クロームメッキは金属パーツならではの重厚感を演出するのに最適な表面処理の一種です。その大敵であるサビがなぜ発生するのか? 補修テクニックとして知られる「再クロームメッキ」とはどんなことをするのか? またどの程度のサビが補修できるのか? 絶版車や旧車オーナーにとって気になるクロームメッキの再メッキについて、経験豊富なメッキのプロ「NAKARAI」に解説していただきました。

人間の目には目に見えない小さな孔から浸入する水分で「下地」から錆びるクロームメッキ

ヤマハが1968年に発売したHS1は、2ストローク90cc2気筒エンジンを搭載したスポーツモデル。90ccらしからぬ質感の高さが特長で、前後フェンダーをはじめ各所にクロームメッキパーツが装着されている。再メッキ作業で使用しているパーツもHS1用だ。

遠目ではそれほど酷いサビがあるようには思えないが……。

半世紀も前の旧車や絶版車ならこの程度のサビは珍しくない。クロームメッキの点サビは前後フェンダーやハンドルバー、アンチモニー製のウインカーボディなどあらゆるパーツに発生するリスクがある。

フェンダーの端部は雨天走行時に跳ね上げた雨水や泥が残って湿気が溜まることが多いため、表側だけでなく裏側からサビが進行して穴が空くことも多い。

金属部品の表面を保護すると同時に美しい見た目を与える表面処理には、塗装やアルマイトやメッキなどいくつかの方法があります。このうち、鉄製部品に美しい輝きを与える表面処理として知られているのがクロームメッキです。

水溶液中に銅、ニッケル、クロームといった金属のイオンを置き、ここに金属部品を投入した上で電気を利用して金属被膜を形成するのが、電気メッキの一種であるクロームメッキのメカニズムです。鉄製部品の上に金属被膜を形成するため、質感は金属そのものであり、クロームの光沢により強い輝きを放つのが塗装との大きな違いです。

そんな美しいクロームメッキですが、手入れが悪かったり長い時間を経過すると表面に点サビが発生することがあります。その理由は、平滑に見えるクロームメッキ表面には目に見えないほど小さなピンホールが無数に存在するためです。これはメッキを施工する際のテクニックうんぬんではなく、メッキの特性上避けられません。

クロームメッキ表面の孔のサイズは大きなものでも8μmほどですが、一般的な装飾クロームメッキの被膜は0.02~0.5μmとごくごく薄いため、場合によってはメッキの厚みより大きな孔が空くこともああります。

そしてここから水分や湿気が浸入して下地のニッケルメッキや素地まで到達すると、腐食が発生して点サビとなってメッキ表面に現れるのです。

一度サビが発生したクロームメッキ部品は、ワックスやコンパウンドで磨いても元には戻らず、新品当時の光沢を復活させるには「再メッキ」を行うしかありません。ペイント部品が傷んだときに再塗装を行うのと同じです。ただし再メッキはどこでもできるわけではありません。

クロームメッキの保護や研磨を行うメッキング、ミガキング、サビトリキングのトリプルキングシリーズでお馴染みのNAKARAIは、祖業が各種メッキの施工を行うメッキのプロフェッショナルとして長い歴史を重ねてきました。それゆえ、デリケートなクロームメッキの再メッキについてのノウハウも豊富です。そこで、絶版車にありがちな前後フェンダーのサビをサンプルに、再メッキ工程の流れを解説していただきました。

素材のダメージは傷んだメッキを剥離して初めて分かる

点サビとくすみがあるとはいえクロームメッキ被膜が残る作業前から一変、メッキを剥離してスチール素地が剥き出しになるとツヤ感もなく実に味気ない。この状態でバフ研磨をして素地が平滑になれば再メッキが可能だが、腐食で大きな穴の空いた後端の補修が必要だ。

細かい模様のような斑点状の部分はサビによるえぐれ。メッキを剥離したので僅かに浅く見えるが、これだけ深いとバフ研磨でも平滑にならないというのがNAKARAIの見立て。

再メッキを行う際は下地を整えるために古いメッキを剥離します。クロームメッキの場合、一般的には鉄素材の上に銅メッキ、ニッケルメッキ、クロームメッキの順で3層の金属被膜が形成されています。このうちクロームメッキとサビは塩酸で剥離し、ニッケルメッキと銅メッキは専用の剥離剤で溶解します。これらの設備はメッキ工場にしかないものです。

メッキを剥離すると金属素材が現れ、3層のメッキを貫通して食い込んだサビの程度が明らかになります。サビが強烈に酷い場合は素材を貫通することもあり、そうでなくてもクロームメッキ表面に点サビとして確認できるものは、ほぼ素材に食い込むサビとなっています。

次に下地を整えるためにバフ研磨を行います。バフ研磨はアルミパーツなどで行ったことがあるライダーもいるかもしれまんが、アルミに比べて表面が遙かに硬い鉄素材を平滑に削るのは大変です。また、サビが食い込んだパーツをバフ研磨する際は、基本的にサビ孔の底まで平らにしなければなりませんが、硬い鉄を削り続けるにはたいへんな時間が掛かり、元の素材の厚さにとサビの程度によっては、部品が薄くなってしまうリスクがあります。プレス成型されて前後フェンダーはそれほど厚くないので、サビをならすことに注力しすぎるとフェンダー自体の変形につながる恐れもあります。

サンプルの前後フェンダーの場合、フロントの状態は比較的良好ですが、リヤのサビは全面的に深く進行しており、中でもフェンダー後端は表裏両面から進行したサビによって大きな穴が空いており、状態はかなり深刻です。当然ですが、穴の空いた部品にメッキをしても、穴が埋まることはありません。

NAKARAIならネットワークを活用した切り接ぎ鈑金も可能

走行中に雨水が溜まる折り曲げ部分と、剛性確保(ビビリ音防止?)で重ね合わせてあったフェンダー後端を切断して、新たに製作した部品を溶接してサビ穴の補修を行った。鈑金補修が必要な場合は都度見積もりとなる。フェンダーや自動車用のスチールバンパーなど、実はメッキの一皮だけで形状が保たれているような部品が来ることもあるが、NAKARAIでは事情を説明してメッキを行わず返送する場合もあるそうだ。

切り接ぎ鈑金の後にバフ研磨(粗目)を行った状態。剥離した直後に比べるとピンホール状のサビ孔は目立たなく感じるが……。

旧車や絶版車になると、たとえ穴の空いたパーツでも代わりがないためどうしても使いたいという場合もあります。そのような場合、メッキを剥離した後のコンディションにもよりますが、NAKARAIなら独自のネットワークを活用した補修ができる場合があります。

ここで紹介しているのは「切り接ぎ鈑金」と呼ばれる補修方法で、サビで腐食した部分を切除して新たな材料を溶接した上で、元のフェンダーと同様の形状に鈑金成形しています。金属部品の上に金属イオンを被膜として形成する電気メッキは、ガソリンタンクの凹みを埋めるような樹脂製のパテには付かないため、金属で鈑金補修するしかありません。

それにしても、フェンダー後端は切除して新たに製作したとは思えないほどの素晴らしい仕上がりです。これも昔からメッキ作業を行ってきたNAKARAIならではの技術といえるでしょう。

先に、古いメッキを剥離して素材表面を露出させた状態でバフを掛けると説明しましたが、実際には切り接ぎ鈑金を行った後に全体をバフ研磨でならしています。

通常の「再メッキ」では根の深いサビのツブツブを消し去ることが難しい

再クロームメッキの光沢が美しい分、ブツブツの残念度が際立つ。素地のバフ研磨でサビ孔が潰せるのか、銅メッキを重ねて埋まるのかはメッキ職人しか判断できない部分。

一般的な再メッキは以下のような工程で進行します。

「メッキ剥離」→「バフ研磨」→「銅メッキ」→「再研磨」→「ニッケルメッキ」→「クロームメッキ」

バフ研磨によって素材表面が平滑になっていれば、再メッキも平滑に仕上がります。しかし素材表面にサビが食い込んでいるような場合は、たとえひとつひとつの凹みが浅くてもクロームメッキ表面がブツブツに仕上がってしまいます。これは素地のサビ孔が反映された状態で、全面的に光沢はあるものの今ひとつな仕上がりと言わざるを得ません。

もっと入念にバフ掛けを行えばサビ孔が目立たなくなる可能性もありますが、先の通り素材自体が薄くなるのと同時に作業時間増加によるコスト増が問題となります。また3層のメッキのうち、下地となる銅メッキを繰り返し行って厚みを稼いで孔を埋めてからバフ研磨を行うという考え方もありますが、メッキはサビ孔の凹みに沿って付着していくという特性があるため、何度重ねても平滑になることはありません。また銅メッキとバフ研磨を繰り返し行うことも、経験上有効策にはならないそうです。

そこで、NAKARAIでがこうしたサビ部品に対して「補修メッキ」という独自の手法を用いた再メッキを行っています。

独自開発のパテと塗料で素材表面を整えてクロームメッキを行う「補修メッキ」

通常の再メッキでは消えなかったツブツブのサビ痕が完全に消える補修メッキ。この美しさは新品パーツ同様と言っても過言ではない。パテが入るもののクロームメッキの表面は金属被膜なので、重厚感と質感は抜群だ。

金属部品にクロームメッキを初めとした電気メッキが可能なのは、金属には導電性=電気が流れる性質があるからです。一方で鈑金補修に用いられる一般的なパテの主成分は樹脂なので、電気は流れずメッキも載りません。そのため従来はバフ研磨で消えない点サビは諦めるしかありませんでした。

NAKARAIならではの補修メッキは、電気メッキにも関わらず「パテ」や「塗装」を行うのが大きな特長で、作業工程は以下のように進行します。

「メッキ剥離」→「バフ研磨」→「パテ盛り」→「通電塗料」→「無電解メッキ」→「銅メッキ」→「再研磨」→「ニッケルメッキ」→「クロームメッキ」

メッキ剥離とバフ研磨でサビ孔を取り切れないと判断した際に使用する「パテ」や「塗料」はNAKARAIの特注品で、通常の鈑金塗装用の材料とはまったく成分が異なる専用品です。ただし施工自体は鈑金塗装と同様で、サビによる無数のブツブツにパテを擦り込み平滑にならして、通電塗料で塗装することでさらに表面を整えます。

塗装面に導電性があることで無電解メッキが可能となり、その上の銅メッキ被膜以降は通常の再クロームメッキと同じ流れで進みます。

パテによってサビ孔を埋めてしまうことでクロームメッキ被膜にブツブツはなく、美しさは新品パーツと同様です。パテや塗料の塗膜が付く分、素材の形状によってはシャープさが若干低下する場合もありますが、塗装とは異なる重厚感のある金属光沢は大きな魅力です。

工程数が複雑で一般にはない材料を使用することから、補修メッキのコストは通常の再メッキの2~3倍、メッキの厚さは約2倍となるため、程度が悪いクロームメッキパーツはすべて補修メッキを施せば良いとは言い切れません。素材の状態があまりにも悪ければ、別の中古部品で再メッキを選択した方がコスト面でも仕上がり面でも納得いく結果になるかも知れません。

このあたりは経験豊富なNAKARAIに遠慮なく質問するのが良いでしょう。錆びたクロームメッキパーツを数限りなく見て対応してきたNAKARAIなら、どんな手段で再生するのが最適か、的確な答えを導き出してくれるはずです。

再メッキでも目に見えないピンホールはどうしても発生する。ここで有効なのがメッキング。新品のうちに水分や湿気の浸入を防止するコーティング被膜を作っておくことでサビを予防できる。

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