普通はそんなことはしないと思うでしょうが、集合住宅や駅の駐輪場などで隣同士が密着するような止め方になると、慣れたユーザーほどそうした力ワザに頼りがちです。

サスペンションストロークが大きく車重が重いバイクでは、停車中にハンドルを引っ張り上げて前輪を浮かせるのは至難の業ですが、軽いスクーターやビジネスバイクではそれができてしまうことが、ステムベアリングにとって悪影響につながりかねないことを知っておくと良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・ビッグバイクでも原付スクーターでも、ステアリングステムベアリングの重要性は同様
  • ポイント2・車重が軽く雑に扱われることも多い分、スクーターやビジネスバイクのステムベアリングは受けることも多い

フルカバードボディ車は外装パーツの着脱が大変なことも

据え切り確認で違和感がなくても、レースに残ったグリスを洗浄して表面の状態を確認する。このレースは明らかな凹みはないが、前側にやや陰影がある。指でなぞって凹凸はないないので再使用は可能だが、加減速時に前後方向に力が加わっている影響だと思われる。

レース上下でベアリングボールのサイズが共通の場合、上下にセットする数を確認してから組み立て作業を行う。レース上に塗布したグリスを接着剤代わりにしてボールを並べて、その上からもベアリングでコーティングする。

ヘッドパイプ上側のレースも同様にグリスを塗布してボールを並べて、コーンレースをかぶせて数回回してグリスをなじませる。ステアリング周りに使用するグリスは耐水性と極圧性が優秀なウレアグリスがおすすめ。

ヘッドナットの締め付けはベアリングの部品構成や機種によってまちまち。上側のレースとナットが一体になったトップコーンレース+ステムロックナットタイプの場合、トップコーンレースを規定トルクで締め付けてからロックナットを締める場合もあり、このバイクのようにダブルナット式で締め付けトルクの規定がない場合もある。ダブルナットの場合、レースとボールをなじませるため下のナットを一度強めに締めてから僅かに緩めて、据え切り時の重さを確認してから上側のナットで回り止めをする。この際、面倒でも外装を付ける前にタイヤやハンドルを付けた状態での重さを確認しておくと良い。

排気量が少なく車重が軽いからといって、ステムベアリングの仕事を軽視して良いわけではありません。車重が軽くタイヤ径が小さい原付スクーターの場合、ステムベアリング不良によってハンドルブレを感じやすくなることもあるからです。前輪を浮かせてハンドルを左右に切って、途中で「コツン」と引っかかりを感じる場所があれば、ステムベアリングの確認が必要です。

ただスクーターやビジネスバイクの場合、いわゆるオートバイタイプに比べて車重が軽いのは良いのですが、カウルや外装でステアリングステム周辺がすっぽりカバーされていることが多いのが難点です。スポーツバイクにもフルカウル車はありますが、フロントカウル(アッパーカウル)を外せばフロントフォークやステム周りにアクセスしやすくなるのに対して、スクーターやビジネスバイクはフロントカバーはもとより、ハンドル周りや場合によってはシート方面までパネルがつながっていることもあります。この場合、目的地までたどり着くまでの準備の方が大変、という車種も少なくありません。

ビジネスタイプやスクーターモデルには、画像で紹介しているようにフロントフォークをロアブラケットだけでクランプしている機種もあります。こうしたモデルではロアブラケットを含めて裾の長いフェンダーでインナーチューブ部分をすっぽりカバーしていることも多いですが、ステムベアリングのチェックのためにフェンダーを外したらインナーチューブが点サビまみれだった、ということもあります。これはフォークブーツ付きのフロントフォークをを分解したらインナーチューブがサビだらけだったというのと同じパターンです。

ステアリングステムまで到達すれば、レース面の状態を確認して必要に応じてレース自体を交換し、ベアリングをたっぷり塗布してボールやテーパーローラーを組み付けて復元するという工程自体は、小排気量車でも大型車でも同様です。ただしステアリングヘッドナットの締め付け具合の調整には慎重さが必要です。車重が重く前輪周りの慣性重量も大きい大型車の場合、ナットの締め付けトルクが多少強くても許容される面があります。しかし車重が軽く慣性重量が小さい小排気量車の場合、ナットの締め付けトルクがハンドルの操作性に関与する割合が高くなります。

強く締めすぎればハンドルがスムーズに作動しなくなるだけでなく、路面からの衝撃をより直接的にベアリング部分で受けることになります。一方締め付けトルクが緩ければ加減速時、特に減速時にステム全体が前後方向に動いてしまい違和感や異音が生じると共にレースが傷付く原因となります。

またスクーターやビジネスバイクの場合、外装やハンドル周りのパーツを取りつけるとヘッドナットがまったく見えなくなることも少なくありません。こうした機種の場合、ステム周りと外装パーツを組み立てた後にハンドルの違和感に気づいても、再調整が大変です。

ステムを取り付けた後にフロント周りのカバーを組み付け、最後にハンドル周りの部品を装着するタイプのスクーターの場合、組み立て手順からすると二度手間になる場合もありますが、外装パーツを組み付ける前にフロントフォークやタイヤやハンドル周りを取りつけて、据え切り時の感触を確かめておくのがお勧めです。

スクーターやビジネスバイクのハンドルは自転車と同様にステムパイプの上から差し込むタイプが多いので、外装パーツがなければヘッドナットの微調整は難しくありません。そして納得の重さに調整できたら再度ハンドル周りを取り外して外装パーツを取り付け、改めてハンドルを取り付ければ良いのです。

小排気量車のステムベアリングにそれほどこだわってどうするの?と思われるかも知れませんが、乗り心地の悪いスクーターより快適なスクーターの方が乗っていて気分が良いのは間違いありません。

POINT

  • ポイント1・スクーターなどのカバードボディ車はステムベアリングに到達するまでの外装着脱に手間が掛かる
  • ポイント2・組み立て後の違和感を回避するにはカウルやカバーを装着する前にヘッドナットの締め付けトルクを調整しておく

この記事にいいねする


コメントを残す