
「エンジンの調子が悪い……」という言葉は、今ひとつ、当てにならないことが多い。吹け上がりが今ひとつ良く無かったり、アイドリングしないこともある。果たしてそれがエンジン本体の不調によるものなのか?ここでは、エンジンメンテナンスの基本中の基本、はじめの一歩とも呼べる「コンディション確認」を実践してみよう。
プラグサイズ違いでアダプターがある
三角錐ゴムエンドが付く測定棒をプラグ穴へ押し付けて、コンプレッション測定するアダプターもあるが、プラグネジに締め付け固定することで、作業者が両手を使えるようにしたのがこのタイプのアダプターだ。キックを踏み込む際には、スロットルを全開にして、力強く連続的に6~7回は踏み込まないと正しいデータを測定できない。セルモーターの場合は、バッテリーブースターをつないで、スロットル全開で、元気良く7~8秒は力強くセルモーターを回し続けて測定しよう。
マルチエンジンなら気筒間バランスに注目
単気筒エンジンならデータ測定は早いが、4気筒エンジンなら、同条件で同じように4つのシリンダーコンプレッションを測定しなくてはいけない。CVキャブのデータ測定時は、スロットルバタフライを全開固定にしても、CVバルブは全開にならない。エアークリーナーを外してバルブを強制的に持ち上げることで、厳密なコンプレッションデータの測定が可能になる。4シリンダーの相対比較バランスを知りたい時には、通常のスロットル全開測定で良い。同条件で測定するのが重要なのだ。
信頼の国産メーカー製の接続ホース
三角錐ゴムエンドの測定棒押し付けタイプの場合は、測定アダプターが膨張しない金属パイプ仕様が多い。ところがゴムホースアダプターの場合は、ホース自体の膨張によって測定データにバラツキが出てしまうケースもある。数種類のコンプレッションゲージを準備し、同じシリンダーで、同じように測定しても、ホース本体の膨張状況によって測定値に違いが出てしまうこともある。信頼の国産ゴムホース製アダプターは、膨張が少なく測定データにバラツキも出にくいようだ。
プラグの焼け具合を参考にセッティング
一般的な印象として、小排気量単気筒の旧車エンジンは圧縮圧力が高く、大排気量マルチエンジンの旧車は、圧縮圧力が低いように思われる。したがって4ストロークエンジン同士でも、単純に圧縮圧力データ=数値を比較することはできない。ちなみにハイコンプピストンを組み込んだKZ550の実コンプレッションデータは、ノーマルエンジンに対して200kpaほど高くなった。
- ポイント1・「良い圧縮」が無くては「良い爆発」は得られない!!
- ポイント2・良い圧縮を見極められる圧縮圧力ゲージは、サンメカ&プロメカニックを問わず御用達
- ポイント3・膨張しにくい高性能ゴムホースを使った圧縮圧力ゲージを見極めよう
好調なエンジン三要素と呼ばれるのが「良い燃料」「良い圧縮」「良い爆発」。好調なエンジン三要素と呼ばれても、エンジン本体に直接的に起因しているのは「良い圧縮」ということになる。
「良い燃料」とは、ズバリ=ガソリンのこと。ガソリンがフレッシュなら良いが、何年も走らせないで放置してあったような車両の場合は、ガソリン鮮度が落ち、決して良い燃料ではないことが多い。いわゆる腐りガソリンは、スムーズにエンジン始動できないものだ。臭いが違っていたり、揮発性が低下したガソリンの場合は、タンク内部のガソリンをすべて抜き取り、フレッシュなガソリンに入れ換え、キャブレターの下にウエスを敷き、フロートチャンバーのドレンボルトを開放して、フレッシュなガソリンで古いガソリンやキャブ内部の汚れを押し流してしまうのも良いだろう。
「良い爆発」には前述したガソリン要素も含まれるが、ここで注目している爆発とは、電気系である。良い火花が飛ばない限り「良い爆発」を得ることができない。火花が強いのはもちろん、そのタイミングも極めて重要である。エンジン仕様により異なるが(旧車エンジンなのか?最新型なのか?圧縮比やカムタイミングによっても異なる)、一般的にアイドリング時の点火タイミングは上死点前(BTDC)8度~15度。最大進角は25~30度前後の市販車が多い。ちなみに回転馬力型エンジンの象徴とも呼べる旧車レーシング、ホンダカブレーシングCR110の場合は、なんと「固定進角55度」が標準仕様!!ストリートモデルには進角ガバナが装備されていたが、スーパーカブなどの一般市販車とは大違いな設定数値となっていた。
では「良い圧縮」とは、どんな状況なのか?そんなエンジンコンディションを知るために必要不可欠なのが「圧縮圧力計=コンプレッションゲージとかコンプレッションテスター」と呼ばれる特殊工具=計器である。スパークプラグを取り外し、プラグ穴に指先を軽く当てて、キックアームを踏み込んだり、セルスターターボタンを押すことで、ポンポンポンッと圧縮している様子は窺い知ることができる。実は、元気に聞こえるような音にも違いがあり、それを数値に置き換え、目で見て確認することができるのがコンプレッションゲージの特徴だ。
過走行によってピストンリングが摩耗したり、吸排気バルブシートとバルブフェースがベタ当たりで、圧縮漏れしてしまうこともある。そんなネガティブな要素の積み重ねによって、圧縮コンディションに変化が生じ、徐々に悪化していくものなのだ。コンプレッションデータは、それぞれのエンジンによって異なるもの。その標準数値や部品の使用限度数値は、バイクメーカー純正のサービスマニュアルに記載されたデータを参考にするが、何より実測しなくては、状況判断はできない。
エンジン始動後、ある程度の暖機運転を行った後に測定するのが一般的である。単気筒エンジンなら、シリンダーはひとつだから良いが、2気筒エンジン以上の場合は、すべての気筒で実測し、データ比較するのも重要である。コンディション低下したエンジンでは、標準圧力に対して明らかに数値が低下し、マルチエンジンの場合は、数値がバラバラになってしまうケースもある。
ボアアップやハイカムなどのキットパーツを組み込んだチューニングエンジンの場合は、試運転&セッティングが出た後に、組み込み以前のデータやサービスマニュアルの標準データに対して、現状がどのように変化したのか?確認しておくことも大切である。
4ストロークエンジンの調子の良し悪しは、コンプレッションデータを知ることや、マルチエンジンの場合は、気筒間バランスによっても状況判断できるので、エンジンメンテナンスが大好きなサンデーメカニックにとって、コンプレッションテスターは、極めて重要な特殊工具のひとつと言うことができる。
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